第9話 女神降臨2

「それより、あなた、お名前はなんて言うですの?」

「え? ・・・不審者の方に名前を教えるのは、ちょっと」

「何を言っているですの? 私はちゃんと名乗りましたですの。ラフタラーテだって!」


両膝の前で、両こぶしを握り絞めてプンプン振り回し怒って・・・いるのか?

ラフタラーテって女神様と同じ名前?

どう見ても僕のイメージとは違う・・・ちょっと不思議な感じ? 本当にラフタラーテ様なのだろうか? 

ただ言えるのは普通の人ではないという事だけははっきりしている。


ドン! ドゥガアン!! ドゥガアン!!


「な!? なんだ? 何の音と振動だ?!」


いきなり僕の頭の上から、轟音と振動が降ってきた。

驚いてそちらに視線を向けると、さっきのドラゴモドキが図太い尻尾を、僕目掛けて振り下ろしていた。

けど、それは何かに阻まれているのか、僕には届かず弾き返されている。


「一体何だあれは?」

「あれですか? 結界ですよ? モドキちゃん程度の尻尾攻撃では破れませんですの」


胸を張って自慢している。

確かにあんな頑丈な結界は見たことがない。それに何の準備もしていなかったし、だいたい何時結界を張ったのかさえ分からなかった。

この女性、いったい?


「それであのモドキちゃん? あなたのペットか何かですの? 人が話している時にじゃれて来るなんて躾がなってないのですよ」

「違いますよ! あんな化け物がペットな訳ないじゃないですか! 僕は今あれに喰われて・・・って? そういえば僕、今、喋っている? 麻痺して喋れなかったはず・・」

「あら、結構まともだと思ったけど、思ったより気が動転していますのね? さっき私が魔法で毒を消したの覚えていますの?」


あれ? そう言えば・・・・


「思い出したようですのね? それでは改めて、あなたのお名前は?」

「・・・ルダと言います・・・」

「そう、ルダ君ね。それでその体、半分無くなっちゃっているの、何かの余興かと思ったけど、あの子に喰われたのですのね」


余興なわけないでしょ! と突っ込みを入れようとしたのだけど、それよりも早く立っていた石の上から突然滑る様に降りてくると、僕の周りをグルグルと回り出し始めた。

なんだか観察されているみたいだ。


「ちょ、ちょっと! なんですか! 死にかけの僕に何かしようっていうのですか!?」

「ちょっと黙って! 魔法で止血はしたから直ぐには死なないですの! それより、あなた死にかけ、という割にはちゃんと話していること分かっているですの?」

「・・・そういえば・・・普通に考えたら、この状況で冷静に話が出来るはずがないのに・・」


「あなた、たぶん耐性スキル持ちですの?」

「耐性? それって・・・・」

「ちょっと調べさせてもらうですの!」


そう言い放つと、僕の直ぐ横に座り、何やら僕の体を触り始めてきた。


血が流れ、内臓がはみ出ていたはずなのにそれが綺麗に止まっている。

痛みも麻痺しているからと思っていたけど、さっきちゃんと喋っていたし・・・毒は魔法で消したと言っていたな? という事は麻痺は解けているのか? なら何で痛みが無いんだ?

それにさっきまで感じていた恐怖も、今はあまり感じなくなっている。

・・・これが耐性の力なんだろうか?・・・


しかし、ラフタラーテ様と名乗る彼女は、僕の周りをグルグル回りながら、あちこち興味深そうに見ているし、さらに千切れた体の断面に指を当てて、フンフンと頷いたり、状況としては異常としか言いようがない事だけは確かだ。

僕は夢でも見ているのだろうか?


「そう、うん、これは凄いわね。よし、大体分かったわ」


ニヤリと口の端を上げて異様な圧力のある目で僕を見つめながら、そう語る彼女。

これは蛇に見つめられたカエルの心境じゃないだろうか?

額から冷や汗が流れた気がした。


「ゴクリ・・・・」

「あなた、このままじゃ死にますの」

「見たまんまじゃないですか!!」


それだけ観察しといてそれが結果ですか!


「 体が半分無くなっていれば誰だって分かるわ!!」

「失礼ですの。ちゃんと話は最後まで聞くですの!」


あ? その後があるのか?


「いいですの? どういう経緯か知らないですけど、体、半分喰われて死にかけて窮地に立たされていたですのね?」

「え? ええ、まあそうですね」

「たぶんそのおかげで、色々な耐性スキルなんが芽生えたみたいですの」


耐性スキル? たしか貴族様や有名なハンターで、特に優秀な人が持つとされている特殊なスキルとか、なんとかじゃなかったかな?


