第3話 幼馴染2

「あとは、ブルド問題だわ」

シェリーが心底嫌そうな目で遠くを見つめながらボソッと呟いた。

さっきまではしゃいで喜んでいたのに、ブルドの名前が出た途端、体中から負のオーラを放ち出してないか?


ブルドというのは、畑や果樹園を多く持っているこの村一番大きな家の息子で、案外に顔が整っているので、近隣の村の女の子からは人気が結構ある。

けど、その性格がねぇ。

金がある事を自慢して、なんでも自分の言いなりにさせようとする傲慢な男で、それに泣かされた女の子も多いと聞くし、自分に従う者には金をばらまき反発する者は執拗に虐めたりと、村の女の子からは絶大に嫌われている男だ。

そんなブルドがしつこく求婚してくるのでシェリーが気の毒だ。


「シェリーじゃないか。そんなチンケな男と出るのか?」


噂をすれば、だ。


「チンケなんかじゃないわよ!」


たぶん馬鹿にされた僕が怒りだすのを待ち構えていたはずなのに、シェリーの方が怒るからブルドが困っているようだ。


「い、いや、別にシェリーの事を言ったのではなくてだな、ルダの事をチンケだと・・」

「分かっているわよ! だからルダの事を悪く言うのは私が許さないと言っているのよ!」


キッと僕の事を睨んでくるブルド。


「お前! シェリーに何か俺の悪口でも吹きこんだろ!?」


そんな事はしません。

僕が横に首を振って違いますと主張すると、それが気にくわなかったのだろう。

真っ赤な顔になって僕に詰め寄ってきた。


「嘘だ! そうじゃなきゃあ、この俺がここまでシェリーに嫌われる訳がないんだ!」


あ、嫌われている自覚はあるんだ。


「この世の女性がほっとく事ができない美貌と、そこらの平民が受ける事の出来ない高等な学業を修め、将来この村の生産業を仕切るゴージャス家の跡取りであるこの俺を嫌う女性など、一人もいないはずなのだ!!」


言いきったよ。

自分の事をここまで言いきれるというのは、ある意味羨ましい・・・かな?

シェリー、その汚物を見るような酷い顔は、君には似合わないぞ。


「ちっ! 鬱陶しい・・・」


シェリーさん、はしたない。


「な!? シェ、シェリー・・き、君がそんな言葉を・・・・これも全てルダのせいだ!!」


なんでだよ。


「分かった! こうなれば正々堂々と力の差を見せつけて、どちらがシェリーに相応しい男か、今度の村祭り恒例の狩り物競争で決着をつけてやる!!」


ビシッと僕に指を向け、大見得をきるブルド。


「望むところよ! ルダが勝つに決まっているんだからね!!」

「ちょっ! シェリー! 勝手に決めないでよ!」

「大丈夫! ルダがブルドの馬鹿に負けるはずないもの!!」


何処からそんな自信が出るんだ?

僕の魔力操作はお世辞にも上手いとは言えないんだぞ? 

まあ、ブルドもたいした事はないけど、それでも僕より二つ歳が上だし、魔力操作も上のはずだよ?


「馬鹿とは心外だな。この俺が馬鹿なら、ルダなんかその辺の家畜並みの知力しか無いじゃないか? それに勝つのは俺だよ。そうじゃないと女神様も納得しないだろう? こんな格好良くて、頭が良くて、魔力操作の上手いこの俺のどこに負ける要素が有るって言うんだい」


