第4話
「ふっ、あたしにこれだけ睨まれて全くひるまないとはね。まあ、あんたが何者でも構わない。とにかくうちにとって上客みたいだから……支払いは期待しな」
あっけなく引き下がった老婆は、そう言うとふんと鼻を鳴らしてさっさと倉庫をあとにした。
「ははっ、面白いお婆さんですね。でも、最後の支払いは期待しなって言葉はなかなか痺れました」
テオドールが笑顔で振り返ると、そこには固まっているリザベルトの姿があった。
「あれ?」
「あ、あれ? じゃないですよ! もう、ギルドマスターにあんな風に言うだなんて、心臓が止まるかと思いましたよ!」
冷や汗を浮かべ、顔を真っ青にしたリザベルトはあまりの緊張で手が震えている。
「あの人がギルドマスター……確かに雰囲気はありましたね。まあ、良い方みたいなのでよかったです。それで……」
テオドールは改めて清算を促す。
「そ、そうでしたね! 少々お待ち下さい。今、お金を持ってきます……あれ、レイク君?」
「ん」
ぬらりと突然現れたレイクは金の入った袋を持ってくると、それをリザベルトにぐいっと手渡してそのまま無言で去って行った。
「え、えっと、ちょっと中身を確認するのでお待ち下さい!」
「お願いします」
リザベルトは近くのテーブルに袋を置いて中身を確認していくが、途中で手が止まる。
『持ち込んだ薬草、毒草、麻痺草、沈黙草、水中花から計算して、そこに色をつけて多めにいれといた。今後のことも考えてこれを渡しておきな。ギルドマスター』
「……」
確認を(ギルドマスターのメモを読み)終えたリザベルトは無言で戻ってくる。
「こちらをどうぞ」
そして、袋からメモだけを抜いてそれをテオドールに渡した。
「あれ? これって多くないですか? いや、そこまで相場に詳しいわけじゃないんですけど……どう見ても多いような?」
さすがに明らかに多い金額だったため、テオドールも気づいてしまう。
「……ううぅ、やっぱりわかっちゃいますよね? ギルドマスターが多めに渡すようにって持ってきたみたいなんです。でもでも、私もこれだけのモノを持って来てくれたのだから多めに渡すのは当然だと思います!」
「……なるほど、わかりました。今度も良いものが手に入ったら持ってくることにして、今回はありがたく受け取ることにしますね!」
今後の動きとして、他の素材なども集めるつもりであるためそれを持ち込むことを検討していた。
「それでは、早速このお金で買い物をしていこうと思います」
「はい、ご案内しますね」
その後、テオドールはギルドの販売コーナーでいくつかの空き瓶と、調合用の道具を購入していった。
(さて、次はこれで色々作るか)
テオドールは賢者としての知識を使って色々と稼いでいく算段をつけていた。
買い物を終えて家に戻ってきたテオドールは、敷地内にある倉庫へと向かう。
自宅で加工作業を行うわけにもいかないため、テオドールは荷物を全て運び出された倉庫で作業をする。
「誰か入ってきたら面倒くさいから、念のため中から『ロック』、と」
屋敷を出るときにも使ったが、倉庫の内側から施錠の魔法をかける。
「ここならいいかな」
倉庫の中央あたりへと移動したテオドールは森で集めておいた木を並べて、火魔法で火おこしをしておく。
そこへ鉄製の三脚を置いて、水を入れた調合用の容器をのせた。
ちなみに、この水は湖のものだが、水中花が問題なく生息できるほどに魔素の濃い水である。
「さすがに煙がでたら、身体に悪そうだな」
空気がこもることがないように窓を開けて、風魔法によって換気をしていく。
次にテオドールは火から離れた場所にシートを広げて、その上に座って薬草をゴリゴリと薬研ですりつぶしていく。
丁寧に残しておいた薬草全てをすりつぶし終えると、今度は別の薬研を使って毒草を数枚潰していく。
それが終わったところで、火にかけた調合用の容器に視線を向ける。
「ちゃんと沸騰しているな、次は……」
立ち上がると容器の中にすりつぶした薬草と毒草の一部を8:2でいれて、ぐつぐつと煮込んでいく。
しばらくしたところで、テオドールが容器に手をかざして魔力を流しこんでいく。
この工程が最も重要であり、魔力が弱すぎればただの苦い水が出来上がり、魔力が強すぎれば小さな爆発を起こして黒焦げの塊ができる。
この作業が終わると、ついに美しい青い液体ができあがった。
透明感が高いほど品質が高く、テオドールが作ったものはそこらの錬金術師がつくるポーションとは比較にならないほど高品質のものだった。
「これを、別の鍋に入れて冷まして、次だな」
冷めるまでの間、新しく容器に水を入れて沸騰させ、すりつぶした薬草、毒草を入れて魔力を流すという作業を繰り返す。
沸騰するまでの間、魔力で鍋の周囲の温度を下げて中身の液体を冷却。冷めた液体は、小瓶になみなみと入れてふたをする。
「さあ、できあがりだ」
これら全ての作業を数回終えた頃には、液体が詰まった小瓶が二十を超えて完成していた。
薬草で資金を稼いだテオドールは、次は自作のポーションを作成して更に大きな金を稼ごうと考えていた。
品質には自信があり、通常よりも高い金額で買ってもらえると踏んでいる。
「……まだ、日は落ちてないな。行くか!」
闇魔法でポーションを収納すると、容器などを洗浄、片づけをして再度錬金術師ギルドへと向かっていった。
朝のうちに薬草採集、昼あたりに薬草をギルドに販売、これから夕方になるという時間に別の品物を売り込みに行くという強行軍だったが、テオドールは疲れを感じることのない元気な足取りである。
商売というにはまだまだ稚拙なものだったが、自分で集めたものを買い取ってもらい、その金で次の商品を用意するという流れを面白いと感じていた。
しかも、今回の品物には自信があり、儲けを考えると足取りが自然と軽くなってくる。
借金:3000万
所持金:約三十万(調合道具購入後)
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