第17話 戻りました 6

「先ずは、お礼申し上げます。あなたが助けて下さらなければ、この命、ここで終わっていたかもしれません。本当にありがとうございます」


先程までのちょっとふざけた感じの雰囲気が一変し、背筋を整え優雅に微笑みながら僕に向かって頭を下げるフィー様。

でもちょっと窮屈そうな挨拶だ。

そうか、ここ馬車の中だ。だから座ったまま頭を下げて窮屈なんだ。


僕はファルナさんから少し離れ椅子に座り直し、自分も姿勢を正した。


「い、いえ、お礼をされる意味が良く分かりません。僕がフィー様の命を助けたというのですか?」

「はい、ドラゴモドキに襲われているところを、空中から一撃で」


空中から? 一撃? 

・・・・・・・・・・・・・あ?! ラフタラーテ様! 

そうか僕は神界から、飛ばされて・・・そう言えば、落ちている時にそんな光景を見たような?


「あ! あの魔獣に襲われていた?」

「そうです。おかげで、私を含め護衛の騎士も全員、命を落とす事がなかったのです。ですので、改めてお礼をさせて下さい」


そう言って、二人の女性が僕に対して頭を下げられた。

とは言っても、あれは、たまたまだしなぁ。ここまでお礼を言われるのはちょっと気恥ずかしいかも。


「いいですから! 僕もたまたま空中から落ちていたところで、遭遇しただけなので、偶然なんです。だからそんなに頭を下げないでもらえませんか?」


僕が手をブンブン振りながら、お二人に頭を下げるのを止めてもらうと必死になっていると、綺麗なファルナさんが、クスっと笑った。


「謙虚なのですね」


そう言って何故か頭を撫でられた。

不思議とあまり嫌な感じはしないもんだ。


「あ~私も!」


あれ? さっきまでの凛とした感じがいっぺんに消えて、だらしなさそうな顔に豹変したフィー様が、グリグリと僕の頭を撫でだした。

ちょっと、ムカッとくる。


「ねぇ、ぼく。どうして空から降って来たの?」


頭を撫でながらフィー様が聞いてきた。

そんなの僕だって知りたいですよ。ラフタラーテ様の悪戯か何かじゃないですか? だいたい一刻も早くボルクス村に帰らないと・・・・


「あああああ!!」

「ど、どうしたの!?」


そうだった! 早くボルクス村に帰らないといけないんだった! あれから結構時間が経って、母さんやシェリーたちが心配しているはずだから。


「す、すみません! 助けていただいたのに申し訳ないのですが、僕早く村に帰らないといけないんです!」

「村ですか?」

「はい! ボルクス村です!」

「あら、偶然ね。私達もボルクス村に用事があって向かう途中だったのよ」

「ほ、本当ですか!?」

「ええ、本当よ? もうここからなら馬車で一日もかからないわ・・・そうだ! でしたら私達がボルクス村まで君を送って行ってあげるわ!」

「え? でもご迷惑では?」

「そんな事ないない! かえって私としてもその方が嬉しいからね。ね? 絶対に一緒に行きましょう!」


僕の両肩をガシッと掴んで、逃がさないわよ! と言っていそうなほどの怖い目つきで誘われる。

これは、下手に断ったら、大変な事になりそうな気配がする。

ま、まあ、ここはお言葉に甘えるとしようか・・な。


「分かりました。ご迷惑でなければお願いします」

「本当!? 良かった! これで年下少年の匂いを長く嗅ぐ事が出来る!」


あ、失敗したかも。このフィー様と言う方、危ない方かも。


「大丈夫ですよ。このアンポンタンが襲って来ないように私があなたを守りますから」


僕の不安を察したのだろうか? ファルナさんが僕の前に手を出し、フィー様から守る様な仕草をみせてくれた。


「はい。それなら安心できます」

「ひっどーい! 少年! 村に着くまでに私の魅力を存分に分からしてあげるから覚悟しなさい!」


ビシッと指、刺されました。

僕は、その迫力につい、頷いていた。


「よし! それじゃあ自己紹介しましょう」


あ、そう言えば、まだ直接お名前を伺ってなかったな。

先ずは僕から話をしよう。


「では改めて助けて下さってありがとうございます。僕は、ルダ・ルーデルダ、11才です。ボルクス村出身です」

「え? 貴族の方じゃないの?」

「はい? 違いますけど?」

「・・・・・・・・・・・ファルナ!」

「は、はい! フィー様!」


突然大声を上げたかと思ったら、フィー様とファルナさんが、馬車の隅の方で顔を突き合わせて、何やら内緒の話をし始められた。

ここは、ちゃんと聞こえないようにしないと、たぶんいけないのだろうな?

そう思って、両耳をそれぞれの手で塞いでみた。


ヒソヒソ

「ちょっと、ファルナ」

「はい、フィー様、貴族ではないようですね」

「ええ、もし本当に平民の子なら・・・」

「はい、私達、物凄く幸運だったかもしれないわ」

「そうですね。ここはひとつ慎重に考えて行動しましょう」

ヒソヒソ


「ごめんね! ちょっと待ったかな?」


あ、内緒話が終わったみたいだ。


「いえ、大丈夫です」

「そう、えっと自己紹介の続きだったわね。えっと、私ですが、名前はフィネーナ・ラウスシュタットといいます。ラウスシュタット公爵家の長女です。そしてルダ君の横に座っているのが」

「はい、私、フィネーナ様の専属の護衛騎士であり、ローダンヌ伯爵家の次女、ファルナ・ローダンヌです。ルダさんよろしくお願いいたしますね」

「はい、こちらこそお願いしま・・・す・・?」


え? 公爵家? 伯爵家? え? え、ええ?


「えええええええ?! こ、公爵様? え?! 伯爵様?! も、申しありません!! 僕、物凄い不敬な事を沢山してしまって!」

「え? 大丈夫よ? 命の恩人のルダ君に、そんな事しないって。それよりボルクス村に向けて出発するわよ!」

「え、でも・・」

「大丈夫! 大丈夫!」


どう考えても大丈夫じゃないですよ!!

僕は、心の中で叫んだ。

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