第33話

「みなさん、聞いて下さい!」

 テオドールの声変わり間近の、まだ高い声があたりに響く。


「僕の名前はテオドールと言います。みなさんのご活躍があったおかげで、なんとかドラゴンを倒すことができました!」

 この宣言を聞いた冒険者たちは、内心でツッコミをいれている。


(((いやいや、ほどんどお前が一人で倒しただろ!)))


「これは心からの言葉です。みなさんがいなかったら、僕が攻撃するチャンスはありませんでした」

 周囲の考えていることを察しながらも自分の方に注目が集まり、ここからどう自分の思う方へ話を持っていけるかを考えつつテオドールは言葉を紡ぐ。

 彼の言葉には冒険者も頷いている。自分たちの頑張りが認められていることに悪い気はしていないようだ。


「今回、僕がドラゴンを斬ることができたのはみなさんのご協力はもちろんのこと……僕自身の力が少し、それよりなによりこの剣のおかげなんです!」

 自分の力は大したものではなく、これのおかげだといわんばかりにテオドールは魔剣バルムンクを高く掲げる。

 先ほどの魔力付与のうち、切れ味増強と対竜付与は永続効果として残り続けている。


 つまり、この剣はテオドールの魔力付与のおかげでただの魔剣バルムンクではなく、魔剣バルムンク改ともいえるほどに強化された、とんでもない魔剣になっている。


「……確かに子どもの力だけであんなことはできないよな」

「あの剣からはとんでもない力を感じる!」

「あの輝き、そんじょそこらの剣じゃないな……」

「なんだってあんな子どもがそんな武器を?」

 ここで、冒険者の興味はテオドールから魔剣へと移っていた。


「僕は商人の息子で、父を亡くした今は僕自身も大商人を目指すべく日々精進しています。その過程でこの剣を手に入れることができました! この剣の性能に関しては、ギルドマスターのエイレムさんのお墨付きです!」

「なるほど、そういうことですか……はあ、仕方ないですね」

 ここでどれだけ自分の商人としての話術を展開できるかで今後が決まるとそこまで話すとテオドールはタスキをつなぐようにエイレムに軽くアイコンタクトをして続きを促す。

 先ほど、テオドールが言った『頼みますよ』という言葉の意味を理解し、エイレムは一つため息をついてから顔をあげる。


「彼の言うとおりです、一度見せてもらったのですが稀に見る強力な剣であり、かなりの高額になります。ギルドでも無理をすれば買えないこともないのですが、こういった武器はやはりみなさんのように現役で戦っている冒険者が手にするのが一番だと判断しました!」

「「「「おおおおお!」」」」

 ギルドマスターの目から見ても強力な武器だと、改めて太鼓判がおされた。

 しかも、それをギルドで買い上げることはせずに、冒険者たちに購入機会があるとのことで歓声があがった。


「この剣の値段をつけるのは難しいです。なので、近い将来に王都のオークションにかけたいと思います。時期が決まったら冒険者ギルドに連絡を入れます……それまでにみなさん、たっくさん稼いで、ぜひぜひ参加して下さい!」