「ちょっと調べさせてもらったけど、恐怖耐性、物理耐性、衝撃耐性、毒耐性、麻痺耐性、痛覚遮断スキル、その他にも色々ですの。それに加えて、この魔力量、あなたの体内にある魔力量は尋常じゃないわね。これだけあると勝手に魔力が大量に流れて魔力操作が上手くできないでしょ? だから身体強化なんか上手く出来なかったはずですの」


そうだ、僕の身体強化は、物凄く不安定だった。

どうしても、制御ができなくて力の出方が一定にならなかった。

・・・・それを言い当てた?


「確かに、あなたの言われた通りですけど、それ本当なのですか?」

「本当ですの。今までにもそう言う事例を見て来たですもの」

「つまり、魔力操作が下手だと言いたいんですね?」

「違うですの! 魔力量に見合った魔力操作じゃないと言っているですの!」

「やっぱり下手だと言っているじゃないですか」

「・・・・まあ、そう言われたらそうなのですけど、ちょっと違うんですの」


何が違うと言うんだ?


「魔力操作のスキルは、使えば使うほど上手く使える様になるですの。ただ魔力量が多ければ多いほど使いこなすのに時間がかかるですの。あなたの場合は後、50年はかかるですの」


は? 50年? 

そ、そんなあ~。

そんなにかかったらもうおじさんと言うより、ハンターを引退する頃の歳じゃないか。


「あら? そんなに落ち込んでどうしたですの?」

「そんなの当たり前じゃないですか! そんな歳にならないと上手く魔力操作できないなんて、それまで強くなれないって事ですよ? ハンターとして人生終わっていますから!」


何で、そこで不思議そうな顔をするんだこの女性は?


「あ~!? 」


何だ? 閃いたみたいなジェスチャーして?


「ごめん、ごめん。神様基準で年齢考えてたですの。あなた人ですものね? 50年っていったら相当な年月だったですのね」


はあ? 何を言っているんだ、この人?


「分かったですの! ルダ、あなた私のいう事をききなさいですの! そうしたらあなたの体、治してあげて、その上に魔力操作を教えてあげて、さらに! 魔法力も授けちゃうですの!」

「は? 何を言っているんですか? 授けるとか、女神ラフタラーテ様みたいなこと・・・・・?」

「だから、さっきからそう言っているですの!」


本当に女神様、なのか?・・・・・


「僕に魔法力を授ける・・・授けてくださるんですか」

「そうよ。これだけの才能勿体ないですもの」


小さい頃から憧れていた、魔法。

ずっと願って、ラフタラーテ様にお祈りを続けていた事が叶う?

目の前に居る女性が本当に女神ラフタラーテ様なら・・・この際、本物かどうかは二の次だ!

どうせこのままじゃ死んでしまうんだ。

それなら、何も恐れることはない、それに懸けよう!


「お願いします! 僕に魔法力を下さい!」


体は動かないけど、心のなかでは土下座していると思うほどにお願いした。


「良いお返事ですの。それじゃあこれからあなたを神界に連れて行くですの!」

「え? 神界ですか?」

「そうよ。神界でないと設備とか色々足りない物があるですの。時間もかかりますのでね」

「時間って、どれくらいかかるのですか?」

「そうですのね。真面にやったらざっと3~4日前後? ですの」


3,4日?!


「これが、体組織の培養だの結合や定着等々、そうとう地道な作業が必要ですの。だからそれくらい必要ですの」


そんなにかかるのか。

あまり時間が経つと母さんも僕が死んだと思って悲しむだろうし、シェリーが変に自分を責めてしまうんじゃないかと、心配なんだけど・・・このまま死ぬよりはましか。


「本当は、あっ・・・という間に治せますって言いたいのだけど、ごめんですの」

「いえ、全然問題ないです! お願いします!」

「そう? じゃあこれでお互い意思確認できたから、あなたをこれから神界に送るですの」

「はい! お願いします!」

「じゃあ、その前にこのうるさいモドキちゃんを、どうにかしないとですの」


次の瞬間、結界の壁が壊れないので、むきになって叩きまくるドラゴモドキに向かって手を伸ばすと、パチン! と指を鳴らしたラフタラーテ様。


「パリン!」


透明の結界がガラスが割れる様に簡単に飛散した。


「せ~の!! ですの!」


ドン!!!


思いっきり振り抜いた女神様の拳がドラゴモドキの身体に突き刺さったかと思った瞬間、体が宙に持ち上がり、そのまま大空へと高く舞い上がっていってしまった。


「す、すごい・・・・」

「それじゃあ、神界に行って、まずはその体を治すですの」


僕の体を光が包む様に立ち上がり、それと共に意識がスーっとなくなって・・・


「フフ、今回の魔王候補に良い子が入りそうですの・・・だけど、今の人族の世界は色々と私利私欲が蔓延っているから、このルダって子ちょっと大変かもしれないですの。それでも頑張って良い魔王になってほしいものですの・・・また悲惨な時代が来ても対抗出来るだけの魔王に」


「・・・・・あ! そう言えば魔法力をあげる話しはしたけれど、魔王候補になる事は話してなかったですの・・・・・まあ! 良いですの!」

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