第4話 道標

  警察署に戻ると、第二の殺人が起きたことにより、てんやわんやとなっていた。

「ゴミ収集作業員は、集積場で亡くなったんだ。最初の事件と関連付けることもできていたかもしれないが、急に起こった上に証拠が少なすぎる」と白谷と同じチームの刑事が嘆くように言った。確かに、最初の事件は計画性のようなものを感じるところが多々あったがこの第二の事件は本当に突発的に起きている。

 「もし、証拠があるとしたら、ゴミの中にあると思うんだが……もう、焼却炉の中だよ……」少し、白谷が諦めがちに言った。

 


 すると、ゴミ集積場から帰ってきた刑事が、ごみ収集車の担当図のような物を持ってきた。その刑事たちの顔色は疲れが目立ち、決して万全とは言い難いものだった。

 刑事たちはスクリーンにごみの回収の担当図らしいものを表示する。

「第二の事件の被害者は、第一の事件が起こったマンションを含む半径1キロの範囲をゴミを集めていたようです」

 確かに、赤く示された円には佐倉洋子のマンションが含まれている。

 


「……被害者のマンションを含む?」

 彼の頭の中で電流が走ったような気がした。

 それでも、やはりまだこの真相というパズルを完成させるにはまだあと2ピースほど必要になる感じだった。


 彼はすぐ隣にいる白谷に頼んでもう一度佐倉洋子に聞きたいことがあると頼む。「ああ、もう一度、話を聞くことがあるからその時にね」

寝てないのかその声は疲れている。

 どうやら刑事たちは佐倉洋子が怪しいと思っているようだが証拠が無い。

 なにより毒の入手先が不明な以上は、刑事たちのこの証明は完了しないのだった。


 そして第二の事件から4日後、佐倉洋子がもう一度警察署に来た。

 彼は聞いて欲しいことのメモを予め白谷に渡しておき、取調室の隣の部屋で話を聞いていた。どうやら中から外は見えないらしいが、中の声は全て聞くことができた。

 その渡された紙をちらちら見ながら、白谷は佐倉洋子に質問する。

「えーと、まず、佐倉健さんは朝ごはんは何を食べたのですか?」佐倉洋子は鋭く白谷を睨みつけながら答える。

「なんも食べてないわよ。朝から水ぐらいじゃない」答える声音は低い。

「それはなぜ?」

「ま、朝から壁の色変えてたからね」

「なるほど、健さんはどこを」

「天井よ、なんで女があんな大変なところを塗らなきゃいけないのよ」

 その後も佐倉洋子の怒ったような声が時折聞こえてくるがもう彼には関係ない。

 

 これで彼が聞きたいことが全て聞かれたと同時に、真相までにはめるべきピースは残り1つとなった。



「犯人は佐倉洋子だ。間違いないけど、まだだ。まだ足りない」

 その時の彼の目は佐倉洋子のそれよりも、鋭く、獲物を狙う狼のようだった。

 その獣のはあと一息で獲物犯人に爪を立てられるところまで追いつめていた。

 

 彼の口角は少し、上がっていたかもしれない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る