第20話 それぞれができること 襲う睡魔
捜査会議の後はそれぞれの局がその役割を果たすため、大会議室は会議中の静けさを忘れ、一気に慌ただしくなっていた。コピー機は止まる暇もなく、犯人への手掛かりになるであろう資料を印刷し続けていた。
「さて、俺たちの任務は犯人の特定と警備の全体監督だ。とりあえず、マニュアルによると、捜査に関してはA級協力者たちの捜査権限が大幅に拡大すること以外、特に変わったことはない。ただ、警備の全体監督は計画書を公安局と管理官に提出する必要がある」と刑事局主任刑事である大津が指示を飛ばす。
この場に集まったのは刑事局と新宿警察署から集められた刑事25人。今回の合同捜査はこの新宿を知り尽くした刑事たちを如何に生かすかに解決の糸口がかかっている。
ちなみに彼の学校は秋の連休で休みなので比較的長い時間、捜査に関わることができる。
「俺の持てる奥の手はまだ、犯人の行動や予想できるであろう
彼は心の中で自分を嘲笑した。俗にいうジレンマである。
それと同時に
「ただ、まだ鏡がこの事件に介入していないのがまだ救いだ。もし、本格的に介入されでもしたら今度こそ解決は難しくなる」
未だ楽観視できるような状態ではないがまだ、深刻になる必要はないと彼は構えていた。
大津は新宿警察署の刑事たちの意見を基に警備企画案を作り上げていたが、思い立ったように後ろを向いて、「ああ、白谷、国本」と2人を見て言う。
「お前たちはここ1週間、報告書の整理やら今回の事件やらで徹夜続きだったろう。今日は一度家に帰ってゆっくり休め」
この言葉を聞いた二人は驚いて聞き返す。
「しかし、いいのですか?」
「ああ、むしろ寝ぼけた奴らが捜査でミスをする方が厄介だからな」と豪快に笑う。
白谷は彼の方を見ると彼も白谷の方を見て一度頷いた。
結局、2人(主に国本)の抵抗むなしく、半ば追い出されるようにして、白谷と国本は会議室を後にしたのだった。
外国組織対策局は目下、今回の事件と外国組織の関連を調べていた。
「今回の件は各国の大使館に連絡して、現在の犯罪組織の現状の報告を要請します」と外国組織対策局主任刑事、
この中村という主任刑事は上司には言うまでもなく部下や同僚にまで物腰柔らかく敬語で話す。
ただ、この男も相当の食わせ物で、英語教育の名門であり、真っ当に就職活動をしていれば大手企業も余裕で狙えるレベルのブランドを持つ大学をなんと首席で卒業した経歴を誇る。また、洞察力や頭の回転の速さは言うまでもなく、運動神経や戦闘技術に関しては空手とテコンドーで段位を獲得している程である。あとすごいイケメン。
中村は焦げ茶色に染めた髪をいじりながら色堂の方へと視線を向ける。その視線だけで中村の言おうとしていることがわかる当たり、この2人は確固とした信頼関係を結んでいる。
「とりあえず、FBI時代の友人に連絡して、殺人で捕まった元囚人が日本に来ていないか連絡してみます。ほら、アメリカは切り取った手首を愛でるようなサイコパスまでいますから」とスマホを取り出し、スクロールしながら言った。
「……あれ? じゃあ俺たちにできることここまでじゃね……」と一人の刑事のつぶやきは会議室の無機質な床に溶けていくばかりだった。
「とりあえず、監視カメラの映像を解析して見ましょう。僕の開発した画像解析ツールを使えばある程度ははっきりするはずです。それから、監視カメラの改良案を……」
サイバー犯罪対策局は主任刑事より主に機章が中心となって動いていた。
任された仕事は監視カメラの画像解析、それから情報の秘匿性を保持することだった。
生活安全局はいかに事件が起きた周辺の人々や被害者の同業者たちへ、今回の事件を悟らせずに、警戒を促すかに重点を置いていた。
