僕が魔王候補? それは無理! 期待しないでください。

ユウヒ シンジ

第1話 昔のお話

遠い遠い遥か昔。

豊かな自然と多くの命が生まれ育つ世界、クルルノアール。

神々はその地に気まぐれで自分達を型どった命、人を落とされました。

ただクルルノアールの地には魔素が他の世界よりも強く生成されていたため、魔素を魔力に変換し己の力とする生き物が勢力を伸ばしていたので、魔素を取り込めない人はその力の前になす術もなく殺されるばかりでした。

そこで神々は人に、この世界で生き抜くための力、魔素を取り込み魔力へ変換する能力とその使い方を教える事にしました。

教えられた人は、直ぐにそれを吸収し上手に使ってみせると、それまで圧倒されていた他の生き物を退け始めました。

神々はそれが嬉しくて次から次へと人に力を与え、知識を授ける様になりました。

やがて神は人の事を、知恵持つ小さき者、と呼ぶようになります。

その頃には、人が人を産み、集落を形成、主神の加護を受ける集団が構成され町を作り、国を作っていくほどに、クルルノアールの世界で繁栄を築くことになりました。


ある時、一柱の神が自分の加護する小さき者が一番賢く強いと言い出しました。

しかし他の神も黙ってはいませんでした。


「自分の加護する小さき者が一番強いと」


それは、次第に多くの神々を巻き込んでの言い争いとなりました。

ならばと、ある神が提案しました。


「自分達の加護する小さき者同士で競わせてみてはどうかと?」


そして人は神々の啓示に従い、どの神の小さき者が一番強いのか競い始めたのです。

初めの頃は、ルールのある競技での競い合いに終わっていましたが、次第にそれは過激なものへと変わりついに生死を勝ち負けの判定となってしまいます。


それからも競技という殺し合いが続き、いつしかそれは神の加護を受けた者同士の戦争へと激化。

それでも神々は競技を止めなかったのです。

なぜならそれが面白かったからです。

自分達に近い造形の生物が、自分達の教え通りに魔力を操作し戦い合い殺し合うのが。

自分達が教えた小さき者こそ最強なのだと競うのが楽しかったのです。

ただ、気づかなくてはいけなかった。

小さき者が争う度に、クルルノアールの世界の自然が壊され、命の循環を破壊して行っている事を。

そんな時代が数百年と続いていたある時、一柱の神、ラフタラーテが、事の重大さに気づきました。


「このままでは、このクルルノアール世界が滅んでしまうと」


ラフタラーテは、他の神々に訴え、このような争いを止めさせようとするが、大半の神は目の前の競技に夢中となっていて、聞く耳を持ちませんでした。

それでもラフタラーテは訴え続け、ようやく賛同してくれる神々が現れるようになったのですが、依然として止めさせるまでには至らず競技は続いていました。

そこでラフタラーテは変革を求める神々と、そのラフタラーテ界で争いを、強いられている小さき者と協力し聞き入れない神々に対抗しようとします。


後に言われる「神世界大戦」が起こったのです。


しかしラフタラーテを初めとする変革の神々とそれに協力する小さき者の数は以前少なく、保守の神々の圧倒的な力と数になす術もありませんでした。

そこでラフタラーテは、自分の加護を受ける小さき者の中から、特に魔力操作に長けている者を探し、神の力の一端である魔法を教える事にしたのです。

始めラフタラーテは魔法を上手く使いこなす事は出来ないだろうと思っていました。

実際、かなり昔から他の神も魔法を授けた事が何度かあったのですが一度たりとも使いこなす、小さき者は現れなかったからです。

ところが、ラフタラーテが探した小さき者は、あっという間に魔法を使いこなしてみせたのです。

その小さき者を、初めの魔法使いと呼ぶようになりました。

それからは、その魔法使いの独壇場です。

多くの小さき者を攻略し仲間に加え、その者にも魔法を教え出したのです。

すると、初めの魔法使いと同様に魔法を自在に操る者が多く現れたのです。

やがて魔法使いは大きな力となりラフタラーテと共に、競技を止めなかった神々、後に悪神と呼ばれる者をクルルノアールの世界から追放することに成功したのです。


そしてラフタラーテ世界の危機を救い小さき者、人に魔法を伝えた最初の神ラフタラーテを始めの神と呼び崇め、悪しき神々との戦いで最初の魔法使いを、


「魔王様と皆が呼ぶようになったのでした。お・し・ま・い」

「すっご~い! 魔王様ってもの凄く強い方なんだね!」

「そうよ。人類の英雄。初めの女神ラフタラーテ様の使徒、それが魔王様なの」

「凄いね。それで魔王様は、今でもいるの?」

「居られるわよ。代々その力を継承するお方が現れ魔王様となられるの。でも今の代の魔王様はかなりのお歳だからね。そろそろ新しい魔王様を選ぶ頃かも?」

「え?! 魔王様って選ばれるの?」

「そうよ。膨大な魔力をお持ちで、魔法力と魔力操作に長けた貴族様の方々の中で、特に優れた人が沢山集められて競い選ばれ、最後に女神ラフタラーテ様に加護を受け認められて初めて魔王様になれるのよ」

「そうなんだ!」

「今の魔王様は12代目だったかしら? 300年程前に加護を受けたとお聞きした事があるわ」

「へぇ~300年も生きておられるのかぁ・・でもなんで貴族様の中からしか魔王様は選ばれないの?」

「それは、魔法の力を持つのは貴族様だけだからよ」

「そうなの?」

「そうよ。ルダもさっきの物語に出てきた魔力は知っているわよね?」

「うん、この間、教会で勉強した時に教わったよ? 魔力は目に見えないけど。この世界のどこにでもあると言われている空気に近い物? だったかな?」

「そうね。誰でもその魔力を使って体や道具を魔力操作という力で強化する事ができるわ。まあ、個人で相当差はでるのだけど。でも神が教えて下さった魔法だけは、ある一定の人しか使えないの」

「それが貴族様なの?」

「そうよ。ルダは賢いわね」

「えへへ」

「魔法力は貴族様の血に宿っていると言われていてね、代々受け継がれるものらしいの。だから平民である私達には魔法力が宿ってないから魔法を使いたくても使えないの」

「え~、そんなぁ~!」

「こればっかりはねぇ、ごめんね、ルダ」

「あ! べ、別に母さんが悪い訳じゃないよ!」

「フフ、ルダは優しいね」

「べ、別に・・・」

「そうだ! 女神ラフタラーテ様に毎日お祈りを捧げたら、魔法力を授けてくれるかもしれないよ?」

「え? そうなの?」

「昔の物語で、平民の子がラフタラーテ様に一心に願ったら、魔法力を授かって貴族様になったっていうお話もあるからね」

「本当!?」

「まあ、物語だから、本当かどうかは母さんも分からないけど」

「・・・・でも僕、頑張ってみる! 毎日ラフタラーテ様にお祈りして魔法力を授かれるよう頼んでみる!」

「そうね・・・女神ラフタラーテ様にお祈りするのは良い事だし、頑張ってみなさい」

「うん! 頑張る!」

「それじゃあ、もう夜も遅いし寝ましょうか? 明日の朝から一緒にお祈りするわよ?」

「うん! わかった! お母さん!」

「ふふ、それじゃあおやすみなさい」

「うん! おやすみ・・・・・・・」

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