第14話 お待たせ

あれから数日経ち、金曜日になった。


今日は彼女に必ず会えるよう仕事を早めに終わらせられるように努める。


あの店はワイン自体は安物で味はまあまあなのだがユキさんと飲んだ時、美味しく感じた。


今日こそ落とそう。

そう思った俺は普段よりいいスーツで来てしまった。

そんなに気合を入れたって分からない女には分からないんだけどな。


俺はパキッとヘアスタイルを決め直し、外に出る。


秋の少し冷たい匂いが鼻を通り肺に入る。


何年これを繰り返したのだろうかあまり考えたくはないが、どうしても“秋”の時期になるとふと思ってしまう。



寝た寝たー。


今日は家を早めに出て本屋に行くことにした。

お目当はワインの本。


こんなに長いこと生きてきてワインというものにあまり興味を持ってこなかったけれど、久寿さんと飲んでから興味を持つようになった。


私は本屋に入り食の部門へ、足を進める。


現代はすごい本が多いよなぁ。

しかもカラフルで写真付き。

見てるだけで楽しいから、たまに内容が分からなくても買っちゃう。


食の部門の棚にはワインの本だけでも30冊近く置いてあり、私は1番読みやすそうなものを選び購入した。


長いこと選びすぎて、お店についたのがいつもより少し遅れてしまった。


ユキ「お腹減った…。」


ギュルルとお腹が鳴る。


今日は買っておいたメカジキを醤油とバターで炒める。

お米も昨日のうちに予約しておいたからバッチリ。


洋風っぽいからインスタントのコーンスープも飲もうかな。


やかんに水を入れ沸かし、その間買ったワインの本をかばんから出して中身を読み進めていく。


ユキ「ふーん。重めと軽めがあるんだ…。」


この間買ったワインはどちらなのか気になり、確認してみる。


これは軽めなんだ。


いつも値段やラベルの可愛さで選んでいたから、気にしたこともなかった。


[ピィー…ィィィィイイイ!]


お湯が沸いたことを知らせてくれたので、カチッと火を止めてカップにお湯を入れる。


久しぶりにコーンスープ飲むかもな。


そう思いながらカウンターに座り、本を読む。


後少ししたら約束の時間になるし、少し待っていよう。


ここ最近、久寿さんに会えることが楽しみになっていた。


けど近づきすぎてはいけないので、私の気持ちにしっかり鍵をかけて閉じ込める。


いつもやってきたこと。

だから今回も仲良くするだけで恋はしない。


いつもの私は大丈夫。



少しこの間より遅れてしまった。


せっかくタクシーで向かったのに渋滞して時間がかかる上にいつもより多い値段を払う。


時間を買ったのに損してしまった。


自分から約束しておいて待たせてしまうのは申し訳ないな。


俺はあの階段を登り、ガチャっと扉を開けた。

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