第21話 アクアパッツァ

「お待たせしました。」


と、店員さんが飲み物をそれぞれ持ってくてくれた。


久寿さんには、赤ワイン。

タカヒロさんには、ハイボール。

私は梅酒。


この3人の特徴が出ているのか、久寿さん一人で注文したのに迷わず店員さんが渡してきたのでびっくりする。


久寿「個展、お疲れ様。」


ユキ「お疲れ様です。」


タカ「ありがとうございます!」


カチンと軽くグラスをぶつけて乾杯する。


少し無言な時間がちょっと気まずい。


やっぱり…、まだ日の浅い知り合い同士だったから

限界があったかな。


タカ「久寿さんは、今日お仕事休みだったんですか?」


久寿「いや、終わらせてきた。」


タカ「うわ!かっこいい。僕も言ってみたいなー。」


久寿「タカヒロは絵を描くのが本業なのか?」


タカ「いえ!他の仕事もしつつの絵描きもやってるんです。」


久寿「なるほど。今後は絵を本業にするのか?」


タカ「んー…なんだろ。決まった枠にはまりたくなくて、自由にやりたいんです。描きたいときに描いて、生きていく分だけのお金を少し稼げればそれでいいかなと。」


久寿「それは、絵を売ったりしてなんとかならないものなのか?」


タカ「僕の絵を良いと言ってくれる人は、少人数なので。安定して稼げるわけじゃないので悩みどころですよね。」


笑いながら答えていくタカヒロさん。

その笑顔が魅力的でずっと目が惹かれてしまう。


久寿「そういうものなのか。芸術で飯を食うのも難しいんだな。」


タカ「そうですねー。人がなにか感じてくれて、それをお金で評価してくれてるのでだいぶ難しいと思います。」


久寿「俺は君の絵、好きだから今後も続けてほしいな。」


タカ「ありがとうございます!ちまちま描いていきますね。」


二人はこの間知り合ったとは思えないほどスムーズに友人のように話進める。


人同士であれば躊躇なく仲良くしようと思えるのにな。


タカ「ユキさんは絵を描いたりしますか?」


と、突然タカヒロさんに質問された。


ユキ「いえ、見る専門ですね。」


タカ「そうなんですか!そっか、そっか…。」


と言い、何か考え始めた。


「お待たせしました。アクアパッツァと…」


店員さんが頼んだものをテーブルに持ってきてくれた。


テラテラと鯛が輝いていて、見てるだけで美味しい。


ユキ「…美味しそう。」


久寿「アクアパッツァは初めてか?」


と、次に久寿さんに質問された。


ユキ「料理本では見たことありましたが、実物は初めてです。」


久寿「そうか!たくさん食べよう。」


久寿さんがみんなの分を盛り付けてくれる。

フォークとスプーンを使い、手慣れた様子で盛り付けるのが不覚にもカッコいいと思ってしまう。


きっと普段からやっているから出来るんだろうな。


久寿「はい、どうぞ。」


ユキ「ありがとうございます。」


「「「いただきます!」」」


ふわっとした鯛の身を一口入れる。


ユキ「美味しっ…!」


美味しさにびっくりして、目が見開く。


鯛なんかずっと食べてこなかったな。

一人じゃ食べきれない大きさだったから、買い物をしていた時も見向きもしなかった。


タカ「美味しいですね!久寿さんさすがです!」


久寿「今の時代は店を探すのに、人に聞かなくていいから楽だな。」


タカ「え!久寿さんって何時代の生まれなんですか!」


と、タカヒロさんが楽しそうにつっこむ。

それを久寿さんは明治だよと冗談を言う。


自分のお店以外で人とご飯を食べるのは久しぶりだな。


しかもこの二人は私ばっかりに話しかけずに自由に会話のキャチボールをしていて、聞いているだけで楽しい。


これが居心地いいんだろうな。


久寿「ユキさん、おかわりする?」


ユキ「はい!」


私は今日を楽しい思い出の1ページにするために笑顔で過ごした。


二人と元の時代で出会っていたら友達になれたんだろうか。


そんな叶いもしない現実を瞬間に想像してしまった。

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