第13話 星空
あのコップ半量を飲んでから数日、体の調子がいい。
この頃、俺は栄養剤を数日おきに飲むようにしている。
体の調子が良くなったのは嬉しいが、血を飲んでいる罪悪感と普通の人間ではなくなってしまったと、ふとした瞬間思い出してしまう。
けど、この血がなくなってしまったらどうやって摂取すればいいか分からない。
とりあえず、あれから医学の本を読み漁っている。
どうにかして血液だけもらえないだろうか?
医者はやはり資格がないと出来ないよな…。
日が出ている時間帯に外出すると、日除けをしても体調が悪くなるのでここのところ家の中にいる。
今でも好きな図書館も病気の具合が悪いと言って辞めてしまった。
一応数年は生きていける貯蓄はある。
生活が困窮する心配はないけど、どうしたものか。
しかしカーテンから漏れる日差しで分かるいい天気な日に、華さんと出かけられないのが残念だ。
外に行こうとなると夜の暗い時間。
女性を連れ出すには不適切な時間帯なので最近は家の中にしかいない。
ただ一緒にいられるだけで嬉しいはずなのに、申し訳ない気持ちになる。
俺がそう思っていても華さんはいつも笑顔で接してくれてはいるが、俺のことを不満に思っているだろう。
俺よりちゃんとした人と一緒にいればいいのに、もっと視野を広げれば華さんと似合いの人がいるはずなのに…。
俺は生き返る意味があったのか?
1人だとマイナスな事ばかり考えてしまう。
でも、華さんが幸せに人生を過ごしてほしいと思うのは一番。
多分、あの日で俺と華さんが過ごせる時間はとっくに終わっていたのかもしれない。
俺が華さんと一緒にいたいから、吸血鬼という化け物になってまで今も一緒にいるなんておかしんじゃないだろうか。
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数か月時が経ち血がなくなり、また始めの時のように自分が痩せ細っていくのが分かる。
この頃は華さんに悟られないように長袖に厚着をして体形がばれないようにしていた。
血がなくなり数日経つと、体から求めているのが分かるように喉が乾いたり、体の内側から震えだしたりして自分が怖かった。
始めの頃にはこんなことはなかった。
多分血を飲んだことで、本当の栄養を体が知ってしまったのだろう。
ここ最近は華さんまで家からあまり出ないようになり、俺とずっと一緒にいる。
今日もいつものように一緒に布団の上で本を読み進めていく。
華「いっ…。」
と、華さんが急に声を出したので見ると指を切ってしまった様子。
[ドックン…]
目が血から離れなくなる。
ダメだと分かっているのにどうしようもない。
久寿「絆創膏持ってきますね。」
華「ありがとうございます。」
その場から無理やり体を引き離し、絆創膏を取りに行く。
華さんでなかったらかぶりついていたかもしれない。
自分が怖い。
いつの日か我を忘れて、華さんを襲ってしまうのではないか心配だ。
俺は華さんの傷を手当し、元の位置に戻る。
久寿「もしよかったら、今日外に行って星を見に行きませんか?」
華「いいですね!行きましょう。」
華さんがあの優しい笑顔で答えてくれた。
もうこれ以上、付き合わせてはいけない。
大切な人が幸せになれるなら俺は離れて見守ることにする。
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華「わぁ、綺麗ですねー!」
久寿「そうだね。」
少し歩いたところの丘のてっぺんで星空を見る。
夜の7時であればまだ女性を連れていても大丈夫だろう。
星に夢中の華さんの顔を俺が夢中で見る。
キラキラと輝く星が華さんの瞳の中に映って、とても綺麗だ。
この最後のデートは忘れないよう、一時一時を大切に過ごした。
家に帰り、少し遅い夜ごはん。
華さんと一緒に作ったのは、さんまの塩焼き。
最後の二人の食事だと思うとより、一層美味しく感じて目が潤む。
俺は美味しくて意味のない米のおかわりを二回してしまった。
大切に過ごしてたこの一日は、普段より早く感じてしまった。
一人の時の自分は時間なんて何も考えず、心臓のガタが来たら人生終わりと思っていたのに、華さんに出会ったことでちゃんと時間を大切にすることが出来た。
…一人でずっと生きていくと思っていたのにな。
いつもより遅い就寝。
華さんはいつも以上にウトウトしているがなぜか寝てくれない。
しかも。今日に限って抱き着きながら、ろれつが回っていない声で今日のことを話す。
なにかは分かっていないのだろうが、本能的に勘づいているのかもしれない。
俺は華さんのぬくもりを感じながら寝るのを待ち続ける。
そうして。華さんの声が聞こえなくなったことに気づいたのは夜中の3時。
だいぶ時間が経ってしまったが、出る準備は済ませておいたのであとは置手紙を書くだけ。
『華さん、これから幸せになってください。』
今日読んでいた本に挟み、分かりやすいように俺がいた布団の上に置いておく。
久寿「ありがとう。」
俺は唇にキスをして、一人で家を出た。
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あれから数か月、病院を開いて献血が出来るようにするため必死に活動していた。
俺が開業の作業をしていると噂話をしている人が建物を通りかかり、たまたま耳にしてしまった。
『ひきこもりの夫が行方不明になったその日に奥さんが自害した。』
という話。
あの街からだいぶ遠いこの街にやってきたからそんな都合よくあの街のうわさが聞けるわけない。
でも、もしかしたら?
胸騒ぎがして、いてもたってもいられずに華さんのいる街に向かった。
数か月ぶりのあの家。
夜なのに真っ暗で人がいる感じでもない。
俺は静かに玄関を開けて中に入ると、中の家具の上に埃避けの白い布がかぶせられていた。
人がいるような気配は一つもない。
寝室があった場所に行くと布団と血だらけの床。
その血の香りはあの時切った指から出た血と同じ匂いがしていた。
もうこの世に華さんはいなくなってしまった。
そう確信した。
朝が明ける前に元の家と華さんの実家にこっそりお線香をたてに行き、あの街に戻った。
俺はあれからずっと機械のように働き、エネルギーの血を補給するだけになった。
女性と遊ぶのも気まぐれでゲームの一環。
いままでもこれからも変わらない、何のために生きればいいのか分からずにここまで来てしまった。
この命を渡す術もまだ使えない。
自害したら華さんの想いが無駄になる。
ただそれだけで生きてきた。
今もこれからも、どうすればいいのか俺は分からない。
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