第11話 最悪の状況 2
その日、村の祭りは急遽取り止めとなり、ポルクス村は悲しみに沈んでいた。
そんな中、大きな馬車が一台、ある家の前に停まりその家を囲むように人だかりが出来ていた。
「リエナ、今回の件、なんと言ってお詫びすれば良いか、このゴージャス、心を痛めておりますぞ」
いたるところに宝石と豪華な衣装で着飾り、デップリとしたお腹を突き出している男が、三人の女性と机を挟み対面し頭を下げていた。
ただ座っているせいもあるが、机がデップリとしたお腹を邪魔をして頭を下げれないでいるようだ。
そのせいか、謝罪に誠意が全く感じられなかった。
「謝罪は受けとりました。申し訳ありませんが今日の所はお帰り願えませんでしょうか?」
ルダの母、リエナは真っ直ぐにゴージャスの顔を見、毅然と言いはなった。
「心痛はお察しするが、ゴージャス家の跡取りを救って下さった、ルダ君に報いるために村をあげて葬儀を執り行いと思っておるのだ。それに最愛の一人息子を亡くしたリエナの心情を察するに私も何か出来ないかと思っておるのだ。どうだろう? 今後の身の振り方についても相談したいと思うのだが?」
「一つ勘違いをされておられませんか?」
リエナのはっきりとした言葉にゴージャスの顔が引きつる。
「な、何を勘違いだと言うのだ? 亡くなったルダ君の葬儀の事と、リエナの今後を心配するわしの言葉のどこに勘違いがあると言うのだ?」
ゴージャスの言葉に少し苛立ちが見え隠れする。
「分からなければ言ってあげます。まずルダが死んだと誰が見たのです! まだ生きているかもしれませんでしょう?」
「は!? バカな。報告のあった状況でルダが生きていると誰が思うのだ? そこに居るレジーとシェリーが一番分かっているだろう?」
指をレジーとシェリーに突き出しながら、怒気を強めるゴージャス。
「いえ、ルダ君の物が確認されたのは全て足とかの下半身の一部です。上半身が食い荒らされた状況は確認できていません」
レジーはあくまでも丁寧に話す。
「何を馬鹿な事を! ルダは死んだんだ! 諦めろ!」
「ゴージャス様、まるで見てこられた様な言いぐさですね? もしかしてルダ君が襲われているのをブルド君は見ていたのですか? 強そうなパーティーメンバーを二人も従えておられたのに、何もせずに逃げ帰ったのでしょう?」
「! 我が息子を侮辱するか!? さっきも話したように、魔獣の群れから逃れる為に皆、自分達の事で精一杯だったのだ! 逃げながら戦っているうちに、いつの間にかルダと離れてしまったと言っていただろう!」
「でしたら、死んだと決めつけるのは、おかしいかと思いますが?」
「ぐっ! う、うう~」
反論出来ないゴージャスがレジーの事を睨みつける。
「レジーから聞いた話で私もルダの生存の可能性はあると信じております。ですので私の身の振り方の相談など必要ありません。それに私の身の振り方は私が決めます。ゴージャス様には関係ございません」
言い切りながらゴージャスを睨むリエナ。
それが気にくわないゴージャスは睨み返す。
「そもそも、ルダが死んだ責任の一旦は、競技会範囲の点検を怠った、レジー達にもあるのだぞ!?」
「それはない! なんども点検し、問題はなかった。それは複数人に確認している」
「どうだか。それこそ、自分の落ち度を隠しての言い訳ではないのか?」
ゴージャスとレジーが睨み会う中、リエナが口を開いた。
「ゴージャス様、あなたは今回の件で謝罪しに来られたのではないのですか? いつの間にか責任はレジーに有るような話をされ、ご自身には責任はないぞ!と言っているように聞こえるのですが? それってどうなのですか?」
「いや! 私は別にそのような事は・・」
「その様なお話は、また別の所でお願いします。私はルダの生存を信じていますのでこれ以上お話することはございません。今日の所はお引き取り下さい」
リエナは席を立ち上がると、玄関の扉を開け、ゴージャスにさっさと帰れと視線で訴える。
「く! ま、また出直す! それまでにもう一度、何が事実で何が最善なのか考えておけ!」
そう捨てぜりふを吐くと、玄関の扉に腹が擦れそうになりながら、リエナの家を出ていくゴージャス。
「リエナ、ごめん」
「良いわよ。レジー。それに今言った事は本当にそう思っているもの。私の息子がそんな簡単に死んでたまるもんですか。絶対に・・生きて・・・・・・」
ゴージャスの前では毅然としていたリエナだったが、緊張の糸が解れたのか、一気に瞳から涙をこぼし倒れそうになった。
それをレジーが辛うじて抱き締め抱える。
「ルダ・・・・・帰って来て!」
泣き崩れる親友のリエナの背中をさするレジー。
私が支えてあげないと・・私も生きてると信じて絶対にルダ君を見つける・・・そうしないと、リエナもそうだけど、シェリーが・・・・
レジーの視線は、ずっとただ俯きながらブツブツと独り言を喋っている娘のシェリーに向けられていた。
あの子も分かっているのだろう。今回の事、ブルドが企んで起こした事だと・・・
思い詰めて、何かしでかさなきゃいいけど・・・
「シェリー! しっかりしな!」
「え? ああ、母さん・・・大丈夫よ。それよりおばさまの事、支えてあげて・・・」
その言葉には全く感情は感じられなかった。
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