第8話 シロップ
あのオムライスは美味しかった。
美人というだけで今日は会いに来たが、食事を作ってもらい、話をしているうちにひとりの人間としてとても魅力的だと思ってしまった。
魅力的だからこそ、自分の中に好意が生まれてしまうのが怖い。
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あれは150年くらい前、まだ俺が図書館で働いていた時代。
俺は子供の頃から心臓が弱く、男がよくやる体を使った仕事は選べなかった。
そういう体でもともと本が好きということもあって、小さい頃から図書館に通い続けて知り合いだった館長がこの仕事を誘ってくれた。
人がいなくて時間があるときは、本を読むことが出来るので俺はとてもこの仕事を気に入っていた。
休館日以外、仕事に来ているのだがその中で毎日図書館に来ている珍しい女性がいた。
その女性は、記録によると
毎日2冊借りていき、次の日には2冊返していた。
しかし、いつも元気がない様子だったので勝手ながら俺は華さんを心配をしていた。
ある日彼女が借りた本が、俺がとても気に入っている本だったので、『とても面白い本ですよ。』と初めて私的な話を投げかけてみた。
すると、いつも俯きがちな彼女と初めて目が合った。
華「そうなんですね。楽しみです。」
とだけ華さんは言い、帰っていってしまった。
次の日、また今日も彼女が図書館に来た。
そしていつものように本を選んでから受付に来た。
華「この本、とても良かったです。」
そう言って華さんは返却する本を指した。
久寿「よかった。」
俺が笑顔で言葉を返すと、彼女も笑顔で答えてくれた。
その初めて見た笑顔は、とても可愛らしい素敵な笑顔だった。
華「おすすめの本、教えてもらってもいいですか?」
久寿「もちろん。また明日来たら教えますよ。」
華「ありがとうございます。では、また明日。」
この日から彼女と俺はよく話すようになった。
彼女が受付に来た時や、本の場所を案内するだけの関係で図書館でしか会えないのをだんだんと俺はもどかしさを感じ始めた。
本格的に夏が始まり、じんわりと汗をかく季節になった日に俺は華さんをデートに誘ってみることにした。
久寿「華さん、今度一緒に冷たいものでも食べに行きませんか?」
そう言うと華さんはびっくりした顔をしていたが、すぐに行きましょうと答えてくれた。
久寿「明日、休館日なので俺は休みなんですが、華さんはどうでしょうか?」
華「明日だと、14時頃からであれば大丈夫です。」
久寿「じゃあ、14時頃にこの図書館前で待ち合わせでいいですか?」
華「はい。」
華さんは嬉しそうな笑顔で返事をしてくれた。
俺も華さんと出かけるのが嬉しくてしょうがなくて自然と笑顔になる。
じゃあまた明日と、華さんは笑顔のままその日は帰っていった。
次の日。
図書館の前に俺は早めに到着した。
早め早めと思っていたら、30分前についてしまった。
読んでいる途中の本を持ってきて良かった。
ペラ…ペラ…
夏特有のじんわりした暑さも本を読んでいると忘れさせてくれる。
ふと首が痛いなと思い、首を回すと隣に華さんが座りながら本を読んでいた。
久寿「わっ!いたんですか!」
華「はい。声かけたんですが、集中しているようだったので。」
図書館の玄関上にある時計を見ると15時になっていた。
久寿「すみません、気づかなくて。」
華「いえいえ、楽しいですよ。」
にこにこ笑っている華さん。
その笑顔に俺は助けられる。
二人で本を閉じ、行きましょうと足を進める。
俺は館長に教えてもらった、自家製の果物シロップを使っているかき氷屋さんに行く。
果物が一つ乗ってくるので、この街で結構人気なかき氷だ。
久寿「少し並んでしまうけど、大丈夫ですか?」
華「はい。ここ来たかったんです。」
と、華さんは嬉しそうに話す。
良かった。
私も初めて来たので楽しみだ。
10分くらい待ち、中の席へ案内される。
氷を扱っているからか、なんとなく涼しい。
久寿「どれにしますか?」
俺は品書きを華さんに見せる。
うーん、と悩む顔がまた可愛らしい。
華「スイカにします。」
久寿「へぇ、スイカなんてあるんですね。俺はレモンにしよう。」
お店の方に注文し、品物が届く。
華さんのカキ氷は丸くくり抜かれたスイカがポンと頂上に乗っていて、俺のは薄切りにされたレモンが乗せられていて、どちらも淡い綺麗な色をしていた。
久寿「とても綺麗ですね。」
華「そうですね。とても綺麗ですね。」
いただきますと言い、華さんはキラキラ目を輝かせながら細長いカキ氷特有の匙で食べた。
華「美味しい!」
とても感激している。
それほど美味しいのだろう。
自分もカキ氷を口に運ぶ。
久寿「うまぁ…い。」
酸っぱ甘い、夏の定番になりそうな美味しいカキ氷だった。
久寿「レモンも食べてみますか?」
華「あ、じゃあ私のもどうぞ。」
交換して食べたスイカのかき氷も美味しい。
シロップのおかげでスイカの甘みが増している。
そのかき氷を食べている間、色々と華さんと話をした。
好きな食べ物や、読んだ本のこと、とても楽しく居心地が良かった。
少しして、2人とも食べ終え店を出る。
[ありがとうございましたー。]
美味しかったですねと、かき氷の余韻に浸りながら少し散歩する。
まだ一緒にいたいという気持ちがあるが迷惑ではないだろうか。
華「またどこか一緒に行きませんか?」
と、俺が言おうとしていたことを華さんが言ってくれた。
俺はもちろんすぐに、
久寿「はい!また行きましょう。」
と、言ってまたデートする約束をした。
この日を境に休館日は華さんとよく出かけることになった。
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