第22話 トランプ

「美味しかったですね!」


と、気持ち良い笑顔でタカヒロは言う。


おまけ付きだったけれど、ユキさんと外でディナーが出来てよかった。


タカ「どこかで飲み直します?」


久寿「タカヒロ、飲めないのに無理するな。」


タカ「いや、2人といると楽しいんですよ。だからもうちょっといたいなって。」


よく恥ずかしげもなく言えるなぁ…。


タカ「ユキさんはこの後予定ある?」


ユキ「いえ、特に…。」


タカ「久寿さんは?」


久寿「俺もない。」


タカ「え!じゃあ、もしよければなんですけど、ユキさんのお店で飲みませんか?お店は開けずに。」


俺と似た発想をするんだな。


久寿「ユキさんが迷惑でなければ俺も賛成だ。」


タカ「どうですか?」


タカヒロがそう聞くと少し悩むユキさん。


ユキ「…では、お店のお酒ではなくどこかスーパーで買いましょう!」


今日はなんだかノリがいいユキさんだな。

タカヒロの強引さがこのユキさんを引き出してくれているのかもしれない。


タカ「やったー!じゃあ行きましょう!」


と3人で電車に乗り、ユキさんのBARに向かう。


最寄りについて、近くの酒屋で各々好きな酒とツマミを買って、店にユキさんが先に入り電気をぱちっとつける。


また今日もなんだかんだ来てしまったな。


ユキ「船出しますね。」


タカ「船?」


ユキ「あ、まだ飲まないお酒を氷水につけて置こうかなって。」


タカ「あ、じゃあ僕、氷入れますよー。」


タカヒロに先手で動かれてしまった。


俺はその後にグラスや酒用の氷を準備していく。


タカ「じゃあ、もう一回。カンパーイ!」


「「乾杯。」」


タカヒロの音頭でもう一度乾杯する。


これで2人っきりなら最高なんだけどな。

それか、タカヒロを寝かすか。


そう考えたけれどその夜は3人でダラダラと話したり、店にあったトランプで遊んだり、この長い年月やってこなかった楽しい事を2人が提案してくれた。


俺には今ビジネスだけの知り合いはいるけれど、こんな風に友人はいなかった。

いたら俺の若さに驚くだろうし、大切な友人の死を何十回も見なければいけない。


大切な人の死をなるべく見たくなかった。


多分、華さんの死から俺は全く成長していないんだと思う。


ただの薄っぺらい関係である程度楽しめればよかった。


だけど…、最近この2人に出会ってしまってこの居心地良さがたまらない。

もっと一緒にいたいなって思ってしまう。


この2人の死に際を見る覚悟が俺にはあるのだろうか。


ユキ「はい。久寿さん。」


ユキさんが俺の前にトランプ二枚を目の前に出した。


どっちかがババ。


久寿「こっち。」


ユキ「よし!」


ババを引いてしまった。

俺はババとハートの3を混ぜる。


よし。賭けよう。


俺が負けたら、2人と友人になる。

ユキさんが負けたら、ユキさんと寝てそれ以降ここに来ない。


ユキ「んー…。」


ユキさんの指が俺のトランプの上で行ったり来たりする。


ユキさん…、頑張れ。


ユキ「こっち!」


ピッとユキさんがトランプを取り確認する。


ユキ「やったー!」


タカ「わー!おめでとー!久寿さんパシリー笑」


俺は鼻で思わず笑ってしまう。


久寿「10秒以内にそこのメモに書け。全部おごりだ。」


俺はカウントダウンをして、2人がメモするのを待つ。


ああ、いつまでこうやって過ごせるんだろうか。


この時間が永遠になってほしい。

でも人間は老いていき、俺を置いていく。

これが正しい決断なのか分からないが、今の時間を楽しもう。

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