「歌舞伎町周辺の人々には変質者が出た~」「いやでもそれだと」という感じで活発な議論が行われている。この課の主任刑事は鈴木の後を引き継いだ
「では強姦魔が出たというのはどうでしょう?歌舞伎町周辺の、特に被害者の同業者であれば警戒はなさるはずです」と大國が提案した。
「おお、なるほど」「これでいいんじゃないか」と周りの刑事たちの賛同も得られ、早速張り紙や街頭などでの注意喚起を始めることにした。
――それぞれの局がそれぞれ為せることを全力でやる最中、会議室を追い出された白谷と国本はそれぞれ帰路に着いていた。
国本は杉並区阿佐ヶ谷にあるアパートに到着した。部屋に入り、ベットを見た瞬間、国本の中の睡魔が強烈な存在感を出しながら全身を進軍しているのを感じた。なんだかんだ言っていても疲れがたまっていたのだろう。
そのままベットに転がり込み、「シャワーは後で浴びよ」と一言呟いて、睡魔にその身を委ねることにした。
一方の白谷は姉夫婦と中野の一軒家で暮らしている。家に帰ると姉の夫である、
「あー透あんたやっと……どおしたの?なんか顔真っ青よ」と怜理。
それに続けて「透くん、さてはここのところ徹夜続きだろう」と人の好さそうな苦笑いを浮かべながら聞いてくる。
烏丸宗吾は身長は高く少し、がっしりした体格をしていながらも、その人当りの良さや勤務経験から来るであろう人に対する立ち居振る舞いのおかげで怖がられるようなことは一切なく、白谷から見ても理想の義兄だった。給料も白谷の倍近い。
「あれ、宗吾さんお仕事は?」と尋ねると、「今日は午後からなんだ。その代わり今日の夜は帰ってこれないんだよ」とこれから始まる地獄のようなタイムスケジュールを思い浮かべながら答えた。
「そうなんですね」
「えーじゃあ私、透と二人っきり?」と少し嫌そうに怜理が言う。
「悪かったなー」と白谷もそれに答えた。
一応言っておくがこの2人は別に仲が悪いわけではなく、寧ろいい方だ。
「それじゃあ、行ってくるよ」と宗吾が席を立ちながら言う。
「ああ、じゃあコートにハンカチとティッシュを入れないと」と怜理は席を立ち、ハンガーにかかっているコートにタンスから取り出してきたハンカチとティッシュを入れようとした。
しかし、その時、「痛!」と怜理は声を上げポケットから手を引っこ抜いてしまう。
「どうした?」と宗吾が慌てて駆け寄る。
「白谷君、救急箱を持ってきてくれるかな?」と頼まれたので近くの棚からそれを取り出した。
見ると、怜理の手の甲が小さくであるが切れており、血が出ているのが分かった。
「多分、僕の名刺入れの露出した金属部分だろう。すまない。僕がやればよかった」と謝る。そして、ハンカチで血を綺麗にふき取り、消毒して上から絆創膏を貼る。ここまでの時間、約30秒。圧巻の早業である。
怜理の止血を終え、
「それじゃあ、行ってくるよ」と宗吾が玄関から言う。
「怜理、わが家を頼む。それから透君もできるだけ睡眠時間は取るように」と言い残して出ていった。
「ほんと、理想の旦那さっ、おっと」と白谷は少しふらついてしまう。
「やっぱり寝た方がいいよ。顔真っ青だし」
「おう。それじゃあ寝かせてもらうよ」と言って寝室に向かう。
「そいえば、大根半分知らない?」
「知らないよ、多分もう使ったんだろ」
そうして、白谷も海底に沈んでいくように眠ったのだった。
――しかし、夜中の2時ごろ。白谷と国本はある1件の電話で起こされることになるのだった。
「突然ですまない!まただ。また死体が見つかった!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます