第4話 ブルドの企み1
祭りの日がやって来た。
2階の部屋の窓を開けると、少し肌寒くなった空気が、空を鮮やかな青に見せてくれている。
「快晴だ。今日は頑張るぞ!」
「ルダ! おはよう!」
シェリーの元気の良い声が下から聞こえて来た。
「おはようシェリー、今、降りるからちょっと待ってて!」
僕は急いで1階に降りる。
「母さん、おはよう!」
「おはよう、ルダ。シェリーちゃん、もう来ているのね?」
「うん、今日は絶対に勝ちたいからね。早く行って、準備の確認したいんだ」
「そう、頑張んなさい。どんな結果でも無理するんじゃないよ」
「うん、分かっているけど・・・」
いつもなら無理はしないときっぱりと言えるんだけどな。
「分かっているんだけど、今回だけは絶対に負けたくない理由があるんだ!」
「そう? その理由ってもしかしてシェリーちゃんの事?」
「は?! なんで分かるの?!」
「あら、やっぱりそうなんだ! なあに? シェリーちゃんにカッコいいところでも見せようっての?」
「そんなんじゃないよ! ブルドと僕が狩り物競争で対決する事になったんだよ!」
「あら? そうなの? でもどうして?」
「その、シェリーがね・・・」
「あら!あら!あら!あら! ルダとシェリーちゃんが、もうそんな仲にまで発展していたなんて、母さん不覚だったわ! これはレジーにも話しておかないと。二人がやっとその気になったみたいだって!」
右手を胸の前で強く握り締め、遠くを見つめて何かを決意する母さん。
ちなみにレジーとはシェリーのお母さんだ。
何を言っているのだろう? その気にって、だいぶ前から狩り物競争にはシェリーと一緒に出るって決めていたんだけどな?
「よし! ルダ頑張っておいで! 母さん達も頑張るからね!」
「う、うん。頑張る、よ?」
何故か物凄く期待されているような? まあいいか。頑張るのには変わらないのだし。
「じゃあ、行ってきます!」
「ああ、行っといで! 頑張んなさい!」
母さんの応援の言葉を受けて僕は玄関の扉を開いた。
ガチャ
「おっそーい! 早く行くわよ! あ、おば様おはようございます!」
「おはよう! シェリーちゃん。ルダの事、これからもよろしくね」
「こ、これから・・・おば様・・いえ、お母様! はい! こちらこそよろしくお願いします!」
なんだ? 母さんとシェリーの会話?
それにシェリー、母さんの事お母様なんて言ってたっけ?
「さあ! ルダ! 私たちの未来の為に頑張るわよ!」
「あ、ああ?」
未来、そうだねブルドに勝って、シェリーには二度と手を出させない約束をする未来にね。
僕と、シェリーは、狩り物競争のスタート地点となる村の中央にある、祭りのメインステージへと向かった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「それでは、お待たせいたしました! ポルタクス村収穫祭のメインイベント!! 狩り物競争を始めたいと思います!!」
メインステージの壇上の上で、拡声器を口に当て思いっきり叫んでいるのは、今回この祭りの司会進行役に商業ギルドから派遣された、司会専門のお姉さんだ。
こういうイベントを実施するときに、大きな街の商業ギルドがイベント企画や進行を一括して取りまとめるらしい。
「相変わらず派手だね」
シェリーが、ぼそっと呟いた。
「まあね。ここボルタクス村は、グラウレニア王国の穀倉地帯と言われる穀物の一大生産地だからね。このあたりじゃあ一番大きな村だもの。お金はそれなりにあるんだろ? そういう意味ではゴージャス家は凄いと思うよ」
「そりゃそうだけど、この畑を大きくし、生産性を上げたのは、初代のゴージャスさんと村の人達だったって聞くわ。それを今ではゴージャス家だけでここまで大きくしたかのように言って威張っているから腹がたつのよ」
確かに。最近は村長とも手を組んで、自分達の良い様にしているって母さん達がたまに話しているのを聞く。
実際に働いている村人への報酬が最近少しずつ減らされているらしいしとも言っていたし。
そんな不満を、こういった祭りで解消しているのかも。
「それでは、簡単にルールを説明いたします!」
司会のお姉さんが元気よく司会進行していく。
「先ず、この狩り物競争は、指定の森に入っていただき、獣や魔獣を狩っていただきその数の多さと種類で決められたポイントの合計で競っていただきます! 尚、13才以下の未成年は単独行動は禁止です! 必ず二人以上で行動していただきます。パーティーの人数は制限がありませんが、パーティーで獲得したポイントを人数で割り、それを個人のポイントといたします。成人している人は、単独の行動は認められtいますが他のパーティーへの妨害行為は認められておりませんので注意お願いします。優勝者には、金貨2枚が贈呈されます!」
