第15話 戻りました 4

「ファ、ファルナ! あれ、ドラゴモドキなの?!」


フィーの叫ぶような声に反応し皆がその一点を見つめた。


「ドラゴモドキ・・だよね? でも首から先が地面に埋まっている?」

「そ、そのようです。それに直ぐ横、もう一頭も倒れていますが、お腹辺りが爆発したように無くなってますし・・・それに、この2頭の周辺だけ、地面がすり鉢状にえぐれてませんか?」


ファルナの言葉に、フィーも、もう一度倒れているドラゴモドキの周辺を見直した。


「?! こ、これって地面が沈んでいるの? すり鉢状に深くえぐれている? まさかさっきまでの土埃ってこれが飛散した? でも何が? どこから? いったい・・・」


地面に直径が15メートルくらいあるだろうか? クレーターの中心に首がすっぽり土の中にめり込んだドラゴモドキと、その横に倒れるもう一頭のドラゴモドキ。その2頭に舞い上がっていた土埃が降り、大量の土が所々積もっている状態に、フィーは混乱していた。


「フィー様、落ち着いて下さい。とにかく私達は助かったのですから」

「・・・そ、そうよね。うん。とにかく危険は去ったのだからまずは落ち着きましょう」


フィーは自分に言い聞かせるように喋ると、ファルナを見て小さく頷いた。


「ありがとう、ファルナ」

「いえ、それよりこの惨状、どう思われます?」


ファルナの問いにフィーも今度は冷静に考える事ができた。


「そうね。2頭のドラゴモドキの惨状から考えれば、何かが降って来て圧し潰したと見えるのだけど?」

「そうですね。俄かには信じ難いですが、そう見えますよね?」


二人は、頭を捻らせ、う~んと唸り出す。


「隊長、報告よろしいでしょうか?」


そんな二人の所に、1人の騎士がやって来た。


「ロディか、現状の報告だな?」

「はい。隊の者の現状ですが、数人重症者はおりますが、生死にかかわる程の者は一人もおりません」


二人は、ほっと胸を撫で下ろす。


「そうか、よくもちこたえた。感謝する」

「いえ、それとドラゴモドキですが、2頭は死体として確認しておりますが、もう1頭は気配も感じませんので、森の奥へと逃げたもようです」

「・・・・分かった。先ずは負傷者の手当てを。必要とあれば、回復薬を使って構わん。それと警戒は怠るな。逃げたドラゴモドキが戻ってくるやもしれないからな」

「はい、了解いたしました!」


ロディと言われた騎士は、姿勢正しく敬礼すると、踵を返し去って行った。


「取り敢えず死人が出なくてホッとしたわ」

「そうですね。この現状からすれば奇跡ですね」

「これも、女神ラフタラーテ様のおかげかしら?」

「はい」


「おい! 大変だ! 子供が倒れているぞ!」


二人が、緊張から解放され一息つこうとした時、大きな声が聞こえて来た。

二人は慌てて声のする方に向かう。


「隊長! フィネーナ様!」

「どうした?! 何があった?」

「はい、それが、死んでいるドラゴモドキの間に、1人の少年が血まみれで倒れているのを発見しました」


二人は、部下が言っている意味を直ぐには理解できなかった。


「血まみれの少年? いったい何を言ってるの? こんな所に・・・」

「フィー様! もしかしてあの非常識な光景!」

「・・! そうだわ! 空か降って来た人!?」


二人は顔を見合わせ、あの時の事を思い出す。


「その子の所に案内しなさい!」

「フィネーナ様、しかしその者もう死んでいるかと思われますし、どういった者かも分かりませんので、お近づきになるのは・・・」

「馬鹿な事を言っているのではありません! その子のおかげで私達は助かったのやもしれないのですよ! それにまだ死んでいるとは限らなでしょ!? 有能な魔法師や魔操士なら生きている可能性もあります!」

「しかし・」

「フィー様、私も一緒にまいります」

「た、隊長?!」

「それなら文句はあるまい? 何かあれば私が姫をちゃんと護衛する」

「・・・・分かりました。ではこちらに」


ファルナの言葉で部下の騎士は、しぶしぶ頷き、二人をその場所へと案内する。

騎士は二人の前を歩き、2頭のドラゴモドキが重なる様に倒れている大きく抉れた穴の中へとゆっくり降りて行った。


「ここです。この2頭のドラゴモドキの間、この隙間に・・」


そう言って手で指示した先、2頭の身体が重なり、ちょうど人一人がスポリ納まる空間に、血まみれで、あちこち破けた白いワイシャツ1枚だけを着た、少年が倒れているのが見えた。


