第14話 戻りました 3 

時間は少し遡る。


「隊長! デルタが足をやられて戦闘不能です! 魔法師はほとんどが魔力切れで後退させます!」

「仕方ない! 私達もここを死守するので精一杯だ! 自分達の身は自分で守れと言っておけ!」

「はっ!」


銀色に輝く甲冑を着る大柄な騎士が返事を返すと、もう1頭のドラゴモドキと交戦中のグループの方へ駆け戻っていった。

その大柄な騎士に命令していた、白銀の甲冑を着こんだ小柄な体型の騎士が視線を戻したその先には、太く短めの四足に、大口に鋭い牙を連ねたドラゴモドキが2頭が、今にも襲い掛かろうと身を沈めその白銀の騎士を睨んでいた。


く! なんでこんな街道沿いに、3本角の魔獣、ドラゴモドキが3頭も出るのよ!


「ロディ!」

「はっ!」

「私達が時間稼ぎをする。その間にもう一人部下を選んで姫をお連れして、ボルクス村へ入るんだ!!」

「しかしそれでは! 隊長達が!」

「それが、我等の仕事だよ」

「しかし・・・」

「グダグダ言っているんじゃないの! こいつらを足止めするのも大概につらいのよ! とっとと行って!」

「・・・・はっ!! この身に変えても必ずや姫様を無事・・・ん?」

「どうした!」

「いえ、隊長、何か聞こえませんでしたか?」

「? 別に何も聞こえんぞ。それより早く姫様をお連れするんだ!!」

「はっ!」


隊長の命令で一人の騎士が後退して行く。

その先には作りの良い馬車が見えた。


「さて、ドラゴモドキ相手にどれだけ時間を稼げるか・・・」


一体のドラゴモドキと対峙する騎士隊長。

相手も攻撃を仕掛けたいのだろうが、その騎士隊長に隙がなく見合っている状態になっていた。

その時、後方で別の騎士と交戦していたドラゴモドキが急に騎士隊長目掛けて爆炎のブレスを噴き出す体制に入って入るのが見えた


「お、おい! 仲間のドラゴモドキが軸線上に要るのよ!?」


仲間に向けて攻撃をしない、なんて知能は魔獣には無かった。

その直後爆炎のブレスはモドキから吐き出され、騎士隊長目掛けて放たれた。


「しまっ・・」

「防壁、ソイルディフェンス!」


ドグァアンンンン!! ゴゥウウウウ!


炎が打ち出された瞬間より、ほんの少し早く隊長の前に術式の土壁が出現。

炎の塊を受け止め爆散し消滅させた。

驚く騎士隊長。

それもそのはずだ。

この魔法の防御術式は良く知っている者が得意とする魔法だからだ。


「フィー様! 何故出てこられた!」


隊長が大声を張りながら振り返ったその先に、白銀をベースに青く輝く鎧に身を包んだ金色の髪の美少女が、右腕をドラゴモドキに向け突き出した状態で、ドラゴモドキと対峙していた。


