第14話
「あの、みなさんをお連れしました」
受付嬢は控えめに数回ノックしてから声をかける。
『みなさん? ……入ってもらいなさい』
ギルドマスターは受付嬢の言葉に一瞬考え込むが、ジャーノが会いに来たと聞いているため、部屋に迎え入れることにした。
「おう、エイレム。急に来てすまんな」
受付嬢は下がり、ジャーノはずかずかと中に入って気軽な様子でギルドマスターに声をかける。
「えぇ、それは構いませんが……一人だと思っていましたよ」
慣れた様子で対応するギルドマスターエイレムは、ジャーノの後ろにいるテオドールとリザベルトに視線を向けていた。
エイレムはすらりと長身のエルフの男性で、眼鏡の奥には鋭い眼差しがある。
丁寧な言葉使いだが冷ややかな声音で冷静な人物を思わせる。質の良いローブを身にまとい、落ち着いた雰囲気だ。
見た目の年齢は青年のソレだが、ジャーノの知り合いでギルドマスターという立場から考えて、恐らくはかなりの年齢なのだと想像ができた。
「あぁ、今日はこいつらがお前に用事があってな。こいつらには別件で世話になったから、取次ぎを請け負ったというわけだ」
あくまで今回の主はテオドールたちだとジャーノが言う。
「ほう、あなたが世話に……それはなかなか興味深いですね」
このジャーノの一言だけで、エイレムはテオドールたちに興味を持っていた。
「とりあえず話を聞きましょう。三人ともそちらにかけて下さい」
「ありがとうございます」
「あ、ありがとうございます!」
テオドールとリザベルトは礼を言いながらソファに座り、ジャーノは無言でドカリと腰掛ける。
ジャーノは、場を整えるのが役目であるため、あとのことはテオドールに任せていた。
「まずは自己紹介からしましょう。私は冒険者ギルドのギルドマスターをしているエイレムと申します」
丁寧に頭を下げながらエイレムは自ら自己紹介を始める。
「ジャーノさんとは旧知の間柄といったところですね。お二人の名前を伺ってもよろしいですか?」
その問いかけにテオドールとリザベルトは頷いた。
「僕の名前はテオドール=ホワイトです。一応商人志望ということで、商売のまねごとをさせてもらっています」
それを聞いたエイレムは、テオドールがどんな目的で来たのかおおよそを把握する。
「私はリザベルトです。先日まで錬金術師ギルドの受付をやっていました。今はテオさんの相方? みたいな立場だと思います」
どうにも歯切れの悪い言い方のリザベルトだったが、自分が微妙な立場でいることを鑑みると、この言い方が適切だとも思えていた。
「ふむ、テオドールさんにリザベルトさんですね。それで、本日はどういったご用向きでしょうか?」
やっとここで本題に入れると、テオドールが真剣な表情になる。
「今日は武器を売りに来ました。特別な能力を持っている武器なので、買って頂けると助かります」
テオドールがストレートに、今回やってきた理由について口にする。
エイレムは眼鏡の奥にある目を細めて冷ややかにテオドールのことを見ていた。
ジャーノの知り合いだから話を聞いてはいたが、ただ武器を売りつけに来たということだけでは興味を惹かれなかった。
子どもが持ってくるものなら、どうせ大したことないだろうという先入観が働いている。
「その武器がこれです」
そんな気持ちの変化に気づいたテオドールはテーブルの上に武器を取り出していく。
置かれたのはマジックウェポンである四本の武器。片手剣はしまったままにしてある。
「む、これはなかなか」
実際に物を見てみると、エイレムはそれらに食いつき、手を伸ばそうとする。
しかし、勝手に触っていいものか一度テオドールに視線を送り、テオドールは無言で頷く。
「ほうほう、このナイフは手にしたものの魔力に応じて切れ味を増すのですね……こっちは、魔力さえあればナイフを通して魔法を発動することができる……」
エイレムは試しに魔力を流すことで、実際の能力を確認し、あっという間にテオドールが持ちこんだ武器に夢中になっていた。
マジックウェポンはダンジョン内などの魔素の影響によって生まれることが多く、手に入れるのはたやすくない。
その様子を見てテオドールは内心でガッツポーズをしている。
「いかがですか?」
ただし、表面上は平静を装って、落ち着いた口調でエイレムに尋ねる。
「いやいや、まさかこれほどのものを持ってきていたとは思ってもみなかったもので、もし態度に出ていたら申し訳ありません」
テオドールとリザベルトは、エイレムの第一印象をクールそのものとしていた。
しかし、今のエイレムはマジックウェポン四つを前に興奮を隠せずにいる。
「それでは、買い取ってもらえますか?」
「もちろんです! いかほどでしょうか?」
テオドールの質問にエイレムは即答した。
「えーっと……」
ここで、一つ問題にぶち当たる。
テオドールはこれらがどれほどの相場になるものかわかっておらず、視線をジャーノに向けた。
「うーむ、そうだな。これほどの武器だったら一つ百万でどうだ?」
武器屋としての経験から、ジャーノは妥当な値段を算出する。
「ひゃく!」
「まん!」
テオドールとリザベルトは予想していなかった高額に驚いて大きな声を出してしまった。
フルヒールポーションが五十万だったため、それと同じかそれより安いだろうと二人ともが予想していた。
「まあ、あなたの見立てなら間違いないでしょうし、実際そんなところかな。じゃあ、四つで四百万ですね。今、用意するので少々お待ち下さい」
特に問題ないだろうとエイレムはそう言うと立ち上がり、金を持ちに行った。
「……これで少しは借金の足しになるだろ」
エイレムが部屋から出たタイミングでジャーノが呟く。
その隣でテオドールとリザベルトは何度も頷いて返していた。
しばらくするとエイレムが大きめの袋を持って戻ってくる。
「お待たせしました。こちらが代金になります」
ドサリと音をたてて置かれた袋は、重量感があり、中に詰まった金貨が擦れる音がする。
「あ、ありがとうございます!」
ただで手に入れた武器。それがこれほどの大金になるとは想定以上の結果であり、さすがのテオドールも動揺していた。
「いや、こちらこそいい取引をさせてもらいました。また何かあったら持って来て下さい」
事前にジャーノは、冒険者との交渉に使うと説明していたが、実のところエイレムは武器マニアである。
特に今回のようなマジックウェポンには特に目がなかった。だからこそ彼を紹介したのだ。
話がひと段落し、良いものが手に入ったため、エイレムは目に見えてほくほく顔だ。
「さて、それでは本題に入りましょう」
そこを商機と見たテオドールが笑顔でそんなことを言う。
「えっ? 本題、ですか?」
虚を突かれたエイレムはキョトンとしている。
もう一つ大物をまだ出していないことを彼以外はわかっているため、エイレムがどんな反応をするのかと楽しみにしていた。
借金:4000万
所持金:400万+約30万
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