第34話
「今回の戦いではやはりテオドールさんがいなければ倒すことができませんでした。それは、この場にいる全員の総意となります!」
エイレムが代表して、この場にいる全員の言葉を代弁している。
その言葉に、リザベルトは言うまでもなく他の冒険者や参加している人々も頷いていた。
「あ、ありがとうございます」
その様子を見て、気圧されたテオドールは気圧されながら礼を言う。
「なので、こちらはテオドールさんに分配ということになります!」
エイレムが言いながら取り出したのは、ブレイズドラゴンの魔核だった。
今回、真っ二つにされながらもテオドールはうまく魔核の位置を把握して裂けていたため、傷一つなく回収できていた。
「こ、これを僕に? いやいや、これって一番高く売れるやつじゃないですか! もらえませんって!」
両手でなければ持てないほど大きな魔核をエイレムはテオドールに渡そうとしている。
魔核とはどの魔物においても最も高価な素材であり、魔物の魔力が凝縮されている心臓部になる。
それがブレイズドラゴンともなれば、内包している魔力量もとんでもないものだった。
「先ほども言いましたが、これは全員の総意なので受け取って下さい!」
肉だけを譲ってほしい、それをみんなで食べたいと提案した欲のないテオドールに対して、全員が彼に魔核を持っていってほしいと思っていた。
一番の功労者である彼をねぎらう気持ちと肉だけでは割に合わないと冒険者たち自らがエイレムに提案していたのだ。
「……わかりました。それではありがたく頂きます!」
彼らの好意を無下にするのは悪いと判断したテオドールは受け取った魔核を高く掲げた。
「いいぞ!」
「おめでとう!」
「羨ましいぞ、畜生!」
歓声に混じって嫉妬のような声もあったが、その表情は笑顔であり祝福の気持ちが表れている。
「他の素材に関しては、ちゃんとみなさんで分配できてますか?」
「それはもちろん! 鱗などは枚数もかなりあるので、ちゃんと戦いに参加した全員に分けられますのでご安心を!」
これからのことを思うとドラゴンの素材を放出することは自分の利益になると思っていたテオドールはきちんと冒険者たちが得をする取引ができていなければだめだと思っており、エイレムに確認する。
これも冒険者には事前に説明しており、これまた全員が納得していた。
「よかった。それじゃ、いよいよ……」
ここで一瞬のタメ。みんなが次の言葉を待ってワクワクしている。
「ドラゴンステーキパーティだああああ!!」
勝どきを上げるように腕を大きく上げたテオドールの言葉が、パーティ開始の合図となる。
「うおおおおおお!」
「きゃあああああ!」
「焼くぞおおお!」
「鉄板を火にかけろおおお!!」
一気に盛り上がりを見せ、料理できる組、薪や道具を用意する組、食器を用意する組、ただただ食べるのを待つ組に分かれていく。
「さて、それじゃあ僕は塩を用意するので、大きめのお皿をお願いします」
「あいよ! これを使いな!」
テオドールの言葉に、食器担当の冒険者が大皿を用意してくれた。
「ありがとうございます。それじゃあ、早速っと……」
拳大の岩塩を取り出すと、風魔法を使って徐々に削っていく。
「そ、それはどうやっているんだ?」
冒険者の中でも魔法を得意としている男性が質問する。
一般的に魔法をこんな風に雑用に使う発想はないため、テオドールがどのように岩塩を削っているのか未知の方法だった。
「えっと、左手で岩塩を持ちます。で、右手の手のひらに風の魔力をこめて、その風で岩塩を削ります」
「?????」
大したことをしていないつもりのテオドールはなんでもないように説明をするが、それを聞いても理解のできていない彼は首を傾げている。
「えっと、水でも土でもなんでもいいんですけど、こう、手のひらに魔力を集めますよね? それで、こうやってずががががあああって、削るんです」
「…………と、とりあえず、すごいことをやっているのはわかった。俺も作業に戻ろう……」
魔法というのは敵に向かって魔法名を口にして、それに合わせた魔力を持って魔法を発動させる。
大体の魔法は敵を倒すことを目的としているために大きな攻撃を用いて範囲で焼くというのが基本的な運用法だったため、細かな魔力調整を行うのは冒険者として活躍する者たちには少ないのだ。
当たり前のようにやっているテオドール自身はわからなかったが、かなり高度なことをやっていた。
「リザ、もしかして僕のやってるこれって、普通はやらないのかな?」
説明していて、あまりに手ごたえがないため、去っていった冒険者を見送りながらテオドールは首を傾げてリザベルトに質問する。
「……ええっと、その、言いづらいのですが……テオさんくらいかと」
リザベルトもいろんな人を見てきたつもりだが、テオドールのように属性魔力を直接使って何かをするというのは聞いたことがなかった。
「そ、そうだったのか……気をつけないと……いや、やり方によってはこれを金に……」
最初は自分自身の行いに戸惑っていたが、すぐにこれを金に換える方法を考え始めていた。
「ふふっ、そういうところ。すっごくテオさんらしいですね! なんにせよ、今はパーティを楽しみましょう!」
「そうだ! まずはステーキ食べたいのと、岩塩を売り込まないと!」
金稼ぎ思案モードに入りそうなテオドールだったが、リザベルトによって意識を引っ張り戻されてすぐに塩の準備に戻っていく。
総動員で肉が焼かれているため、それほど時間がかからずにステーキが焼きあがっていく。
「はい、こっち出来上がったよ!」
「こっちも焼けたぞ!」
「俺のは分厚い鉄板でやいた分厚い肉だから美味いぞ!」
「こっちは窯で焼いたぞ!」
次々にステーキが配られていき、あっというまに全員の手元にステーキが届いていく。
「みなさん、ステーキをそのままかぶりつきたかったり、ソースをかけたかったりすると思います。ですが、一度騙されたと思って僕が用意した塩を少しつけて食べてみて下さい!」
そう言うと、テオドールは自ら動いて塩を配っていく。
「うまっ!」
先に配られた者が焼きたてのステーキから漂う芳醇な肉汁の匂いに我慢ならないと肉にかぶりつき、口いっぱいに広がったその味は彼らから自然と言葉を引き出していた。
「ドラゴン美味い! あと、この塩やべえ! なんかすげえ美味い!」
最初に口にした人物から波及するように皆がかぶりついていき、シンプルな感想が次々にあがる。
「ドラゴンステーキの素材がいいのは確かにある。しかし、この塩の持つ力がすごい。塩が持つしょっぱさだけでなく、甘みを持っているからこそ肉の脂の甘みと融合して、更なる甘さを生み出している」
更に食通からの感想が追加されることで、岩塩の美味さの信憑性があがっていく。
「さあさあ、みなさんどんどんステーキを楽しんでください! 僕も食べますよ! ……うん、美味しい!」
自分も率先して食べることで、一層美味いということに根拠を重ねていく。
「いやいや、この塩はすごく美味しいですね! いつも食べているのと比べたら、格段に美味しいですよ!」
立場柄、高級なものもたべているエイレムだったが、それらよりも今回の塩につけたステーキの美味さに感動していた。
「よかった……それじゃ、リザ。今のうちに塩のサンプルを配るための小瓶を用意するよ!」
「はい!」
実食したことで、テオドールが用意した塩の評判はうなぎのぼりになっており、使いたいと思うのは料理人に留まらず、主婦や冒険者パーティの料理担当にまで広がっていた。
借金:3600万
所持金:約30万
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