「!!? 死んでいるの?」


恐る恐ると、フィーが問いかける。


「いえ、狭くて中へ入れませんので、確認は出来ておりませんが、先程から一度も動いておりませんので・・・」

「・・・・そう・・・!? ん?」


その時、ファルナは一瞬、少年の指が微かに動いたのをはっきりと見た。


「生きてる!! 今、指が確かに動いた! 早く救出を!」


ファルナの声に、近くにいる騎士が一斉に反応し、現場に駆け寄ると皆が上に重なるドラゴモドキを持ち上げようとし始める。

多分有能な騎士達なのだろう、魔力操作も一般的な使い手よりも力を発揮しているのだろうが、その巨体を持ち上げるまでにはいかないようだ。


「フフ、フフフフ!」


皆の状況を見守っていたファルナの耳に、何か恐ろしい笑い声が聞こえてきた。


「フィ、フィー様?」


それは、不適な笑いをしながら、倒れている少年を一点に見つめるフィーの姿だった。


「今ね、ちょっとあの子の顔が見えたの・・・物凄く美少年だった・・美少年が血まみれのワイシャツ一つで・・・もう!! なんのご褒美かしら!! 私が絶対助けてあげる!!」


そう叫んだかと思った瞬間、フィーの身体から膨大な魔力が生み出され身体中を巡りだす。


「フィー様、落ち着いて!」

「私は冷静よ! 早く助けてあげないといけないでしょ!!」

「それはそうですが・・仕方ない! 皆! ドラゴモドキから離れろ! フィー様の巻き沿いをくうぞ!」


ファルナの叫びに素早く反応する騎士達。

どうも、こういう事はよくあるのか、騎士達も慌てずその場から離れた。

それを見ていたのか、全員がドラゴモドキから離れた瞬間、フィーの体が弾丸の様に前に弾き飛んで行った。


「その図体、邪魔だからどっかへ飛んで行け~!!!」

ドォンンン!!!


弾ける様に飛び出した勢いのままに、フィーは右手で作った拳を思いっきりドラゴモドキにぶちかました!


「おお!! さすがは我らの姫様! 魔王候補生でも第5位の実力はだてではございませんな!」


騎士達は、上空を飛び、遥か森の奥へと飛ばされていくドラゴモドキの巨体を見ながら、フィーを絶賛していた。


「まったくフィー様のこの力、普段から出れば一位にもなれますのに、年下の男の子絡みじゃないと発揮出来ないとは・・それに・・」

「ねえ! 見たファルナ! やっぱりものすごい美少年よ! ちゃんと息してる! 取り敢えず大丈夫みたい! それにしても、シャツよ! シャツとパンツ一枚だけよ! あ、鼻血出てきた」

「だあああ! フィー様のアンポンタン!!」

「ア? アンポンタン? ひっどーい! それが主人に向かっての言葉なの!?」

「アンポンタンが嫌なら年下好色魔王って呼んでさしあげます!!」

「え~! 魔王はいいけど年下好色って・・せめて年下愛好家とか?」

「どっちも駄目でしょ!! だいたい何でドラゴモドキを飛ばしちゃうのですか! あれの素材は武器等にも利用できる希少素材なんですよ!」

「あ・・・・・ま、まあ、もう一頭いるから・・ね?」

「駄目です! 今から取って来て下さい!」

「無理!無理!無理! さすがに一人でなんて! あ! じゃあこの子と一緒なら」

「バカですか! もういいです! フィー様はドラゴモドキを後で回収しますから腐らないように魔法で凍らせて下さい! この少年は私が手当てします!」

「ええええ?! そんなのおおぼうよ!! 私もその子を触りたい!」

「だから駄目なのです! フィー様にまかせたらこの少年の貞操の危機です」

「あ! そんな事言って、自分だけ楽しむのでしょ!! ずるい!」

「いい加減にしてください! これ以上ガタガタ抜かすと、ケツの穴にこの剣を射し込みますよ?」

「ひっ!!」


ファルナの顔は本気のマジだと感じたフィーは自分のおしりに手を当てて隠すと、ファルナを警戒しながら後ろへと下がって行った。


「まったく・・・」

それにしても、この少年?


ファルナは倒れている少年を優しく抱きかかえる。


まだ、10か11かな? 本当にこの子が空中から飛んできたの? しかもドラゴモドキを一撃で仕留めるだけの力、たぶん魔力操作だけじゃない、魔法での防御もしていないと・・どこの貴族の子だろう? 顔には見覚えがないけど・・・


「詮索は後だわ、とにかく他に怪我とかないか見てあげないと・・」


疑問だらえけではあったが、ファルナは急いで馬車へ戻り、少年、ルダを介抱する事を優先させた。


「ファルナ! 一人で良いことしないでよ!!」

「フィー様のアンポンタン!!」

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