第10話 メアとカラオケ−B
「ひばりせんぱああああああああい!」
メアは思わずひばりに抱きついた。
「えっ? どうしたの一体!? 何があったワケ!?」
突然の再会に驚いているのはシアだけでなく、ひばりも同様だった。
「うん? 焼肉定食なんて頼んでないはずだけど……ところで店員さん、あなた誰かに似ているような――」
「それでは失礼しました!!」
ひばりは穂波と美咲に気づき、メアに抱きつかれたまま慌てて部屋の外に出た。
✕ ✕ ✕
「メア! なんであんたがあの二人と一緒にいるの!?」
「うぐっ……えぐっ……ご、合コンです……」
ひばりがメアをトイレに連れ込んで問い詰めるとメアは泣き出して経緯を全て話した。
「なるほど。メアは合コンをお見合いみたいなものと勘違いしていたんだね。それで、あの二人の話を偶然聞いて、興味本位で参加してしまった、と……」
メアの話を整理したひばりは納得したように頷く。
「それより、先輩はどうしてここに? まさか、先輩も合コンですか?」
「違うわい。あたしはここでバイトしてんの。ここなら学校からも遠くて知り合いも来ないと思ったんだけどなぁ」
「何故、バイト先を学校から遠くにした方が良いのですか?」
「あたしが学校にバイトやってるの隠していること知ってるでしょ? だから、バイト中は出来るだけ学校の関係者に会いたくないの」
「ああ、そういう理由だったのですね」
「一瞬だけどあの二人に顔を見られた。正直、今の状況はあたしにとって結構やばいんだね。悪いけど、メア、部屋に戻ったら上手いこと誤魔化しておいてくれない?」
「ほええっ!? わたくしですか!? む、無理です。あの魔窟にはもう戻りたくありません!」
メアは泣きべそをかきながらひばりの腰をがっしりと掴んで床に座り込んだ。
「は、離しなさい! あたしだって今バイト中なんだから! つーか、魔窟って何!?」
「あそこは魔窟なんです。男と女が血で血を洗う戦いを繰り広げる恐ろしい場所です」
「(メアの奴、よっぽど合コンがトラウマになっているのか……)」
「せ、せんぱい……どうしてもわたくしに行けと言うのなら、あの合コンを乗り切る術を教えてください。でないとこの手は離しません」
「あんた、意外と面倒くさいな……」
メアと目を合わせて、潤んだ瞳で無言の脅迫をするシアにひばりは参ってしまった。
「しょうがない。アドバイスはしてあげるよ」
ひばりがそう言うと、メアはひばりの腰から手を離し、祈るようなポーズでひばりを見上げた。
「ああっ! ありがとうございます先輩! 先輩が女神さまに見えます!」
「悪魔が女神に祈ってどうすんだよ」
ひばりはメアに呆れながらも、手のかかる妹が出来たような気分になり、やれやれとため息を吐く。
「(さて、合コンなんてあたしも参加したことはないし、どうアドバイスをしたものか……)」
メアに何かいいアドバイスをしようと考えたひばりの頭に一つの案が思い浮かんだ。
✕ ✕ ✕
「た、ただいま戻りました〜」
それからしばらくして、メアは魔窟に戻ってきた。
「おっ、メアちゃ〜ん! 遅かったじゃん! 体調悪いの? それなら俺が家まで送っていくよ!」
「いいえ、その必要はありません。もう平気ですから」
メアはきっぱりと断り、空いている席に座る。
メアのいない間にメンバーの席替えがされており、穂波と美咲にはそれぞれ男子がついていた。
「じゃあ、俺がメアちゃんの隣いただき〜って、おっと!」
一人の男子がメアの隣に座ろうとするが、同時にシアは立ち上がって美咲の隣に移動した。
「美咲さん、さっきの店員さんなのですが……」
「ああ、あの人だね? なんだか私のクラスメイトに似ていたような気がしたけど」
「あの人はひばり先輩のお姉さまでした。わたくしも先輩とは見知った仲でして、思わず先輩と勘違いして抱きついてしまいましたが、まさかお姉さまだったとは気づきませんでした」
「そういえば、夜鷹さんにはお姉さんがいると噂で聞いたことがあるね。顔は知らないけど」
「このお店でアルバイトをしているそうです。他にも色々なアルバイトをして、家族のためにお金を稼いでいるそうですよ。ひばり先輩はそんなお姉さまの代わりにいつも家で家事をしているらしいです」
「それは立派なお姉さんだね。夜鷹さんにそんな事情があったなんて知らなかったよ。男と遊んでいるとか変な噂を鵜呑みにしてしまっていて夜鷹さんに申し訳ないことをしたかも」
美咲はメアの言葉を信じたようで、本当に申し訳なく思っている表情をしていた。
「(即興で思いついた言い訳ですが、上手く誤魔化せたようで良かったです。……そして、ここからが先輩にもらったアドバイスを実行する時!)」
突然、メアがテーブルに身を乗り出しす。
「皆さま! これから王さまゲームをしませんか!?」
メアは右手に握った割り箸の束をその場の全員に見せつける。
「「ア、アスモデウスさん!?」」
穂波と美咲は今まで黙っていたメアが唐突にレクリエーションを始めようとしたことに驚いていた。