「「「「おおおおお!」」」」

 空気が完全にバルムンクへと流れたところでのテオドールの言葉に再度歓声が湧きあがった。


「そ・れ・と、せっかくブレイズドラゴンを倒したので、みんなで解体して山分けしましょう!」

「「「「うおおおおおおお!!」」」」

 更なるテオドールの呼びかけに再々度歓声が巻き起こる。

 今度は直接冒険者たちに利益があるため、今日一番の歓声となった。


 ドラゴンの素材とあればレアな高級素材ばかり。

 うまく回収できれば数か月分の収入を得られるとあっては彼らの反応も頷ける。


「……いいんですか? みんなで戦ったとはいえ、倒せたのはほぼ一人の力なんですよ?」

 それを近くで聞いていたエイレムが訝しむような表情で確認する。


 一番活躍した者が多くの素材を持っていくのが一般的であり、今回にいたってはテオドールが九割以上持っていっても不思議ではない。


「いやいや、せっかくみんなで協力して倒したわけですし、その前のワイバーンとの戦いでもみなさん尽力されていましたから!」

 にっこりと笑顔の謙虚なテオドールの発言に、冒険者たちは心を掴まれていく。


「ただ! もし、僕に少し優先権があるなら……」

 要望を出すテオドールに反対するものはおらず、しかしどれほどの量を持っていこうと考えているのかと心配し、緊張しながら言葉を待っている。


「――肉を分けて欲しいです! 実はとてもいい塩を手に入れたので、竜の肉でステーキを作ってそれをみんなで食べたら楽しいんじゃないかと思いまして……料理は得意ではないのでできれば手伝ってほしいのですが……」

 ここに来るまでに手に入れた岩塩を一緒に売る機会を得るためにそう提案するテオドール。


 思ってもみなかった提案に、一瞬の沈黙が生まれる。


「お、おおお! いいと思うぞ!」

「料理手伝うわ!」

「俺も元々料理人だ!」

「私も手伝います!」

「俺の鉄板を使ってくれ!」

 いい塩といい肉が目の前にあっては戦いの後で腹が減っている者も多く、次々に料理手伝い希望者が集まっていく。


「それでは、解体が終わったら、広場でみんなでドラゴンステーキパーティです!」

「「「「「やったーー!!」」」」」

 ドラゴン自体を倒すことができる者が少ないため、その肉を食べる機会はほとんどない。あってもかなりの高額なため手がでない。


 しかも、今回はブレイズドラゴンという希少なドラゴンの肉とあってはテンションもあがるというものだった。

 ちなみに、ドラゴンの肉は力が強いほど美味いといわれている。ブレイズドラゴンはドラゴン種の中でも上位種。

 ゆえに、解体にも力がはいるというものだった。


 解体に関しては、エイレムが陣頭指揮をとって効率よく行われていく。


 最功労者であるテオドールは解体を免除されたため、優しく微笑むリザベルトに膝枕をしてもらって休憩している。

 最初は遠慮したのだが、リザベルトに強く押されて少し恥ずかしい気持ちになりながらもテオドールは彼女の言う通り横になっていた。

 冒険者の中には錬金術師ギルドにいたリザベルトのファンだった者もおり、歯ぎしりをしてその光景を見ていた。





 それから、三時間が経過したところでついに解体が全て終わった。


「テオさん、テオさん、終わりましたよ」

 そろそろ起こしてあげたほうが良いと思ったリザベルトは決して大きな声は出さずに、軽く体を揺すって優しい声で覚醒を促す。


「う、ううん。リザ、ありがと。うーん!」

 すっかり熟睡していたテオドールは寝ぼけまなこをこすって起き上がると、伸びをしてから状況を確認する。


「……すごいね」

 汚れないようにシートが敷かれた上に、山盛りになったドラゴンの肉がある。

 そして、別のシートの上には爪、骨、眼、牙、鱗などが置かれていた。


 目覚めたテオドールに気づいたエイレムが説明のために彼のもとへとやってくる。


「テオドールさん起きましたか。作業していくなかで分配などについて話し合ったので、ご説明しますね」

「お願いします」

 完全に眠っていたため、状況がわからないテオドールは立ち上がって聞く態勢をとる。


「まず肉ですが、みんなで食べて残ったらそれらは全てテオドールさんにお持ちいただこうという話になりました。あれだけの量ともなれば恐らくは余るかと……」

「それはありがたいです! まあ、これだけいると残らないかもしれませんが……ふふっ、でも楽しみだなあ」

 今からドラゴンステーキを岩塩につけて食べる時をイメージして、テオドールの頬は緩んでいた。


「私も楽しみですよ! それはそれとしてですが、もう一つテオドールさんには渡したいものがあります」

 まだ話は終わっていないというエイレムの言葉に、テオドールは首を傾げる。


 リザベルトも、周囲の冒険者もそれがなんであるのか知っているらしくニコニコと笑顔になっていた。



借金:3600万

所持金:約30万

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