第5話 ブルドの企み2
僕とシェリーは森の中にあるそこそこ大きな池から、結構離れた所に立つ木の枝の上に身を潜めている。
この池は獣たちにとって大切な水飲み場になっている。
これはこの村に住む者ならば誰でも知っているので、狩りをする場所としては王道な場所だ。
だから池周辺には結構な数の参加者が身を潜め陣取っていた。
だかた僕とシェリーは敢えてこの池を外し、少し奥まった所の木の上に陣取ったんだ。
普通ならこんな場所で獲物が狩れるとは思わないだろうけど・・・
「やっぱり誰も気付いてないみたいね」
「そうだね。この獣道最近できた道みたいだから」
そう僕達は前もって森の探索をしてこの新しい獣道を見つけていたんだ。
それに新しい割には周りの草木の倒れ方が大きいので、もしかすると結構大型の獣が通る可能性がある。
「・・・ほら来たわ」
シェリーが僕の耳元で囁いてくる。
少しくすぐったいけど、ここは我慢して前方の茂みの方へ視線を向けた。
すると茂みの奥から人の頭ほどある大きさの角兎が2匹、こっちに向かって来ているのが見えた。
「私が前、ルダは後ろね。飛び降りた瞬間をお願い」
「分かった」
なるべく小声で確認し合うと、僕は事前に用意していた矢を弓の弦に掛け、身体の強化を掛けながらゆっくりと引いていく。
くそ、まだ身体強化が不安定だな、でもここは集中!
「行くわ!」
シェリーの小さく可愛らしい掛け声が合図に、強化された身体を十分に使いこなしシェリーが真下に来た角兎へと跳びかかった!
それと同時に僕の弦に掛けていた指が、素早く開かれた。
ヒュン! バシュッ!!
僕が放った矢が角兎の後ろ脚を貫き地面に深々と突き刺さる。
「くっ! 致命傷じゃない、けどこれで動きは完全に封じた。シェリー!」
一撃とはいかなかったが、じたばたと、もがき身動きがとれない角兎を確認してからシェリーの方に視線を移すと、そこには綺麗に首と胴体が離れた角兎の死体を前に、小刀に着いた血を振り落とすシェリーの姿を見る事ができた。
「格好いい・・」
つい言葉に出してしまった。それほどシェリーは様になっていた。
「馬鹿、恥ずかしいじゃない」
「あ、ごめん。でも本当に格好良かったし、綺麗だったもの」
僕は木から飛び降り、シェリーの横に立つとそんな感想を自然と口にしていた。
あれ? 物凄く顔が赤くなっている?
「そ、それよりルダもやるじゃない。一撃だったわね」
そう褒めてくれるシェリーだけど、弓を受けた角兎はまだ絶命した訳じゃない。
急所の首筋は外しているから微妙なところなんだけどな。
そう思いながら、僕は腰に差してあった小刀でを抜き出すと、角兎の首に当て一気に引いた。
「これで、8匹目だね。順調、順調。しかもそのうち4匹は角兎だし、1匹は大牙角鼠。魔獣を5匹はラッキーだったね」
角が生えている獣を魔獣と呼び、その角は魔石の原料になる。
生まれた獣に魔力が溜まり、それが額に集まり角の形状で生えて来るのを魔獣と呼んでいる。同じ種類の獣より凶暴で力も強いので人が生活するうえでこの上なく厄介な生き物だ。
だからハンターギルドでも常に討伐対象としている害獣だ。
「そろそろ、この辺りも血の匂いが溜まってきたかも?」
「そうだね。獲物も溜まってきたから一旦、村に戻ろうか?」
僕とシェリーは自分達が狩った獲物を確認する。
この獲物は、当然狩った証拠になるので、ある一定の数になったら競技のスタート地点で簡易に設置されたハンターギルドへ提出する必要があった。
でないと、こんな獲物を抱えながら狩りを進めるのは困難だし、それにこの血を嗅いで沢山の魔獣が一度に襲って来ないとも限らないからだ。
大人数のパーティーならある程度は持ち歩く事も有るだろうけど、僕達には獲物の運び役が居ないからね。
なら、時間は勿体ないけど、一旦ギルドに狩った獲物を預けて、また狩り場に戻った方が良い。最小人数のパーティーの機動力の強みだ。
「じゃあ、この角兎と大牙角鼠は僕が天秤棒に括って担ぐから、後の獣はシェリーお願い」
「分かったわ。それじゃあ、魔獣の血の匂いを消す薬草を撒いてから、一度戻りま・・」
「た、助けてくれ~!!!」
僕達が、一旦戻る準備に入ろうとした時、林の奥から男の声で助けを求める声が聞こえた。
その声と、林の中を駆ける音が次第に近づいて来るのが分かった。
「ルダ、誰か来る?」
「うん、こっちに近づいている。何かトラブルかな?」
僕とシェリーは音と声のする方を見つめ、それぞれの武器、シェリーは小刀を両手に構え、僕は弓で矢を引き身構えた。
ガサガサガサガサ!
