第8話 女神降臨1

僕が必死に頭の中で叫んでも、体はピクリともしない。

その間にも足は遅いと言っても人が普通に走るよりは、断然早いスピードで近づいて来る。


だ、だめだ・・僕、死ぬのか・・・母さんごめん・・・シェリー、君の言う通りブルドを助けようなんて思わなきゃ良かった・・・


ガッバァ、グゥアギィ!!


鈍い音がしたと思ったら、僕の視界が大きく揺れた。

近くに見えていた地面は遥か遠くなり、森の樹々や空が目まぐるしく視界の中を行き来し、世界がグチャグチャに混ざった様に見えた。


ドッガァン!!


何だろう、何か固い物が当たった様な音がしたと思ったら、視界が動かなくなった。

あ? 眼球が動く。

とにかくどうなったんだ?

ドラゴモドキが迫ってきていたところまでは覚えていたけど・・・


?! 


「う! げえ、あ、うぇああああ!!」

「はぁ、はぁ、はぁ」


うっぷ、き、気持ち悪い・・

足が・・・無い・・無くなっている。

これが、僕の体なのか? 実感が無い。だって痛みが全く無いんだよ? 足どころか腰の一部まで無理やり千切られて、・・たぶん、あれは内臓の一部だ、赤々しい塊がベトッとした感じで石の上に流れ出ている。


・・・・石? あ、さっきブルドが座っていた石が積まれていたあれか? 

そうか僕はドラゴモドキに下半身を喰われて、引き千切られた勢いでここまで飛ばされてしまったのか・・・


ハハ、なんだよ、これ、どんな罰ゲームだよ・・何で意識が飛ばない! 何で喰われた自分の体をマジマジと見て気持ち悪くなって、吐いて、でも変に冷静な頭で見られているんだよ!!

僕が! 何か悪い事をしたって言うんですか!!

こんな事、神は許すのですか!?

 

少し離れた所でドラゴモドキが何かを美味しそうに食べてやがる。

いや何かじゃないな。

あれは僕の下半身だ。

あれを食べ終わったら今度はこの残った上半身を喰いに来るんだろうな・・・・いやだ

嫌だ! 嫌だ! 嫌だ! 嫌だ! 嫌だ!! 嫌だ!! 嫌だ!!! 

死にたくない! 死にたくない! 死にたくない! 死にたくない!! 死にたくない!!!


僕を・・僕を、助けて!! 女神ラフタラーテ様!!!


「はい。呼びましたの?」



僕が乗っている石積みの一番上、かなり赤みがかって来た空を背景に、白く見たことも無いような薄く輝く衣装を身にまとい、長い銀色の髪が特徴的な、それは美しい女性がにこやかに僕を覗いていた・・・


「あなたですの? 私を呼んだのは?」


えっと・・はい?


「? あれ? 何口をパクパクさせているのですの? ちゃんと話してもらわないとわからないですの?」


いったい、なんだ? 何でこんな所に、こんな綺麗な人が急に現れたんだ?


「あの~、ちゃんと聞いていますの? さっきからパクパクとお魚さんみたいに・・・ん? あれ? あなたの体から毒素を感じますの? それで喋れないのですの?」


え? 今の僕の状況を言い当てた?

僕は必死に首を縦に振ろうと頑張るのだが、全く身動きできない。

く! もしかしたら助かるチャンスかもしれないのに!!


「取り敢えず毒をを抜いてあげますの」


その女性が僕に向かって両手をかざし目を瞑った。


「ウァン・アンティドウティ」


彼女が言葉を歌う様に唱えると、僕の体が緑色に輝き出した。

それは1回の瞬き程で消えてしまった。


「これで、毒が消えたから喋れるはずですの」

「え?・・・・あ、あれ? 真面に喋れる・・・」


さっきまで呂律がまわらず、まともに言葉が出ていなかったのに、今はちゃんと話せる!


「さて、改めて聞きますの。私を呼んだのは、あなたですの?」


どういう事だ? 


「私を呼んだのは、あなたですの?」


さっきの光が何か関係があるのか?


「あなたが、呼んだのですの!?」


もしかしてこれが魔法なのか? じゃあ彼女は魔法師?


「・・・・・・・・・・・・・・」


魔法ってやっぱり凄いな。


「ちょっと、聞いてますの!?」

「あ?! え? あのう、どちら様でしょうか?」


「もう、じらしプレイですの? 最近の小さき知恵持つ者は、高度なテクニックを覚えたのですのね。これはちょっと期待、大ですの」


目の前の綺麗な女性が、変態な言葉を言っている。

何が期待、大なのだろうか?

それに魔法を使ったと言うことは魔法師の方なのだろうか?


「あの~貴女は魔法師の方でしょうか? それとも変態さんですか?」


「何、失礼な事を言っているですの! わたくし、こう見えても脱いだら凄いですの! じゃなかった。こう見えても偉い神様ですの!」


やっぱり、変態女なのかも・・・・・一難去ってまた一難。

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