あの可惜夜が繋げてくれた
環流 虹向
第1話 始まりの夜
この間から趣味でBARを始めた。
けど、夏の残暑と体の動きが鈍くなるし、体調が良くないことが多い。
だからお客さんが来ない限り、冷房は16度。
涼しいのがやっぱり心地よい。
もう少しで訪れる秋はまだ過ごしやすい。
秋の匂いもたまに冬の匂いもする、この感じ好きだなぁ。
私のお店は雑居ビルの3階にあって、階段で来ないとお店には入れない。
そんなめんどくさいお店に来てくれたお客さんの観察をするこの夜の時間が大好きなの。
今日はお客さん来てくれるかな。
夜ご飯作りながら待とうっと。
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今日の会食はハズレだったな。
持ち帰りたいと思える子はいなかった。
まあ、明日は休みだしどこかで引っかけるか。
…ん?こんな所にBARがあったんだ。
気づかなかったな。
いい女いたらいいな。
階段だけって…、だいぶ古いビルなのか?
よくこんなとこでBARなんかやるな。
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〔チリリーン〕
「いらっしゃいませ。お好きな席にどうぞ。」
なかなかスタイリッシュな男性が入ってきた。
どこぞの有名なジョルマーニのスーツに、いい感じの時計、磨きあげた革靴、短く切った髪をワックスでしっかり固めておでこを見せている。
顔はまあまあだけど、雰囲気でイケメンの部類に入るような人だ。
社会的にある程度成功していてプライドが高そうな感じで、こういう所にあまり来ない客層。
今日はこの人の日か。
「なにかお決まりですか?」
その男性は私の後ろにあるボトル棚をパーッと見ながら、
「赤ワイン、あるか?」
と、言った。
まさかの赤ワイン。
こだわり強そうな人だけど、しょうがないか。
「はい。」
私はグラスを置き、コポコポとついでいく。
「どうぞ。」
「ありがとう。」
注文票に『赤ワイン1』と書く。
今日はこの雰囲気イケメンさんの喉に流れる赤ワインの音と、お店のアンプでLoFi hiphopが流れる小洒落た夜らしい。
「1人でお店をやっているんですか?」
「はい。最近始めました。」
そんな夜にまた、たわいのない会話が始まった。
年齢は34歳でこの男性も経営者。
しかも病院経営をしているとのこと。
だから、良い服装してるんだ。
夏が終わったばかりなのに肌白いのは、仕事ばかりしているからなのかな?
たわいもない会話の時に見せてくれる笑顔で見つけた、上から降りる八重歯が長いのが印象的。
「手洗いは?」
「お客様から見て左手奥にあります。」
「ありがとう。」
身長は180以上かな?
これは人間の中でモテそうなタイプだ。
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〔パタン…〕
めっちゃくちゃ美人だ。
あのロングでふんわり巻いている黒髪に、二重切れ長の目は反則では?
肌は透き通るくらい白くて、その素肌に映える淡いブルーのワンピース。
身長は170あるかないかくらいで、俺的にはちょうどいい。
しかも、スリーサイズはボンキュッボンでスタイルがいい。
初めてBARのお姉さんを落とすかもなぁ。
けど、話しているだけで楽しいのは久しぶりだ。
通うのもありかな。
〔パタン…〕
「お姉さんはお店のあと何してるんだ?」
長いこと話しているのにお客が来ないのは、ありがたい。
独占できる。
「ここを片付けた後は、色々やってます。」
「色々?」
「はい。」
色々ってなんだ?
夜の仕事だから寝るだけなのかもしれないな。
「片付けた後、俺と行きつけのところ行かないか?」
行きつけ=家だ。
連れ込めば何とかなるだろ。
「色々あるのでまた今度で。」
「そうか。」
…断られた。
断られるのは久しぶりだ。
残念だが、まあそんなものか。
いい女×初対面は難しいか。
お姉さんと短い夜を過ごす中、自分がつけている時計で時間を見るともう4時を指そうとしていた。
日が開ける前に帰らないと。
「チェックで。」
「はい。」
ワインはあまり気に入らないが、この女が気に入った。
「では、また。」
「お待ちしております。」
〔チリリーン〕
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あっという間に4時、閉店の時間だ。
グラス、テーブルの拭きあげ終了。
なぜ人間はどこかへ誘うのが好きなのか?
魂胆は分かっている。だから、行かない。
行ったとして最悪の場合、殺してしまうかもしれない。
人間の男はそんなもの。
割り切らないと、私がヘマをする。
もうめんどくさい事はやりたくない。
…明日は赤ワイン買っておかなきゃな。
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