「助けてくれ!!」
うっそうと茂る林から飛び出し僕達の目の前に一人の男性が現れた。
「ん? あれ? どこかで・・見た様な?」
「ルダ! こいつブルドのパーティーに居た男の一人だよ!」
そうだ、どうにも未成年には見えない、ブルドのパーティーの二人の内の一人だ。
その男が血相を変え覚束ない足取りで僕達の前に現れそのまま地面に倒れ込んでしまった。
「どうしたんだ!? 何かあったのか?」
「と、突然、ハア、ハア、ま、魔獣のむ、群れ、ハア、が!! ブ、ブル、ド様が!!」
相当慌てているのか、息を切らし言葉が上手く出てこないようなだが、ブルドが魔獣の群れに襲われているという事は分かった。
「どうして?!」
「ハア・・・・ン、た、たまたま他のパーティーが狩った後の場所に来てしまって、その残った血の匂いを嗅ぎつけて、大量の魔獣や大型の獣に取り囲まれてしまって・・・・」
「な! 血消しの薬草を撒いていなかったの?!」
「分からねぇ! でも確かに血の匂いが・・俺達、風上からその場に着いたから血の匂いが直前まで分からずに・・・お、俺だけ隙を見つけて逃げて・・・どうか助けてくれ! このままじゃ!!」
「・・・・・・・・・よし! 行こう! 場所を教えて」
「ちょ、ちょっとルダ! 正気? 相手はブルドだよ?! それにどれだけの数かもはっきり分からないのに!」
「ん~でも、嫌な奴でも一応、幼馴染だしね」
自分でもお人好しなのは分かるけど、やっぱり小さい頃から知っている人が死ぬのは考えたくない、見捨てたら多分だけど後で後悔すると思う。
「シェリーは、このまま村に戻って、助けを呼んできて。僕はそれまでこの人と時間を稼ぐから」
「でも!」
「本当なら、ここで僕が助ける! とか言えれば格好いいんだろうけど、さすがにそれは無理だからね。群れの注意を拡散させてブルド達が逃げられる隙を作ってみる。無理はしないから」
「だったら、私も行く! こんなへっぴり腰の男が居たって何の役にもたたないわよ!」
シェリーのストレートなもの言いに少し眉を歪めた様に見えた。
「だからだよ。ここから村まではそれなりに距離がある。君、ブルド達はどの辺に居るの?」
「こ、ここから北に半里ほどだ」
「ん~、身体強化で走って10分くらいか・・・なら村の方が倍以上あるね。この中でもたぶんシェリーが一番足が速いから村に戻って救助の手配を一番早くにできる。僕やこの怪我した人が村に向かっても、救助が遅くなるばかりなんだ。だからお願い」
と、説得はしてみたものの、うわ~相当に不満そうな顔で僕を睨んでるよ。
「わ、分かったわよ! たぶんそれが最善だわ。でもくれぐれも無理はしない! 約束よ!」
「うん! 約束だ」
「本当よ!?」
「僕が、シェリーとの約束破ったことある?」
「・・・・ない・・・バカ・・」
なんでここで顔を赤くするんだろう?
「いい? そこの貴方! ルダにもしもの事があったら、私がブルドも貴方達もこの世から消してあげるからね? いい?」
「ひ!」
彼、ここまで逃げてきた時の顔より青ざめてないか?
「じゃあシェリーお願い! ほら君、ブルド達のところへ案内して!」
「ルダ、気を付けて・・」
「うん!」
心配そうなシェリーに心配ないと微笑で返してから、その男の案内に従って森の奥へと向かった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「フ、やっぱりガキは扱いやすい・・・・・」
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