第10話
しばらくして、リザベルトが落ち着いたところでテオドールたちは錬金術師ギルドをあとにする。
「ふう、お時間とらせてすみませんでした」
外に出ると、リザベルトはテオドールに頭を下げる。その表情はスッキリとしたものになっていた。
「いやいや、リザが心置きなく動けるためには大事なことだったからね。なんにせよ、早急に金を稼がないと、二人とも奴隷まっしぐらだから……」
悲壮感あふれるような言葉だったが、その表情は笑顔だった。
「あっ、笑顔ということは、もしかして何かお金稼ぎの当てがあるんですね?」
「ふふっ、正解! これは、リザにも頑張ってもらわないといけないんだけど……いいかな?」
無理やりつき合わせるつもりは毛頭ないため、念のため確認をとる。もし彼女が望めばテオドールはいつでもリザベルトを解放する気でいた。
「もちろんです! 少しでもお役に立たねば!」
だがリザベルトは胸に手を当て、真剣な表情で頷き、やる気を見せる。
ギルドマスターに宣言したことで、リザベルトはこれからはテオドールの隣で全力で頑張っていこうと強く決めていた。
「ほら、またそれ。いいんだって、もっと気楽にいこうよ。稼ぐ方法は色々あるから、そこにチャレンジして、ダメだったら次を探そう!」
テオドールには不安も、無駄な気負いもなく、力が抜けた落ち着いた精神状態で色々な可能性を模索していた。
多額な借金があるにも関わらず、それ以上に多くの選択肢に満ちていることをテオドールは楽しいと感じていた。
「……テオさんはすごいですね。私なんて、なんとかしなきゃってあたふたしちゃいます。なにせ、二人分合わせてあれだけの借金があるので……」
暗い表情をみせるリザベルトは借金の金額を思い浮かべて、まるでそれが実際にのしかかっているかのように肩を落としている。
「まあまあ、大丈夫だって。色々やれることはあるからね、さあまずは武器屋さんに行くよ! ほらほら!」
テオドールは落ち込むリザベルトの背中を軽く押しながら、わざとおちゃらけながら急がせる。
「わ、わわわ、お、押さないで下さい! い、行きますって!」
そのかいあってか、武器屋への道のりの中、リザベルトの暗い表情はどこかに消えていた。
「はーい、到着」
ある一軒の店の前でテオドールが足を止める。
彼が案内したのは大通りにある、量産品が並んでいる大きな武器屋ではなく、一本路地を入ったとこにある昔気質の頑固おやじが店主をしている店だった。
店主が気難しい性格のためか、立ち寄る人は多くない。
「こ、ここですか?」
外から見ても雑多に武器が並んでいるのがわかり、女性一人で入るには抵抗がある――そんな店構えだった。
「そうそう、リザに会う前に色々な店を回ってみたんだけど、ここが一番気になる店だったんだよね」
賢者としての魔力感知、勇者としての直感、そして商人としての嗅覚がこの店には何かがあると訴えていた。
「そう、なんですか。まあ、テオさんがそうおっしゃるなら……」
戸惑いながらもリザベルトは渋々足を踏み入れていく。この時点で彼女は鑑定を使うために、目に魔力を込めている。
店に入ると同時に発動させた鑑定能力。そのことが、この店への印象を一変させることとなる。
「えっ? えええっ!? このお店、すごいです……」
鑑定によって、彼女の目には並んでいる装備が秘めている力が映っていた。
「……らっしゃい。好きに見ていってくんな」
店主は髭面のドワーフだったが、チラリとテオドールたちを見て一度声をかけると、すぐに手元でやっている何かの作業に戻って行った。
子どもと女性という二人組であるため、どうせ冷やかしだろうと決めつけてすぐに興味を失っていた。
「それじゃあ、見ていこうか」
テオドールは店主の反応は当然のものだと割り切っており、気にせずに店の中を歩いて回る。
「す、すごいです……これはミスリル鉱を使った魔剣……。こっちのナイフは切れ味が落ちることのない特別な加工がされています」
ただ見ているだけでも並んでいる武器がただものではないことがリザベルトにはわかる。
そこに鑑定能力が加わることで、その目利きに確信が加わっていた。
最初は半信半疑だったリザベルトだったが、今ではすっかり目の前の武器たちに見入っている。
「あー、確かにいいものが並んでいるんだけど、値段も相応なんだよねえ。それよりも僕が探したいのは掘り出し物で……」
テオドールは鑑定能力を持っていないため、武器が持つ魔力を感じながら探していく。
「掘り出し物ですかあ……」
路地裏にある小さな店で、これだけの品質の武器が置いてあることは十分掘り出し物なのではないかと思いつつも、リザベルトも順番に品物を見ていく。
「お、これなんかいいんじゃないかな」
しばらく店内の品を見ているうちに、一本の剣が気になってそれをテオドールが手にする。
それは棚に陳列されているものではなく、一本いくらで適当に樽に突き立てられていた数本の剣のうちの一本だった。
「これ、ですか……えっ? テ、テオさん! すぐに元の場所に戻して下さい! その剣呪われていますよ!」
テオドールが見つけたものを見たリザベルトは大きな声を出してしまう。
鑑定を使って武器の名前を確認していたからこその反応だった。
彼女の目に表示された名前は『呪われし魔剣バルムンク』。
「これでいいんだよ。それに、一本千ゴルドって格安だし。他にも呪われた武器ないかなあ? リザも呪われた武器を探してね」
テオドールはニヤリと笑うと、他の呪われた武器を探し始めた。
「えっ? は、はい……」
リザベルトは戸惑いながらも、彼の指示に従って武器の鑑定によって呪われた武器を探していく。
しばらく店の中を探し回った結果、見つけることができた呪いの武器は全部で五本。そのどれもが格安の値段で売られていた。
呪いの武器は、ぱっと見ただけではわかりにくいが、満足に使うことができなかったり、使用者に悪い影響を及ぼすことがある。
装備している間にその者の能力や性格を変えてしまうこともある。
「それじゃ、清算お願いします」
目的のものが複数見つかったため、テオドールはニコニコと満足顔でカウンターに品物を並べていた。
借金:4000万
所持金:約三十万
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