第6話 ブルドの企み3
森の中を僕達は北に向かって走る。
樹々をかわし、枝から枝へと渡り駆け抜ける。
「なんだろう? 違和感を感じる」
僕は、ブルドの窮地を知らせに来たパーティーメンバーの彼に付いて森の中を走っている。
さすがはハンター・・・だろう。
身のこなしに無駄がない。
魔力操作による身体強化も、もの凄くスムーズだ。
ただ単に力だけなら、たぶんシェリーの方が上だろうけど、だけど、あの動きはやはり経験からくるものだろう
「・・・・だから余計に違和感を感じる」
彼の慌て具合に乗せられたのか、その時はおかしいとは思わなかったけど、これだけ動ける人が、たぶんもう一人も同じくらい動ける経験者がいたのなら、どんなに魔獣が一斉に襲ってきたとしても逃げるだけなら、そんなに難しい事ではなかったのでは?
だいたい、今回の狩り物競争の為に、深度の浅い場所と範囲が決められていて、深部へは行かないように決められている。
だから大型魔獣でもせいぜい1本角の大猪くらいしかいないはず・・・
「もう近いです!!」
先導する彼が、目的地が近いと告げて来る。
「着く前にこれを差し上げます」
そう言って、彼が懐から同じ小瓶を2本取り出した。
その1本を僕に投げよこすと、僕は無意識にその小瓶をつかんだ。
「これは?」
「回復薬です。体力と魔力も少々回復する薬です」
なるほど。これがそうか。
ハンターでは普通に持っていると聞いた事があった。
これがその回復薬か。
僕が小瓶を眺めていると、その男は小瓶の蓋をパリンと砕きクイッと飲んでしまった。
「貴方も飲んでおいてください。魔獣を惹きつけるにしても逃げるにしても、体力がこれからきつくなるはずですから」
流石は現役のハンターだ。
そういったところに気をつかうのが生き残る理由なんだろうな。
僕も、何も躊躇う事もなくその小瓶を開けると、中に入った液体を飲み干した。
お! なんだか体が熱くなった感じがする。
これが体力や魔力が戻る感覚なのか?
「着きます!」
彼の言葉に意識が目の前に戻った。
今まで樹々が不規則に茂り、うっそうとしていた場所だったのに、いきなり視界が広がった。
「ここは・・・」
草原だ。
森の樹々が周囲をぐるりと囲う様にして、草原だけの広場が出来ていた。
「広い、ちょっとした小さな村ならすっぽり入りそうだ」
「おい! ルダ。何を呆けている? いつもだらしない顔だな?」
草原の中心、そこに幾つかの大きな石が重なる様になった場所。
その上に、見慣れた顔が僕を笑いながら見下ろしているのが見えた。
「ブルド・・無事だったの?」
「は? 何を言っているんだ? 俺がどうかしたって言うのか?」
「だって、この人が・・?!」
僕をここまで連れて来てくれた彼が、いつの間にかいなくなっていた。
「それにしてもルダ、おまえお人好しだな? 俺の事、嫌いなんだろ? なのに、なんで助けようなんて思うんだろうな? 俺には分からんよ」
何を言っているんだ?
襲ってくる魔獣は? ブルドが何故あそこにいる? さっきまで居た彼はどこに行ったんだ?
「なんだ? まだ分かってないって顔だな? 間抜けにも程が有るだろ?」
「どういう事だ?」
「俺が、魔獣の大群に襲われたのも嘘だということだよ」
「なんで! そんな嘘を?!」
「本当に分からないのか?」
呆れた顔で僕を見るブルド。完全に馬鹿にしている目だ。
「シェリーは俺の女になった方が幸せなのに、ルダ! お前がいると邪魔なんだよ!」
何を訳の分からない事をいっているんだ? 僕が居るのとブルドの彼女になるのとは関係ないだろ?
「シェリーは、単にブルドの性格が嫌なんだよ! 人を見下し、自分の言いなりにならに人に嫌がらせをする、そんな心の貧しいお前が嫌なんだよ! 僕が居る居ないは関係無い!」
まったくシェリーの気持ちを無視してなんでブルドの彼女になると幸せなんて言えるんだ?!
ブルドは、僕の言葉に顔を真っ赤にして今にも跳びかかってきそうな目で僕を睨んでいるが、なんとかその場に踏み止まっていた。
「ま、まあ良い。とにかくルダが居なくなれば、シェリーの心も僕に向かうはずだ」
まだそんな事を言っている。
でも僕が居なくなればって、何をする気なんだ?
「ルダ、これが何だか分かるか?」
何かの石碑にドカッと座っているブルドが懐から掌程の大きさの瓶を取り出して僕に突き出すように見せて来た。
「それが何だって言うんだ?」
「ほら! 自分で確かめてみな?」
そう言ったかと思ったらその瓶を僕目掛けて放り投げてきた。
僕は避ければ良かったんだろうけど、つい反射的にその瓶を受け取ろうと手を伸ばしてしまった。
ヒュン! バキン!
一瞬だった。
その瓶が僕の手にあと少しで届くという時に、何かが目の前を過ぎった様に感じた。
次の瞬間、目の前で瓶が派手に割れ、中に入っていた液体がそのまま僕に降り注いできた。
バシャ!
「?!?!」
声にならなかった。
自分に何が起きたのか、直ぐには理解出来なかったが、それも鼻に届いた異様な悪臭が僕の意識を嫌でも動かす。
「臭い!? 何だこれ?!」
「はは! いいざまじゃないか! それはな、魔獣をおびき出す薬だよ」
?! い、今なんて言った? 魔獣をおびき出す薬・・? ちょ、ちょっと待て!
「おい! なんてことをするんだ! こんなことしたら魔獣が・・・まさか」
「お、ようやく分かったのか? そうだよ。ルダ、お前はここで魔獣に襲われるんだよ。」
ブルドは、悪臭のする液体まみれになった僕を見ながら心底、嬉しそうに笑っていた。
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