ここまで言われると流石に腹がたってきた。

確かに僕はブルドに勝っているところは無いかもしれないけど、さすがにカチンとくるものがある。


「あぁ! 鬱陶しい!!! ほんと糞虫だわね!」


首を横に振り、憐れんだ表情で僕を見るブルドに、焼き殺そうかと思える程の鋭い視線でブルドを睨みつけるシェリー。


馬鹿から糞虫になったよ。シェリーもよっぽど腹立たしいんだろうな。


「シェリー、一つ聞いて良いかな?」

「な、何よ?!」

「今回の競技はチーム戦だ。まさかシェリーが狩った獲物もルダの成績に入れはしないだろうな?」

「な! 何を言い出すかと思えば・・協議はチーム戦よ! チームでの数が優劣を決めるのは当たり前じゃない」

「それだと、シェリーが頑張ればルダは何もしなくても良いんじゃないか? そんなので俺に勝ったと言えるのか?」


そんな事を言い出してきた。

確かに、シェリーがダントツで一番多く狩るだろう。

そのシェリーと組むと言うだけで、他の競技者からもかなり疎まれているのは確かだ。

実際、僕もそう思う事はある。


「馬鹿じゃないの? だいたい私とルダはまだ未成年なのよ? しかも二人だけのチームなの。他のチームは3人以上でしかも大人、中には猟師やハンター経験者もいるんだから、これでもかなり譲歩してるのよ? それともブルドは子供二人に負けるほど弱いのかしら?」

「そんな事あるか!! 僕一人でも十分だ!」


シェリーの挑発に単純に引っ掛かってる。


「だが今回の競技はチーム戦だから仕方がないよな?」


何やら企んでるみたいだけど・・・ってその後ろに居る男共がそうなんだろう。


「気になったんだけど、ブルドの後ろにいる二人は誰?」


見慣れない顔だった。

僕の住んでいる村は決して小さくはないけど、住民のみんなの顔ぐらいは大抵知っているはずなのに。


「なんだ? 分からんのか? つくづく頭が悪いなルダは。 シェリーなら分かるよね?」


「はぁあ?! 分かる訳ないじゃない!」

「そうだよね~、分からないよね~。コホン、この二人は今回の狩り物競争で俺と組む者達だ!」


僕の事を、こいつ馬鹿だろ。と言いたげな視線で見るブルドが、自慢げに二人の事を説明しだした。

と、いうより馬鹿はブルドの方だぞ?


「そのお二人は村の人じゃないよね? まさか腕のたつハンターを二人も雇ったと言う事かな?」

「な! 失敬な! 雇ってなどないじょ!」


あ、噛んだ。図星だったか?


「ブルド! この狩り物競争のルールは知っているのでしょ?」

「当たり前だろう!」

「じゃあ、なんで村人でもない人が参加しているの?」


シェリーが、ブルドを問い詰め始めた。


「さすがシェリー、鋭いね」

「そんなの誰だって分かると思うけどな?」

「黙れ! ルダ。お前は馬鹿なのか?」


シェリーは鋭くて、僕は馬鹿扱いなのか?


「この二人は、先日お父様がこの村の住人として登録されたのだ。だから問題ない!」


いや問題ありありでしょ?


「それにどう見てもハンターか何かでしょ? そんなの反則よ!!」


シェリーの反論は、もっともとだ。


「別に、ハンターが参加しては駄目とは大会規定には無いぞ?」

「だからって、それはやり過ぎよ!」

「ルダいい加減、難癖つけるのは止めたまえ! 見苦しいぞ?」


いや、反論しているのはシェリーなんだけどね。

それに難癖じゃなくて事実なのだけど?


「シェリー、心配しなくてもこれだけ準備万端な俺が負けるはずないさ。だから待っててくれ。勝利と共に君を迎えに行くからね!」


と、高笑いしながら、村の方へと戻って行ってしまった。

あ! あいつ二人の男性の事、有耶無耶にして逃げやがった!


「・・・ルダ!」

「は、はい!!」

「狩り物競争、絶対勝つわよ!」

「え、でもどう見ても僕たち不利だよね?」

「・・・・ルダは、私がブルドのお嫁さんになっても良いの?」


うわ、涙で瞳を濡らして、僕に迫るシェリー。

そんなにブルドの事が嫌なんだ。

でも確かに、あのブルドにシェリーが弄ばれるのはちょっと我慢ならないな。


「うん、分かった! ブルドにシェリーは渡さない。僕、頑張ってみるよ」

「ル、ルダ、そ、それって・・・私を・・・嬉しい」


あれ? さっきまで怒ったり泣いたりしていたシェリーが、物凄く嬉しそうに僕を見つめて来たぞ。

これは友達としてここは頑張らなくちゃいけないな。


「そうと決まれば、練習しに森へ急ごう!」

「う、うん! 私、どこまでもルダに着いて行く!」


ん? そこの森までなんだけどな?

ま、まあ、それだけの決意でということかな?


そうして僕とシェリーは、村の祭りが行われる前日まで、何度も森で狩りの練習を繰り返した。

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