第19話 楽しみ

私の心配は必要なかったみたい。

二人は仲良く話している。


というより久寿さんが7割、私2割、タカヒロさん1割で話している。


けど、みんな楽しそうに話せているから良かった。


そんな久寿さんとタカヒロさんは正反対の見た目と性格だけど、なぜか気は合うみたい。


久寿「あ、そういえばユキさん。この間の個展行けそう?」


急に久寿さんが話を変えてきた。


何も知らないタカヒロさんにお構いなく聞いてきたことに私は驚いて、すぐに返事が出来なかった。


タカ「へえ、どんな個展に行くんですか?」


久寿「知り合いの絵の個展だよ。で、どうかな?」


タカヒロさんはへぇー!と言って、あしらわれてることを気にしている様子はない。


ユキ「木曜日なら大丈夫です。」


久寿「分かった。じゃあ、夜の8時に駅前で待ち合わせね。」


タカ「残念。僕、ちょうど予定入ってる。」


久寿「誘ってないぞ。」


タカ「そんなこと言わないでくださいよー。」


あまり悪い雰囲気にならなくて良かった。

その日の夜は3人で閉店ギリギリまで楽しい時間を過ごした。


タカ「じゃあ、僕金曜日来れそうだったらまた来ますね。」


久寿「私もその日行くから、またよろしく。」


ユキ「はい。では、またお待ちしてます。」


私は二人を見送り看板をクローズに…、あれ?まただ。


最近抜けてるのかな。



木曜日 駅前 19:30


やっとこの日が来た。

長かったが、やっとデートが出来る。

この時間帯はもう肌寒くなってきたな。


いつも薄手のワンピースのユキさんだけど、今日は秋服の少しモコモコしたユキさんが見られるかも知れない。


楽しみだ。


「あれ、久寿さん?」


後ろから俺の名前を呼ばれ、振り返るとユキさんがいた。


少し肌寒くなって、周りの人はカーディガンやストールで暖を取っているのに、ユキさんはニット生地だが半袖のワンピースを着ていた。


寒くないのだろうか…?

それか暑がりでまだ半袖でいたいのだろうか?


久寿「早いな。危うく待たせるところだったな。」


ユキ「いえいえ。この時期の夜は過ごしやすくて好きなので外にいたいんです。」


多分、暑がりなんだろうなぁ。


久寿「20時からその個展が開くから、どこかのカフェで時間潰そうか。」


ユキ「はい!そうしましょう。」


目的地の個展に近づきつつ、目に入ったカフェに二人で入る。


久寿「何がいい?」


ユキ「うーん、これのショートにします。」


指を指しながら教えてくれたのは季節限定の梨のフローズンシェイク。


寒くないのだろうか?


久寿「分かった。カフェラテのホット、この梨のをどちらもショートでお願いします。」


「はい。ありがとうございます。お会計が859円です。」


久寿「スマホ決済でお願いします。」


「はい。こちらにタッチお願いします。」


店員が操作しながらピピピッと精算の準備をする。


俺の隣でユキさんは自分の分を払おうと、財布の中の小銭を集めていた。


[ピピッ]


久寿「いいよ、私が誘ったから。来てくれたお礼。」


ユキ「え!ダメですよ!自分で払うと思ってたから高いの頼んじゃったじゃないですか!」


と、ユキさんが焦る中、あちらでお待ちくださいと店員に促され受け取り場に移動する。


久寿「いいんだって。ユキさんが喜んでくれるならなんでもするよ。」


ユキ「えー…」


不服そうな顔をしながらなにか考えるユキさん。


ユキ「ありがとうございます。ご馳走になります。」


と、申し訳なさそうに折れてくれた。


その横で店員が出来立てのドリンクを渡してくれたので、俺はユキさんにドリンクを渡す。


久寿「どういたしまして。出来れば嬉しそうにしてほしいんだがなぁ。」


少しわがままを言いながら席に座り、まだ申し訳なさそうにしているユキさんは一口そのドリンクを飲むと、


「美味し!」


と、初めて飲んだのか、素直な気持ちが前に出るユキさん。


今日誘って良かったな。

初めてみるユキさんをたくさん見る。


物静かで落ち着いた女性だと思っていたが、表情がコロコロ変わって一緒にいてとても楽しい。


オープン時間になるまでカフェで過ごし、目的の個展に向かった。


久寿「ここだよ。」


外観から洒落ているな。

ガラス張りの玄関からまあまあな人が入っているのが見える。


ユキ「結構人気な絵描きさんなんですね。」


久寿「そうみたいだな。」


すると中から一人、勢いよく扉が開き外に出てきた。


「ユキさん!久寿さん!この間ぶりです!」


あの日会ったタカヒロが出てきた。


なんでここにいるんだ…。


俺はショックでしばらくの間、時間が止まった。

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