「何故もヘチマもないわよ! 私だって魔法師の端くれよ! 戦わないなんて選択はないわよ!」

「しかし公爵家の姫に、もしもの事があれば私は!!」

「そんな事言っている暇があったら、剣の一撃でも入れなさいよ! いつものファルナならドラゴモドキ程度なんとかするでしょ!?」


フィーの言葉に、隊長のファルナは大きく息をし、剣先を魔獣に向け相対する。


「フィー様、私が一人で相手出来るのは精々、2本角までですよ。3本角は流石に数人の補助がいります。その上3本角が3頭ですよ?」


ドラゴモドキの動きをけん制しながら、ファルナが必死になって答える。


「あら、そうでしたかしら? それって問題ですわね?」

「問題、大ありですよ! だからお逃げ下さいと・・」

「今更遅いですわ! みんなでなんとかこの状況を打開するわよ!」


まったく、うちの姫様ときたら・・・


「みんな! とにかく攻撃は首の付け根の下側に集中! 同じところに止まるな! 一番でかいこいつは私と姫で何とかする! 残り2頭を足止めしといてくれ!」


「隊長と、ひ、姫様が・・うおおおお! 護衛騎士の意地を見せろ! 姫様に無様な姿を見せるな!」

「おぉおぉおお! 何としても食い止めるぞ!」


他の騎士が、フィーの姿に鼓舞され、鈍くなっていた動きに精彩さが戻る。


『よし、皆の動きが戻った。けどこれも長くは続かない・・』


「姫! 援護をお願いします!」

「まかしといて! ドラゴモドキに攻撃する隙を与えないわよ!」


フィーが両手を魔獣に向けると、一気に魔力を高める。


「二属性魔法!氷撃!フリージペニデス!!」


呪文を詠唱すると同時に魔獣の足元から氷の棘というには大きすぎる塊が幾つも突き出す!


しかしそれを予知していたのか、ドラゴモドキは口から爆炎を吐き出し、突き出て来る氷の塊を一気に氷解させる。

が、その時に発生した水蒸気で視界が遮られたのを利用して、ファルナが剣を構え身体強化を最大にして突っ込む!


ガキーン!!


「チッ! 爪で塞がれた!」


見た目に反して、ドラゴモドキも考えているようで、自分の一番弱点になるところを狙われるのはよく分かっているようだ。

攻撃を見越して前足を器用に突き出しその爪で、ファルナの剣を防いでいた。


「く! こんな事で手間取っていたら、部下達の方が!」

「ファルナ! 文句言わない! もう一度行くわよ!!」


一瞬動きの止まった、ファルナにフィーが叱咤する。


「・?! どっちが騎士なのか・・・姫! 行くよ!!」


二人は再び、ドラゴモドキに仕掛けようと身構えたその時だ。


「「みなさあああああん! そこをどけて下さああああああい!!!!」」


フィー達の頭の上から、空気を震わすような大きな声が響き渡ったのだ。

その声に、一瞬、その場にいる騎士、魔獣、そしてファルナにフィーの動きが止まり、全員で空を見上げていた。


「は?! に、人間? なんで空を飛んでる!!」


一人の騎士が、自分の目を疑いその光景に驚きの声をあげた。


「・・ひ、人が降ってくる?」


フィーもあまりにも非常識な光景に、今の状況を忘れて突っ立てしまった。


ヴォオオオオオオ!!


「しまった!! 態勢を直せ!!」


先に動いたのはドラゴモドキだった。

それに一瞬遅れて、ファルナが指示を出すが、遅かった。

3頭のドラゴモドキは一斉に口から今までとは比べものにならない大きな炎の塊を作り上げ吐き出した。


ドッ!ガアアア!?☆○ガボッ!!××ガン※ヅウッガガガグシャ×!!!


何が起こったのかその場にいる者は誰も分からなかっただろう。いや、何かが起こった事すら分からなかった。

辺りは砂や土、木々が砕けた物が舞い上がり、なかには血なのか、肉片なのかそれらも入り交じった物までが舞い上がり視界を遮っていた。


「う、うう、い、一体何が・・・」

「その声? ファルナなの?」

「フィー様!? ご、ご無事ですか?!」


声でたぶん近くに居るだろう事は分かるが、あまりにも視界が悪く、二人はその姿を確認出来ないでいた。


「ファルナも無事みたいね。私の直ぐ近くに数人の部下が横たわっているけど、みな息はしているみたい」

「そうですか・・・他の者は無事か!」

「はい! 隊長! 第一班は皆、無事です!」


その声を皮切りに、騎士の声があがる。

その間に舞い上がっていた土埃が薄くなり、次第に人の姿が見え始めてきた。


「フィー様、ドラゴモドキの気配が消えてます」

「ええ、私も索敵してるけど、それらしい影はこの近くにはないわ」


二人はお互いの位置を確認しあいながら、周囲を注視する。

けれど、先程まで目の前にいたドラゴモドキの大きな体躯の影を確認することは出来なかった。


「姫様! 隊長! あれをご覧ください!」


近くにいた騎士の一人が、地上の一部を指差し大声で叫んだ。


「なんだ?」

「ファルナ・・あれ? 何かな? 何か塊が・・・」


二人はその一点を注視し続ける。

次第に土埃が消え、その姿がはっきりとわかり始めた。

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