第5話


「こんにちはー、また来ました!」

「あ、テオドールさん。いらっしゃいませ!」

 テオドールが錬金術師ギルドへと足を踏み入れて声をかけると、受付にいたリザベルトが笑顔で迎え入れてくれる。


「何か買い忘れでもありましたか? まだギルドは開いてますので、大丈夫ですよ」

 作業をするにあたって、足らない何かがあったと予想したリザベルトが販売コーナーへ案内しようとする。


「いえ、今回は買い取ってもらいたいものがあって来ました」

「えっ? またですか?」

 また前のように大量の薬草類が持ち込まれるのかと、彼女は目を丸くする。


「えっと、今回は薬草じゃなくてポーションなんですけど、買い取ってもらえますか?」

「え、ええっと、大丈夫なのですが、品質の確認のために一つサンプルとして提供して頂かないとなので……」

 想定のものと違ったため、リザベルトは動揺しながら対応していく。


「ちょっとお待ち、リザ。奥に行くよ。レイク、今日はもう店じまいだ。閉店の札を出しておきな!」

 そこに口をはさんできたのは、薬草の時にも顔をだしたギルドマスターだった。


 どこからか現れたレイクは言われるとおり、のそのそと無言で入り口の戸締りに向かった。

 ギルド内に職員以外の人はおらず、それだけで作業は済んでしまう。


「えっと、はい。すみません、テオドールさん。ギルドマスターが言ってますので、ご足労ですがおつき合い下さい」

「もちろんです。きっとギルドマスターにもお考えがあるのでしょう」

 テオドールは穏やかに返事をするが、その笑顔の裏で目は鋭さを持っている。

 ギルドマスターは前回チラリと顔を出すだけだったが、今回は少し多めに会話をすることになると彼は予想していた。


 そして、ここから繋がることができれば商売が広がるとも考えていた。


 案内されたのは先の時と同じ倉庫。端にあるテーブルの前にギルドマスターが立つ。


「それじゃ、ポーションをここにお出し。とりあえず一本でいいよ」

 そう言われてテオドールは一つだけ小瓶を取り出して置く。


「ふむ、それじゃあリザ、やりなさい」

「はいっ!?」

 急に話を振られたため、驚いてしまったリザベルトはテオドール、ギルドマスター、ポーションへ順番に視線を送る。


「ちゃんとおし! ポーションの品質を確認する方法はわかっているだろ? 忘れたのかい?」

「わ、わかりました」

 その言葉にテオドールとリザベルトが頷いて、小刀を取り出そうとする。

 これは実際に傷をつけてポーションで治療することで確認する方法である。


「待ちな。あんたの場合は別のやり方があるだろ? あんたの能力を使いな」

「――っ!?」

 普段は隠している能力について、しかもテオドールという他人の前で指摘されたことで言葉を失ってしまった。


「はあ……あんた、名前はなんていうんだったっけ?」

「テオドールです」

 ここでギルドマスターは急にテオドールへと質問し、それに素直に答える。


「テオドールね。いいかい、リザ。テオドールはとんでもない子なんだよ。あれだけの薬草を一人で持ってくるのはありえない。それにこのポーションだって、普通のものよりも澄んでいて輝いている……ただの確認じゃ足らないんだよ。だから、あんたの【鑑定】を使いな!」

「……はい」

 テオドールは二人のやりとりを聞いて感心している。


 普通のポーションではないことをギルドマスターは一見して見抜くだけの目を持っている。

 しかもリザベルトは、特別な魔眼を持っている者のみが使える鑑定能力を持っているという。


(へえ……すごいな)

 これは商人として成功していきたいと願うテオドールにとって、とても良い出会いだと思っていた。


「それでは失礼して……」

 リザベルトはポーションの小瓶を手に持つと、目に魔力を込めて鑑定を始める。彼女の瞳が優しく光を纏った。


「……えっ!? いや、まさか……でも、ええええええっ!?」

 最初は目に映る結果が信じられないのか何度も鑑定を繰り返している彼女だったが、結果、リザベルトはギルド中に聞こえるかというほどの大声をあげてしまうこととなった。


「ちょ、ちょっとリザ! 一体、何を見たっていうんだい!」

「ふ、ふふふふ」

 ギルドマスターの質問にリザベルトは笑っているかのような声を出している。


「な、何が可笑しいんだい?」

 動揺するギルドマスターの質問に対して、リザベルトは顔を驚愕の色に染めて大きく首を横に振っている。


「フフフ、フルヒールポーションですよ、これ!」

「…………」

 フルヒールポーション――それを聞いたギルドマスターの時が止まる。


 そして数秒後。


「フルヒールポーションンンンン!!?」

 今度はギルドマスターの大声がギルド中に響き渡った。


 通常、ポーション類は怪我を治す効力を持つ。

 ポーションは軽い傷を治す。ハイポーションは大きな傷を治す。

 これらが一般に流通しているものであり、品質の悪いものであれば回復量は小さい。


 それがフルヒールポーションとなると腕が千切れていても、足がもげていても、目が見えなくなっていても治すことができる。


 青の奇跡と呼ばれ、なんにでも効く万能薬とまで言われるものだった。

 こちらは一般的には流通していない。流通していないどころか、現存しているものがどれだけあるのかもわからない。


 競争相手がいない――だからこそテオドールはそこに目を付けたのだ。


「そ、そそそ、そんなもの、今は作れる者もいない。失われた技術でしか作れないと言われている。伝説の薬ではないか!?」

「そうなんですよ!」

 そう言いあった二人の視線は当然のごとくテオドールに集まっていた。



借金:3000万

所持金:約三十万(調合道具購入後)


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