だが、メアがすかさず二人にウィンクをすると、何かを察したようにニヤリと笑みを浮かべた。
「いいじゃんいいじゃん! 俺こういうの好きだよ! メアちゃん、意外と場の盛り上げ方わかってんね〜!」
「では、まずはあなたからどうぞ。赤い印がついていれば王さまです」
メアが差し出したくじを男子の一人が引くと、その割り箸には三番の数字が書かれていた。。
「では、次に穂波さん、お好きなものを引いてください」
メアは穂波にくじを差し出し、二人は目を合わせる。
穂波は最もメアに近い位置にある割り箸を選ぶ。
すると、それには赤い印がついていた。
「はい。次の方です」
それから、全ての人がくじを引き終わり、王さまが名乗りをあげて命令をする番となる。
王さまを引いた穂波は三番を引いた男子に熱い視線を向けた。
メアはそれに気づいてテーブルの下に左手を忍ばせ、指を三本立てる。
「それでは! 王さまだ〜れだっ!」
「私だよ!」
一瞬だけ俯いた穂波は満面の笑みで名乗りをあげる。
「王さまの命令! 三番の人は私の隣に来ること!」
三番は先程メアの隣に座ろうとしてきた男子だった。
男子はメアの隣を諦めることになり、若干残念そうな表情で穂波の隣に移動した。
そして、これは全て、ひばりのアドバイスを参考にしたシアの作戦だった。
ひばりのアドバイスは「周囲を自分のペースに巻き込む」。
その一つだけだった。
魔窟を寝袋一つで闇雲に探索するよりも、自分が絶対安全になれるキャンプを建ててそこを拠点に探索する方が楽になる。
メアはそのアドバイスに従い、王さまゲームというレクリエーションを提示して場の主導権を握り、イカサマで穂波たちの手助けをすることにより、自らの優位性を確固たるものにした。
穂波が三番の男子を狙っていることに気づいたメアは二人の距離を縮める手伝いをしたことで穂波からの信頼を得た。
今、メアは合コンという魔窟で荒れ狂う獣たちを統率する立場となったのである!
「次はカラオケでもしませんか? せっかくカラオケ店に来たのですし」
「それもそうだな! じゃあ早速、メアちゃんから一曲お願いしようかな!?」
「はい!」
メアはマイクを手に取り、そこで気づく。
「(……しまったです。わたくし、この機械の使い方、全くわかりません)」
カラオケ端末の使い方がわからず、メアの手が止まる。
「どうしたのメアちゃん? 曲を考え中だったら、俺が先に歌おうか?」
「いえ! 最初に歌うのはこのわたくしです!」
だが、カラオケをしようと言い出した者の使命がメアの身体を突き動かした。
メアはマイクだけ持って立ち上がる。
曲は選択していない。
「おおっ!? まさかまさかのアカペラかああああっ!?」
メアの行動をパフォーマンスだと思い込んだ男子たちがかつてない盛り上がりを見せる。
「(わたくしが歌えるものといえば、魔界に伝わる子守唄『セイレーンのララバイ』。これしかありませんが、こうなったらやるしかありません!)」
✕ ✕ ✕
十数分後、ひばりはバイトの暇な時間を利用してメアの様子を伺いに来ていた。
「(メア、上手くやっているのかな? 不安になって来てしまったけど、杞憂だといいな)」
ひばりがメアのいる部屋の前に着くと、部屋のドアは何故か開いていた。
「……あ……あっ……あんっ……んあっ……」
ドアの奥から女の喘ぎ声が聞こえて、ひばりの額にじわりと汗が滲み出る。
「も、もしかして……」
カラオケボックスというのは当然のことながら音が外に漏れないようになっている。
そんな密室で愛に飢えた男女がやりそうなことは容易に想像が出来る。
「そこの男共! 今すぐメアから両手を放して頭の後ろに回しなさい!」
ひばりは強烈なヤクザキックで扉を蹴破る。
何かが爆発したような音が部屋に響き渡り、部屋の中にいた者たちは一斉にひばりを注目した。
「ひっ!? ひば――夜鷹さん!? どうしたんですか!?」
メアの声が聞こえてひばりはシアを発見した。
しかし、メアはどこも乱暴をされたような様子はなく、表情も元気そうだった。
「メア……じゃない? だとしたらさっきの声は……」
「えぐっ……あうっ……んあっ……」
よく見ると、マイクを握りながら穂波が泣いており、それを美咲が背中を撫でて慰めていた。
「えっ? 何があったの?」
「実は魔界に伝わる魔術の歌を歌ってしまいまして、その歌は男性を惑わせる効果があるのですが、どうやら効きすぎてしまったみたいで歌を聞いた方々はあのように……」
メアが指差す方を見ると、床に男子たちが生気をなくしたような姿で倒れていた。
「ううっ……今回の合コンは成功すると思ってたのに……店員さ〜ん! ジンジャーエールおかわりぃ!」
「は、はいっ! ただいまご用意いたします!」
メアの歌で男子が気絶したことにより、合コンが失敗した穂波はボロボロと涙を零しながらやけ酒のようにジンジャーエールを呷る。
ひばりはそのまま傷心の女子二人の気が済むまでドリンクを運び続けることになったのだった。
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