第11話 準備

あれから華さんのご両親に挨拶をして、結婚の話を進めていった。


そんな中、華さんとは俺の家で一緒に暮らしている。

まだ結婚の儀式を交わしていないが、二人で過ごす時間はとても心地よい。


この頃、西洋の文化が取り込まれてきてドレスか白無垢か華さんは悩んでいた。

こちらとしてはどちらも見たいので、明日試着して選ぶことになっていた。


華「ごはん、出来ましたよ。」


と、華さんが呼びに来てくれた。


久寿「ありがとう、今行きます。」


今日はアサリの炊き込みご飯にかつおのたたき。

よく旬のものを使った料理を作ってくれる。


久寿「いただきます。」


華「どうぞ、召し上がれ。」


ここ最近は華さんがご飯を作ってくれるので本当にありがたい。


明日は早めに台所に立ち、俺が作ってあげよう。


何がいいかな?とごはんを味わいながら考えてみる。


珍しく西洋の料理を作ってみようか。


久寿「明日は俺が晩ごはん作るから、華さんはゆっくりしててね。」


華「え!いいんですか?」


久寿「うん。何か食べたいのあるかな?」


華「うーん、コロッケ食べてみたいです。」


久寿「分かった。作ってみますね。」


明日、午前中に図書館で調べておこう。

初挑戦だから難しそうだなと話しながら楽しい夕食は終わった。


夜はいつものように読書を華さんと一緒にする。

会話はないが同じ部屋に華さんがいることだけで幸せと感じられる。


[ドックン…]


急に心臓が暴れだした。

ダメだ、今はまだ死にたくない。

だけどなにも出来ない。


俺が倒れ込むと、華さんは必死に俺の名前を呼ぶ。


ごめん。

もっと一緒にいたかったのに体が言うこと聞いてくれないんだ。


出来ることなら華さんを看取れるまで生きていたかった。

もっと幸せになってほしかった。


本当にごめん、もっと強く生きれたら華さんを泣かせないのに。


目の前が真っ暗になり、俺は意識を落とした。



[ドックン!]


久寿「はぁ!!」


長いこと息が出来なくて、思いっきり息を吸う。


俺は息を整えてながら何が起きたか分からずにいた。


ここは病院?


「お兄さん行くよ!」


と、小さい子どもが指先をハンカチで拭きながら話しかけてきた。


けれど、状況が分からずに混乱していて言葉が出ない。


もう!と言って、子どもは俺の手を引き病院を出る。


俺は子どもと一緒に走りながら思った。


…なぜ、俺は走り続けても心臓が痛くならないんだ?


そう考えながら走り続けると俺の家に着いた。


「お姉さん、帰ってきてると思うよ。」


久寿「ありがとう…?」


子どもと家に入ると泣いている華さんがいた。


子どもは俺たちのことに気づいていない華さんに駆け寄り俺を指す。


すると、涙で目が真っ赤の華さんがこちらを向き、俺に駆け寄って勢いよく抱きつかれて、さらに涙を流す。


全くなにが起きているのか分からない。


華「本当に生き返ったんですね。」


「うん、だから大丈夫って言ったでしょ。」


どういうことなのか話を聞くと、俺は一度死んでしまったらしい。


あの夜、倒れた後病院で息を引き取った。

華さんは俺の死に顔を見れなくて少し夜風に当たるために外を歩いている時、あの子に出会った。


すると、子どもは生き返らせてあげると言って病院と名前を聞いてどっかに行ってしまい、華さんはとりあえず家に戻り、気持ちを落ち着かせてからまた病院に行こうとしていた所に俺と子どもが戻ってきたらしい。


ほんの数時間の出来事だったらしく、なんだか分からないが俺は生き返れた。


子どもに生き返れたお礼を言うと、


「お兄さんは吸血鬼にこれからなるんだ。」


と、子どもは小説にしか出てこない生き物に俺はなると話した。


俺は何言っているのか分からなかったが、多分この子どもが生き返らせてくれたのだからちゃんと話を聞くことにした。


「これからだんだん太陽が出てる場所にはいられなくなる。多分1ヶ月したら完全に無理になると思う。そして血がこれから必要になってくる。しかも人間の血。

猫や犬でも大丈夫なんだけど栄養が少なくてどうしても人間の血じゃないと死んでしまうからだめなんだ。だから、これからの生活は普段通りにはいかなくなる。」


久寿「吸血鬼って、あのおとぎ話で出てくる吸血鬼のことなのか?」


「うん。でも永遠に生きれるわけじゃないよ。僕は1週間したら死ぬから。」


久寿「なぜ?」


「お兄さんを生き返ってもらうために儀式しちゃったからさ。」


久寿「儀式ってなんだ?」


「心臓側の胸見てみて。傷が5つあるでしょ?」


俺は服を脱ぎ、左胸を見ると丸いへこみのある傷が5つあることに気づく。


「僕の左手の指先を切って、心臓に直接吸血鬼の血を流すと死んでから3時間以内であれば生き返るんだ。」


久寿「…でも、なんで俺を助けたんだ?君が死んでしまうのに。」


「もうたくさん生きたからそろそろ譲りたいなって思ってたんだ。で、ちょうどお姉さんが困ってたからお兄さん助けたんだ。」


信じがたい話だが信じないとなぜ俺が生き返れたのかが分からない。


「でもこの方法は吸血鬼として200年くらい生きないと使えないからね。お兄さんは長生きして、幸せになってね。」


久寿「ありがとう。」


子どもはバイバイと言って、家を出て行ってしまった。


まだこれが夢なのではないかと思いながら、泣き止んでくれた華さんと布団に入る。


華「ごめんなさい、本当に生き返るとは思わなかったです。」


久寿「謝らないでください。これで華さんとまた過ごせるなら文句なんてないです。」


目を腫らした華さんを抱きしめながら俺は眠りについた。


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