第25話 刑事たち
「花園神社の木陰にて女性の変死体を発見!!付近のものは至急急行せよ!!」
緊迫した雰囲気に、さらに燃料が投下され、現場は阿鼻叫喚の地獄となった。
というのも、パニックになったのは警察ではなく、この無線を聞いた一般人で、自分が傍観者で居続けることが難しい、言ってしまえば、犯人の箱庭の中にいることを理解し、大慌てで逃げ去って行く。
「とりあえず、俺たちは花園の方に向かう。お前たちは応援と鑑識が来るまでの現場保存を頼む!!」
そう言って、業平と唯我は走って花園神社まで向かう。走って向かうのにも理由がある。こんな時間にサイレンを鳴らしてしまえば、深夜の住宅街にいる人たちに迷惑になるうえに、犯人が近くにいた場合、こちらの動きを知られてしまう可能性があるからだ。
2回目の現場に着いた2人は手を振っている巡査を視界にとらえた。
「なるほど、ここまで暗いんじゃ……」と言おうとした唯我の声はその後の言葉の発音をためらった。
「これはひどいな……」業平が言う。
例の如く、その女性は首を切り裂かれた上に切り刻まれていた。
二人は手を合わせ、この不幸な女性の冥福を祈った。
「とにかく、鑑識が来るまでいったん離れよう」
「そうだな……」
口を覆い隠しながらの業平の提案に、唯我が賛成する。
そして、鑑識が来るまでの間、二人はこの巡査に話を聞くことにした。
その巡査は近所の交番に勤務しており、夜の1回目のパトロール中に黒いロングコートを着込んだ何者かが神社から出てくるのを目撃した。
最初はなんら違和感なく、放置していたのだが、2回目のパトロールの際、その何者かが、夜に神社から出てきたことを不審に思い、神社に入ったところ、遺体を発見したという。
「すいません。1回目で気づけていれば……」その巡査は泣きながら2人に謝った。
「いや、あんたは悪くねえ。悪いのはこんなクソみたいなことして喜んでるサイコ野郎だ」と唯我が肩を優しく叩きながら言う。
すると、「なあ、唯我」と業平がこちらを振り返る。街灯に照らせた業平の顔は少し強張っているように思える。まあ、この一連の事件が発生してからというもの、前代未聞な大規模厳戒態勢でこの表情になっていない刑事は逆に少なかったのだが。
「今回の犯人、警察にいるってことは考えられないか?」
「はあ?なんでそんなふざけたことを……」反論しようとした唯我の口の動きが止まる。憶測を話そうとしている業平の目は常軌を逸したような目をしていた。まるで考えることを放棄しているような、そんな目だった。
「2回目の事件はまだ少し離れていたところだったし、警備の手がまだ薄いところだった。でも、今回はどうだ? 3回目、4回目は警戒網の、しかもど真ん中だぞ?」
業平の言う通り、3回目、4回目は超厳戒態勢の警戒網の中だ。私服の刑事や改良された防犯カメラがこれでもかとうじゃうじゃと警戒に当たっている。
その中で殺人を行うのは、稼働中のミシンの針に糸を通すが如き難しさだ。実際、不可能と言っていい。
「警察だったら、今回の警備図を知ることができるだろ? そうだっ! 警察の人間にちが……」
「いい加減にしろっ!! 業平!」
そう声を張り上げて、唯我は業平の頬を思いっきり、拳で殴った。乾いたような音が空気に乗って反響し、それと同時に業平は地面に転がった。
「お前は俺たちの仲間を疑うのか? 同じ釜の飯を食い、一緒に苦悩し、一緒に笑った、その仲間の全てを否定するのか!!?」
唯我は業平の胸倉を掴む。
「っ!! でも!!」
「でもじゃねえ。お前は魔女狩りでもおっぱじめるつもりか? 想像して見ろ。警視庁の刑事のクソったれどもに尋問されてる仲間を!」
狭い部屋で、警視庁の刑事たちに囲まれ、尋問される仲間。どんなに否定したとしても嘘をつくなと罵声が飛ぶ。
「ぐ……うぐぅ」業平は涙を流し、道に手をついた。
「言っておくが、警視庁の奴らも違うと思うぞ。間違いなく犯人は新宿周辺の地理に詳しい。奴らが警戒網にひっかからずに殺しをやるのは無理だ」
「ごめん……。新。俺がどうかしてた」
「ああ」唯我は業平の手を取って立たせる。
――そんな2人を応援のパトカーのヘッドライトが明るく照らしたのだった。
その後、応援と鑑識が到着。3件目の方にも人数が割かれているため、やって来た鑑識の数は本来の3分の2ほどだった。
「なるほど、手紙の通りですね」
「ああ、そうだな」
これでこの4件目の殺人も切り裂きジャック、その贋作による犯行ということが確定した。
現在、鑑識官以外の応援は周辺の捜索に行っている。そろそろ戻ってくるはずだが……。
「おーい!! こっちだこっち」
夜の住宅街だろうとお構いなしに叫ぶ刑事の声が聞こえてくる。どうやら、なにか重要な証拠を発見したようだった。
2人が駆け付けると、数人の刑事は黙って、側溝の方に明かりを照らす。
「ッ!! ……これは……」
周りの刑事も「多分というか、確定でそうだ」
側溝に落ちていたもの、それは
――赤い血で濡れた、ナイフだった。
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