第7話 真実

また一日が始まる。


朝日が差し込み、私は珍しく陽馬さんより早く起きたので朝ごはんを作ることにした。


[コトコト…]


ご飯を蒸らし始め、そろそろ陽馬さんを起こさないと思い、体をゆする。


ユキ「陽馬さん、朝ですよー。ごはん出来てますよー?」


いつも寝起きが良く軽く声をかけるだけで、起きる陽馬さんなのに全く起きない。


変だと思い、横向きで寝ている陽馬さんを仰向けにしてみる。


…普段より肌が白い?


ユキ「おーい、陽馬さん?」


胸のあたりをとんとんと軽く叩く。


起きないなぁと思い、なんとなく胸に手を置いたままにしてみる。


…鼓動が感じない。


嫌な予感がして口元に手をかざす。


…息をしていない。


目の前が真っ白になった。


そんなわけがない。昨日まで生きていたのに。


嘘、ウソ、うそ…。


冗談やめて、晴馬さんらしくないよ。

朝ごはん一緒に食べようよ。

ねぇ。陽馬さん。



現実が受け入れられず5日たった。

涙は流れなくなって、生きている私はお腹が空く。


陽馬さんと食べようと思っていた朝ごはんは冬だけど腐り始めている。


私はなんとなく外に出てみると、また外が吹雪いていた。


…薄着でいたら寝ている陽馬さんが助けに来てくれるかも。


私は部屋着の薄い着物で何も履かずに外に出る。


もう寒さを感じれなくなってしまったのか、薄着でも寒くない。


とぼとぼと歩き、自分の家に向かう。


きっと、陽馬さんが走って迎えに来てくれる。


そうやって、もう叶わない期待をずっとしてしまってる。


[ザッザッザッ]


誰かが走ってくる音が聞こえる。

あの日を思い過ぎての幻聴なのだろうか。


「おねえちゃん!」


小さい女の子の声が私に向けて声を投げる。


私が声がする方向を向くと、6歳くらいの小さい女の子が立っていた。


どうして私に話しかけてきたんだろう…。

全く関わりがない子だ。


「おねえちゃん、ごめんなさい!あたし、しらなかったの。」


なぜか女の子が大粒の涙を流している。

全く分からない。


ユキ「お話聞くから私の家においで…。」


泣いてる女の子の手を引いて、久しぶりに自分の家に帰った。


じぶんで囲炉裏に火をつけてお茶を作り、女の子に渡す。


温かいお茶を飲んだ女の子はすこし落ち着いたのか泣き止んでくれた。


「あのね。あたしのせいなの。」


ユキ「なにがあなたのせいなの?」


全く知らない子に何かされた覚えはない。


「おねえちゃん。1ねんまえくらいに、ふぶきのなか、たおれてたでしょ?」


私はこくっと頷く。


何でこの子が知っているんだろう。


「そのときにね。あたし、おねえちゃん、たすけようとおもって、ちをわけたの。」


ユキ「どういうこと?」


全く話が読めない。


「あたしが、おねえちゃんのこと、ゆきおんなにさせちゃったの。」


ユキ「え?」


[ガラッ!]


突然、勢いよく玄関の扉が開くと女性が立っていた。


その女性は高身長で長い黒髪をキュッと上げ綺麗に整えていて、素敵な着物を着ていたけれどなぜか防寒着を着ていない。


「申し訳ありませんでした!」


と、その女性は玄関前で土下座した。


びっくりした私はとりあえず立ってもらって中に入れる。


どういうことか話を聞くと、その高身長の女性はこの女の子と一緒に暮らしていてここの近所に住んでいるらしい。


もともと隠れて暮らしていたけれど、人がいない夜に女の子を一人で遊ばせていた時、女の子は倒れて死にそうな私をある方法で雪女にしたという。


「左胸に虫刺されみたいな跡ありませんでしたか?」


と、女性は昔の記憶を聞いてきた。


記憶を遡ると確かにあった。

それが雪女になるためのした儀式をした痕跡らしい。


ユキ「でもなんで助けてくれただけなのに、その子は自分を責めているんですか?」


「雪女の能力をあなたは知らないの?」


ユキ「知らないです。」


雪女は、雪が降る日には雪を操れたり、冷たい息を吹きかけて相手を殺したり、男の精を吸い尽くして殺してしまうという。


女の子はそのことを詳しく知らずに、ただ寒さに強い人間になれるんだと思い私を助けたらしい。


「ごめんなさい。お話しするのが遅くなってしまって。いつもあなたは人と一緒に過ごしているから話す機会がなくて…。」


女性の話を全て信じるのであれば、私が陽馬さんを殺したことになる。


ユキ「すみません、一人にさせてください…。」


二人はずっと謝っている様子だったけれど、私はなにも聞こえなくなっていた。


私が陽馬さんを殺してしまった。

ずっと一緒にいようと約束した日に。


また涙が出てきた。

大切な人は全員いなくなってしまった。


もう生きたくない。


寒さで死ねないのなら、食べなければいいや。

もう何もやる気が出ない。


硬い床の上にそのまま横になり、気を失うように私は寝てしまった。



[コトコトコト…]


何か煮ている匂いがして目覚めた。

そこには、さっき帰ったはずの雪女の二人が料理をしていた。


私はゆっくり体を起こす。


なぜここにいるんだろう。


「あっ!おはよう!」


女の子が私が起きたことに気づいた。


ユキ「おはよう。なんでここにいるの?」


「すみません。昨日からあなたのことずっと見ていてごはんを食べている様子がなかったので、もしかしたらお腹を空かせていると思って作りました。」


二人は囲炉裏で一人分の雑炊を作っていた。


この人たちなりに私のことを思ってくれている。

せっかく作ってもらったから食べよう。


ユキ「ありがとうございます。」


雑炊を作り終えた二人は私が昨日一人になりたいと言ったからすぐに帰ってしまった。


私は一人で鍋から雑炊をすくい、茶碗に入れて口に雑炊を運ぶ。


ふんわりと優しい味が口の中に広まった。


ひさしぶりにご飯を口に入れた。


体が欲していたのかどんどん食べ進めてしまう。


美味しい…。


雑炊を食べ進めると私は生きる活力が湧いてきてしまった。


陽馬さんを埋めに行こう。

道具を持って陽馬さんの家に向かう。


2晩くらい時間をかけて堀った穴に手伝いをお願いした雪女の咲さんと一緒に、棺桶へ陽馬さんを寝かせる。


私たちは手を合わせて、土を入れていく。


もう陽馬さんはこの世にいない。


声は出さず、気づかれないように涙を流していたけれど、多分気づかれていただろう。


咲さんはそれでも何も言わず、ただ手伝い続けてくれた。


埋葬したあとは遺品整理をしたけれど、物が少なく数時間で終わった。


ただただ陽馬さんは私との二人の時間を大事にしていたので、物を買うより思い出を作りにいくことが多かった気がする。


あのかんざしは陽馬さんからもらった唯一の宝物。

今でもずっと持ち歩いている。


埋葬後、私は咲さんたちとしばらく暮らしながら毎日陽馬さんのお墓に行っていた。


しかし年月が経つにつれ、お墓の近くに家が建つようになり、私たちの存在を隠すために転居することになった。


毎日は行けなくなったけれど月命日と命日には必ず行く。

それは今でも。


陽馬さんが亡くなってから何度か男性に声をかけられたけれど、あの日を繰り返さないように断り続けていた。


また人を好きにならないように私は心を完全に閉じて今を過ごし続けていた。

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