第21話
「おう、来たか。用意してあるぞ」
テオドールとリザベルトが到着するなり、開口一番ジャーノはそう言った。
「「えっ?」」
もちろんテオドールたちはなんのことを言ってるのかわからず、仲良く首を右に傾げる。
武器を買いに来たとは伝えていないはずだった。
「あれだ。呪いの装備、約束していただろ? 今持ってくるから待ってろ」
そう言うと、ジャーノは呪いの装備をとりに奥のスペースへ入っていく。
「もしかして、昨日すぐにどこかに行ったのは探してくれてたのかな?」
「お仕事が早いですね……さすがです!」
二人は昨日の今日で約束の物を用意してくれたジャーノのまじめさに感心していた。
少しして、大きな箱をいくつか抱えたジャーノが戻ってくる。
「よっこらせっと」
その様子からかなりの重量があり、実際にカウンターに箱が置かれた時のドサリという音は改めてその重量感を表していた。
「知り合いにも声をかけて、眠ってたり、扱いに困ってたりする呪われた装備を集めておいた。少しでも役にたつといいんだが……」
前回はたまたまどれもが特別な能力を持つ武器だったが、今回もそうであるとは限らないため、ジャーノはやや自信なさそうに言う。
「いやいや、これだけ集めてくれたのはすごく助かりますよ! なんだが、僕ばかり得しているような気がして申し訳ないですが……」
箱の中には十を超える武器・防具がしまってあり、テオドールは苦笑しながらそれらを確認していた。
「まあ、解呪できる奴なんてほかにいないから、みんな不良在庫を処分できるからただで譲ってくれたんだ。だから気にしないで持っていってくれ」
「ありがとうございます!」
十分過ぎる数の呪われた装備の提供にテオはホクホク顔でそれらをしまっていく。
「いやあ、これで金稼ぎのネタが一つできました……それで、本題に移りましょう」
収納し終えたテオドールは、少し真剣な表情になる。
「本題? 呪いの装備をとりに来たんじゃないのか? いや、何も言ってなかったから知ってるのはおかしいか……じゃあ、何か別の用事があって来たのか?」
ジャーノの問いかけにテオドールとリザベルトが頷く。
「今日は僕たちが使う武器を探しに来ました!」
「来ました!」
「ほう、そいつは面白いな!」
テオドールたちの武器を探す。これは二人の目利き、そして武器屋のジャーノがそれに応えられるか。勝負の始まりだった。
「最初に確認するが、二人はどんな武器を希望するんだ?」
ジャーノは先ほどまでの恩人に対する顔ではなく、武器職人の顔つきになって質問をする。
「僕は、魔法用に杖と、近接戦闘用に片手剣を探してます」
テオドールは賢者として魔法を使いやすくする杖、そして勇者として剣を振るうために片手剣という選択肢をとる。
「杖と剣? 対極にあるものを選ぶんだな……だが、まあお前ならそういうこともありそうだ」
その回答に一度は首を傾げたジャーノだったが、テオドールから感じられるポテンシャルを考えるとありえないことではないと納得する。
「私は、ナイフと弓矢ですかね。ナイフはいざという時に使う形で、メインは弓になります。矢をどうやって供給するのかは考えないといけませんね」
リザベルトは接近された時用に、最低限ナイフを持っておきたいと考えていた。
「こっちはおおよそ予想どおりといったところか」
エルフであることを考えると、これらの武器を選択することはジャーノにも予想できており、既に頭の中では候補が思い浮かんでいた。
「それじゃ、少し待っていてくれ。表に出してないものもあるから、そっちも確認して二人の希望をいくつか候補として探してこよう」
「「お願いします」」
テオドールは経験と魔力感知による判断、リザベルトは自らの鑑定能力に自信を持っていたが、ジャーノの経験に裏打ちされた職人ならでは目に期待していた。
二人のことを考えながらジャーノは真剣な表情で店の中、そして奥にしまってある在庫を確認していく。
「――なんか、あれだけ真剣に見てくれると楽しみになのと、変な緊張感があるね」
「はい……武器を持つのも久しぶりなので、それもあって余計に期待と緊張が膨らみます」
自分たちに適した装備を選んでくれることに、二人はワクワクドキドキが抑えきれず、ジャーノの背中に視線を送りながらうろうろしていた。
それから十分ほど経過したところで、ジャーノが戻ってくる。
「待たせたな。これはどうだ? まずはナイフだ」
先にリザの装備から見せていくつもりらしく、一本のナイフがカウンターに置かれた。
それは細身で派手ではないが、綺麗な雰囲気のナイフだ。
「へぇ、これはなかなか」
テオドールの目には、ナイフが持つ魔力が映っている。
「よ、予備のつもりだったんですけど、すごく良いものがきたので驚いています」
リザベルトは鑑定で、より詳細にナイフについて把握している。
「こいつは魔力銀という素材を使ったナイフでな。魔力を込めることで、刃が劣化することなく使えるし切れ味も増す。魔力が多ければ多いほど強くなるものだ。エルフだったら基本的に魔力は高いだろうし、ちょうどいいだろ」
この説明を聞いている間にも、リザベルトはナイフを手に取ってゆっくりと魔力を流し込んでいる。
彼女の魔力に呼応するようにナイフはぼんやりと青い光を放つ。
「綺麗です。それに、すごく手に馴染みます……」
軽くナイフを振るってみるが、重さを感じずに楽々と振ることができる。
「試しにこれを斬ってみてくれ」
そう言ってジャーノが用意したのは木片だった。
「わかりました」
リザベルトは力を込めずに、斬るという意識だけを強く持って木片に軽くナイフを振り下ろした。
「お」
思わずテオドールが声を出してしまうほどには、あっさりと、すっぱりと、綺麗な断面を作り出した。
「うむうむ、いい切り口だ。これなら十分戦いでも使えるだろ。それじゃ、次は弓を……」
ジャーノは結果に満足すると、すぐに次の武器の説明に移ろうとする。
「い、いえ、ちょっと待って下さい! こんなにすごいもの、これほどのものだったら高いですよね?」
使った当人だからこそ、武器の優秀さを最も実感しており、それゆえに価値の高さも理解していた。
「まあ、それはいいじゃないか。それよりナイフはいったん置いといて、この弓を持ってくれ」
ジャーノは値段のことよりも自分が選んだ武器の話がしたいようで、ずいっと押し付けるように弓を手渡してくる。
細くしなやかな弓の本体は緑をベースにしており、綺麗な森の木々をイメージした意匠が施されている。
「綺麗ですね、ツタをイメージした模様なんでしょうか?」
「あぁ、そんな感じだと聞いている。とりあえず弓を構えて、弦を引いて、そこで魔力を流してみてくれ」
デザインには特にこだわりはないようだが、性能を確かめたいジャーノは弓を手渡すと、数歩下がった。
「はい……あっ、すごいです!」
リザベルトは言われるまま魔力を流していく。その結果に彼女は興奮して大きな声を出す。
リザベルトの魔力に合わせて緑色に淡く輝く魔法の矢が生まれる。
弓を使う時は矢の残量を気にしながら戦わなければならないと考えていたが、この弓は魔力を込めることで魔力矢を生み出すことができるものだった。
「さっき矢の心配をしていたみたいだから、その心配をしなくていいものを持ってきた。ちなみに、普通の矢を使うこともできる。普通の矢を構えて、更に魔力を流すとそれを纏った強力な矢を放つこともできる」
「ふむふむ」
リザベルトは聞いているのか怪しいほどに、おざなりな返事をしており、その視線は弓に釘付けになっていた。
借金:3600万
所持金:約30万
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