第5話 土鍋

朝ごはんの後、私の家まで陽馬さんが送ってくれることになった。


すると、まさかの20分くらいで着くことが分かった。


こんなにも近いところに住んでいたとは。


陽馬「ユキさんも1人暮らしですか?」


ユキ「はい、そうなんですよ。」


陽馬「もしよかったら今日も会えませんか?」


ユキ「うーん…。」


昨日助けてもらったけど、すぐに信用していいのだろうか。


陽馬「忙しいですよね!すみません。また会えるの楽しみにしてます。」


じゃあまた、と言い陽馬さんは家に帰って行った。

私は見えなくなるまで陽馬さん見送った。


とてもいい人ではあるけど、昨日の今日でまた会ってもいいのだろうか。


…でも、一人でいるのも寂しく感じる。


家に入り、いろりに火を焚く。

家では生地を作っていて、お母さんから教えてもらった織り方を上手だと褒めてくれたお父さんと昔3人で住んでいた。


今まで堪えてた何かが弾けて、涙が溢れ出てくる。


…こんなに涙もろかったっけ。

目の前がゆらゆらする。


今日はもういいや。

本当は仕事をやらないといけないけど、今日やったらだめなものになる。


私は布団を出してすぐに潜り込む。

初めて仕事さぼってしまった。


ずっと張り詰めてきたからなんだか疲れてしまった。

朝だけど、寝ちゃおう。



ん…、ん?

結構寝た気がする。スッキリした。


外に出て時間を確認すると日が暮れ始めてきていた。


だいぶ寝てしまった。

とりあえずお腹空いたからなにか作ろう。


今は大根がたくさんあるから、とりあえず煮物にしよう。


[コトコトコト…]


陽馬さんなにしてるかな。

まだ仕事してるのだろうか。


…行っちゃおうかな。


なんだかゆっくり寝たら心のもやもやが晴れて、陽馬さんに会いたくなってしまった。


今日は自分が思うまま行動してみよう。


気持ちが変わらないうちに準備していく。

うちの特製梅干しと今作った大根の煮物を持って陽馬さんの家に行こう。


雪で大根の煮物が入った土鍋を冷やし、風呂敷に包み持ちやすくした。


今家に行っているかどうか分からないけど、行くだけ行ってみよう。


私は今日の朝来た道を戻る度、なんか鼓動が速くなる。

緊張なのか、雪道のせいか、陽馬さんのせいか。


ただ会いたいと思いながら夜ごはんを抱え歩いていく。


陽馬さんの家が見えた。


少し駆け足で扉の前に着き、声をかけてみる。


ユキ「ユキです。いますか?」


物音が聞こえない。


多分、仕事に出ているんだろう。

残念だけど今日はおとなしく帰ろう。


私はそのまま、その足で自分の家に引き返す。


家まであと半分くらいかな。

…土鍋、重いな。

ちょっと休憩しよう。


[ザッザッザッ]


少し休憩をしていると人が走るような音が聞こえてきた。


「ユキさん!」


後ろを振り返ると、陽馬さんが走ってきていた。


ユキ「どうしたんですか!?」


陽馬「いや、家の前に足跡があって、それがユキさんの家の方向に戻って行ったからもしかしてと思って。」


ハアハアと言いながら笑顔で陽馬さんは話してくれる。


しかもここまで急いで来たのか荷物も置かず、走ってきたみたいだ。


私の事を思って走ってきてくれたと思うと、心がじわぁっと暖かくなった。


陽馬「その大きい風呂敷なんですか?」


ユキ「あ、これ一緒に食べれたらいいなと思って持ってきました。」


陽馬「え!ありがとう!食べよう、食べよう!」


わあっと一段と笑顔になった陽馬さんが私の膝の上にあった、土鍋入りの風呂敷を持ち上げる。


陽馬「こんなに重いの持ってきてくれてたのに、家にいなくてごめんね。」


ユキ「いえいえ!私が勝手に来ただけですから。」


陽馬「最初に誘ったのは私だからさ。申し訳ない。ユキさんの家に向かうかい?」


ユキ「はい。行きましょう。」


陽馬さんに会えただけで元気出た。

しかも一緒にごはんを食べれることになった。


嬉しいな。昨日から夢見てるみたいだ。


家について、私がお米を炊こうとすると陽馬さんがやると言う。


私はその言葉に甘えて大根の煮物を温めることにした。


2人のごはんの準備が出来たので、茶碗など用意していく。


うちでは久しぶりに2つずつ出した。

こんな些細なことでも人を感じられるのが嬉しい。


「「いただきます。」」


昨日からとても幸せだ。

人とご飯を食べれること、陽馬さんといられること。


とても嬉しい。


陽馬「大根とても美味しかった。ご馳走さま。」


ユキ「ありがとうございます。」


なぜか、少し沈黙の時間が流れる。


陽馬「ご馳走になったから、茶碗洗うよ。」


ユキ「いいですよ。置いといてください。」


陽馬「ううん。私がやりたいだけだから。」


と言い、陽馬さんは茶碗を持っていき、洗い出した。


これ洗い終えたら帰ってしまうのだろうか。

それは寂しい。

どうすればまだいてくれるだろうか。


[ビュオォォォォォ…]


風が強い?


私は玄関を少し開けてみると、さっきまで晴れていたのに急な吹雪になっていた。


ユキ「とても吹雪いているので、よかったら泊まっていきませんか?」


陽馬「いいのかい?それじゃあお言葉に甘えよう。」


嬉しい。

吹雪、ありがとう。


布団の準備をするけれど、使える布団が一つしかない。


ユキ「布団一つしかないんですけど、大丈夫ですか?」


陽馬「ユキさんが大丈夫なら私も大丈夫だよ。」


ユキ「分かりました。」


暖を取るために囲炉裏の火がなくならないようにしたり、なるべく温まるように服を重ねる。


今日はとても冷えるな。


私は布団に潜り先に温めておく。


しばらくすると囲炉裏の火番を終えた、陽馬さんが入ってきた。


そしてまた背中合わせで温まる。


陽馬「おやすみ。」


ユキ「おやすみなさい。」


優しい陽馬さんの声を聴いて眠りに入る。


本当幸せだ。

これがずっと続けばいいのにな。

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