第19話 被害者について
その後、刑事たちが座ったことを確認した管理官が、
「まずは被害者について報告を」と声をかける。
情報の引用元を明らかにすることに加え、画像などの切り替えなどがあったことから大体20分ほどかかった。
……要約すると
[被害者]
21歳
歌舞伎町にて所謂 《夜の仕事》と呼ばれる仕事をしていた。理由は大学の学費を稼ぐためらしい。
鑑識によると死因は頸動脈を刃渡り15センチほどのナイフで切られたことによる失血死。
遺体はばらばらに切り刻まれていた。
また、被害者の人間関係も何ら問題はなく、客からのストーカー行為などもなかったという。
犯人の姿は監視カメラに映り込んでおり、黒いコートを着込みマスクをつけ、フードを目深にかぶっていた。犯行は監視カメラの死角にて行われていたため犯人は事前に防犯カメラの場所を知っていた可能性が高いという。
……なるほどこれは奴が切り裂きジャックが復活したといったのも頷けると彼は思った。
理由は今回の事件と切り裂きジャックとの間で犯行の類似点が多いからだ。
お互い狙うのは女性、それも《夜の仕事》と呼ばれる職業に就く女性ばかりをターゲットにし、首を最初に切り裂いてから、遺体を解体、最終的に一部の臓器を摘出して持ち帰る。史実だと一件目の殺人事件は臓器を持ち帰らず、遺体をバラバラに切り刻んで終わりにしている。
彼は今回の殺人事件の犯人はジャック・ザ・リッパーに何かしらの影響を受けた可能性が高いと推察した。
もし、犯人がジャック・ザ・リッパーに影響を受けていたとしたらこのあと少なくとも4件は殺人事件が起きることになる。
「ではこれより、東京都内の警戒レベルを3段階引き上げる。この事件については記者クラブに報道協定を結び、国民への報道は状況を見てということになった。
これより、夜間のパトロールや捜査の振り分けを……」
管理官が振り分けを発表していく。
もう後は解散の一言を待つだけなので、会議室の中はこれからの捜査に意気込む者、ため息をつく者など様々だ。
しかし、みな、都内の警戒レベルを3段階上げるとあってその顔には少し戸惑いと緊迫が靄のように浮かんでいる。
「なーんか殺人事件にしては厳重すぎる気がするけどね」と色堂が言う。
確かに今回の殺人事件の犯人はジャック・ザ・リッパーを真似ている可能性があるにはあるがあくまで可能性は可能性だ。今回のようなセンセーショナルな事件であれば他にもっと起きていたはず。
それに、都内の警戒レベルを3段階あげる事例は外国から要人が来日した場合や皇族の行事など。
要するに言い方は悪くなるかもしれないが個人単位での殺人事件でここまで警戒する必要はないということだ。
ふと前の管理官を見ると、どこかに電話しているように見える。その姿からは先ほどのテキパキ指揮を飛ばしていた有能な指揮官の風格が消えうせ、上司に電話する部下のようになっていた。
「すいません、ちょっとトイレに行ってきます」と彼は一言声をかける。
そして、あえて管理官の横を少しゆっくり通ると
「警視総監、やっぱり少し大げさになり…………」と少し困惑したような口調で話していた。
ということは今回のこの捜査方針を決めたのは赤神警視総監ということになる。
彼は少し考えこむ。だが、彼は赤神の意図を正確に把握することができなかった。
「あの男、いったい何が見えている?」
彼の目にこの場にいるすべての人員は赤神の手によって踊らされている人形のように映ってしまうのだった。
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