第22話 ボルクス村 4

「リエナ、邪魔するぞ」


玄関を開けると、真正面にゴージャスさんが立ち、その後ろには視線の定まらないブルドが隠れる様に立っていた。

あれ? 村長さんは・・・居た。

一番後ろでオドオドとこちらを伺いながらヘラヘラと笑っていた。


「何か御用ですか?」


僕はゴージャスさんに用件を聞いてみた。


「おお、ルダ君! 無事に戻ってこれて本当に良かった! 心配していたんだぞ」


大仰に手を広げ、今にも僕に抱きつこうとする仕草を見せたので、僕は外に出ず家の中へ一歩後ずさった。


「今日はな、君が無事に戻った祝いとブルドを救ってくれたことに対して、お礼金を持参したのだよ」


そう言って後ろに控えていた使用人に合図をして大きな革袋を持って来させると、無造作にそれを掴み僕の方へ差し出して来た。


「これは私の感謝の気持ちだ。受け取ってくれたまえ」

「別にいりませんけど?」

「・・・・は?」

「ですから、いりませんのでお引き取りください」

「な、何を言っているんだ?! 金だぞ? 貴様達が一年働き続けても手に出来ない程の金だぞ?」

「それが何か? 生活するのにそれ程困っている訳ではありませんし、僕はブルドを助けた覚えもありませんから貰う理由はありませんよ?」


実際、助けようと向かったけど、それは罠で逆に殺されかけたんだよね。

ああ、慰謝料とか詫び金と言う意味なら有りなのかな?


「な、何を言い出すんだ! ブルドは言っておったぞ。ルダ君が助けに来てくれなかったら今頃自分は魔獣に食われて死んでいたと! そういう事なんだ! だから君はこの金を受け取るべきなのだ。そうでないと今後この村で生活するのに困る事になるのだぞ?」


つまりこれは口止め料という事なんだろうか?

しかしこんな大勢の前で言っちゃって良いのか?

・・・あ、もしかしてこの家に今僕と母さんしか居ないと思っているんじゃないか?


「あのう、困ると言うのはどう言う事ですか? 生活の事でしたら今の収入で親子二人暮らすのに問題無いですよ?」


僕はわざとらしく言ってみた。


「その生活が苦しくなると言っているのだよ。リエナが働いている所は何処なんだ?」

「え? それはゴージャスさんの所で放牧の管理をしているはずでしたよね?」

「そうだ。私が雇い主なんだよ。この意味が分かるかな?」


意味は分かりますよ。

小さい時から母様に色々なお話を子守歌みたいに聞いていた。

童話から伝記、歴史とか、たまに社会情勢、経済など。

今思えば子供に聞かせるには少し早いのだろうけど、おかげで大人の事情もよく分かる様になったんだ。

だから良く分かるけど、今はわざと首を傾げてみせた。


「そうか! わしとしたことが迂闊だったわ。ブルドならともかくお前みたいなガキには難しい話しだったか」


そこでブルドを引き合いに出すところは親バカなんだろうけど、ほら、ゴージャスさんの後ろに隠れているブルドが良く分かってない、という顔をして見ていますよ?


「仕方ない子供でも分かり易く教えてやる。雇い主であるわしが一声言えば従業員の雇用や解雇は簡単に出来るということだ」


だんだん本性が出て来たな。

つまり、言う事を聞かないと母さんは解雇されて、僕達家族は路頭に迷うぞ、と言いたいのだろう。


「だ、そうだよお母さん」

「それは困りましたねぇ」


僕はわざと大きな声で母さんに伝えると、奥の方から母さんがニコニコしながら出て来てくれた。

言ってる言葉と表情が真逆ですよ。


「ふん、居たのか。まあ聞いていただろう? そう言う事だ。素直にこの金を受け取れ! そうすればすべてが丸く収まる!」

「何を収めろと? 私の息子が死にかけた事をですか? それとも殺されかけた事をですか?」

「な!! だ、誰が殺そうとしたと言った!!」

「あら、お聞きになられたのではないのですか? ご子息に?」


母さん分かってます?

虫も殺しそうにない可愛らしい顔でニコニコしながら、そう言う事を言うとかえって怖いんです。

ほら、ゴージャスさんの足が震え始めてますよ。


「だ、黙れ!! わしが金をやると言っているんだ! それで今回の件は全て終わりだ!」

「そう言われましても、ルダ、このお金を貰わなかったらブルド君がどうにかなるのかしら?」

「別に、どうにかするつもりはありませんよ。ちょっとブルド君のおかげで怖い目には遭いましたけどこうして無事に帰れましたし、特に何かをして欲しいわけじゃありません」

「な! わしを脅す気か!!」


脅してるのはどっちだよ。


「わ、分かった! そちらがその気ならわしも本気だ! 覚悟しておけ!!」


決まり文句の捨て台詞だな。

普通ならここでゴージャスさんが怒りまくって帰るのだろうけど・・・


「何やら揉め事のようですね。失礼でなければ私が仲裁の役目をさせていただきますけど?」


タイミング良く、母さんの影に隠れていた、フィネーナ姫様が顔を出されて来られた。


「な、何だ、貴様・・は・・・あ!! ああ!! な、何故このようなみすぼらしい所に居られるのですか!? 私が手配した宿にお泊まりではなかったのですか?!」


ゴージャスさんとブルドの顔から血の気が引いて行くのが良く分かった。

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