「金貨2枚かぁ・・1か月分くらいの生活費か、去年より賞金下がったね」
シェリーがボソッと呟く。
確かに、去年より下がった。今年も豊作だったしもっと賞金出しても問題ないと思うのはシェリーや僕だけじゃないみたい。
周りにいる参加者のみんなからブーイングが出ている。
「それと副賞として、王都への見学旅行ペアでの招待券が贈呈されます!」
「ほお、それは去年無かったな」
「うん、良いわね」
「私、王都に行ってみたかったんだ!」
おお、結構みんな副賞には興味津々だ。僕も王都なら行ってみたい。
あそこには、魔法の書物もいっぱいあるだろうし、もしかしたら魔法師の人達にも会えるかもしれないし。
「シェリー、王都行ってみたいね」
「え? ルダも行きたいの?」
「うん。もし優勝できたらだけど、行けたらいいよね?」
「そ、そんなにルダが行きたいなら、行ってあげてもいいわよ」
「ん?」
「そうか、ルダ、そんなに私と王都に行きたいのか。うふふ楽しみが増えたわ。もうこれは優勝狙うしかないわね」
「え? シェリー、別に一緒とは・・」
「大丈夫私に任せて! 必ず優勝しようね! そしてブルドを泣かせて、私達は婚前旅行を楽しみましょう!」
こんぜん旅行ってなんだろう?
まあ、シェリーがやる気が上がったし良しとしよう。
「では、競技に入る前に、今回の競技を主催しておられます、ボルタクス村の繁栄に尽力し多大なる功績をあげておられます、ゴージャス様より開始の掛け声を頂きたいと思います!」
一気に声を張り上げ、手を大きく振り上げながら司会のお姉さんが紹介し、それに合わせてステージの上に姿を現した男性。大きなお腹を張り出させ、仕立ての良い洋服に身を包み金色に輝く差し歯を、笑った口元から覗かせているのがグルデン・ゴージャス氏、ブルドの親父さんだ。
それにしても自分で雇った司会者に自分を持ち上げさせて紹介させるなんて、恥ずかしくないのだろうか?
「おお! ゴージャス様だ!」
「素敵! ゴージャス様! こっちを向いて下さい!」
「ボルタクス村を救ったゴージャス家の当主! 威厳が違うな!」
「みんなで拍手で迎えるぞ!」
パチ、パチ、パチ・・・・・・・・・
「・・・・・・・・・・・」
何故か一部のところだけ熱狂的なゴージャス信者がいるみたい・・・。
あまりに露骨過ぎて、痛々しい。
「そ、それでは、ゴージャス様、狩り物競争、開始の合図のお言葉を願いします!」
さすが、商業ギルドから派遣されたプロの司会者。
会場の雰囲気を察した司会者さん。無理矢理進行させ
独特の雰囲気に支配されていた会場の中で、無理矢理、進行させて空気を変えられた。
司会者のお姉さん、頑張って下さい。
「フン! まあ良い。これよりボルタクス村恒例の狩り物競争を行う。まぁ今回はわしの息子も参加するからの、優勝は決まったようなものだが、それでも少しくらいは他の者も頑張ってくれないと大会が盛り上がらんからな」
うわ~、会場の雰囲気が最悪だ。
「それでは、これより狩り物競争の開催を宣言する!」
ゴージャスさんの掛け声で、後ろに控えていた楽団が合図の音楽を奏で始めた。
それまでの最悪の雰囲気だった会場もその軽やかな音楽で、なんとか持ち直したようだ。
それぞれのパーティーが掛け声を発して、森の方へと駆け出していった。
「ルダ! 私達も行こう!」
「うん! シェリー頑張ろう!」
僕達も大勢の参加者と共に、森へと向かった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
みなが会場をスタートする中、じっとその動向を見つめる3人の集団が一グループあった。
「おい、準備は済んでいるんだろうな?」
「はい、ブルド様。手筈通り、魔獣寄せの薬を指定通りに撒いております」
「そうか。それで本当にその薬で、魔獣がやってくるんだろうな?」
「はい、今回の狩り場よりさらに最深部から誘導するように配置してあります。もうじきその効果が現れますので、あとは指定の場所に相手を誘導できれば完了です」
「そうか、あとはルダを・・・フフ、ハハハハハ!! これで邪魔者は消える。そうすればシェリーは俺のもの・・・」
何かを確信したブルドの顔は、少し狂喜じみた笑顔を張り付かせ、そのまま二人を従えて森の方へと向かい始めた。
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