第27話


「それじゃあ、一つ目の岩塩の回収が終わったからもう少し見て回ろうか」

 かなりの量を確保したテオドールだったが、ここはまだまだ宝の宝庫だと目当てをつけており、すぐに帰るつもりはなかった。


「わかりました!」

 元気よく返事をするリザベルトは、最初の戦闘以降も近づいてくる魔物の撃退を続けていた。

 戦いの訓練にもなっており、自らの上達が実感できるためまだまだここで修業を続けたいと思っている。


「おー、結構な数を倒したもんだね。これはいい金になりそうだ……うん、お仕事お疲れ様! 倒れた魔物を見るだけで多彩な攻撃をしたのがわかるよ。いいね!」

 嬉しそうにほほ笑むテオドールは魔物を収納しながらリザベルトの戦闘結果を褒めていく。


 矢による攻撃パターンもテオドールの指摘どおり増えていた。

 真っすぐ急所を狙うパターン。

 一射目にわざとゆっくりと矢を放ち、そのすぐあとに鋭い一撃を繰り出すパターン。

 正面からの矢に集中させて、上空から曲射の一発をあてるパターン。


 向かってくる敵に合わせて、リザベルトは今自分ができうる方法を試していた。


「っ――あ、ありがとうございます!」

 その工夫のことをテオドールがしっかりと理解してくれていることに、リザベルトは内心で感動し、嬉しそうにはにかむと頬を紅潮させていた。


「このあたりは結構魔物が多いから、今みたいな感じで僕が採掘をして、リザが魔物を倒す感じでいいかな?」

「了解しました!」

 テオドールの役に立てること、自分の力をまだまだ試せることにワクワクしているリザベルトは、弓を既に構えていつでも戦える用意をしている。


 それからテオドールは素材収集のための散策に、リザベルトはその警護ということで周囲の魔物に注意を払って見つけた際には即撃破という形で行動を開始する。


 リザベルトの実力があれば魔物に対しては問題はなく、テオドールも採掘に集中していく。





「――ここはやっぱり穴場だなあ」

 あれからしばらく見回った中で、岩塩の大きな塊をいくつも発見している。


 更には鉱石の塊も発見しており、そのうちの一つを手のひらに持ち、それを風魔法で少しずつ少しずつ削っていた。


「いやあ、リザは今日一日だけでかなり成長したなあ」

 それと同時にリザベルトが倒した魔物の回収をしている。

 確実に魔物の急所を狙ってしとめており、なおかつ素材に影響がでないように傷も最小限に抑えていた。


 リザベルトはエルフであるため元々の魔力量が多く、これだけの魔物に向けて魔力矢を放っても問題なく戦うことができている。


「さて、魔物の回収は終わったけど……リザ?」

 近くで戦っていたはずのリザベルトの姿が見当たらないため、違和感を覚えたテオドールはすぐに風魔法による探知で彼女の居場所を探そうとする。

  

「――きゃああっ!」

 それとほぼ同時に、離れた場所からリザベルトの悲鳴が聞こえてきた。


「リザ!」

 悲鳴が聞こえて来た方へと走り始め、同時に魔法を展開する。

 悲鳴をあげたとなれば、何かが起きたということであり、事前に状況を把握しておきたかった。


 風魔法でのサーチ能力を駆使して何かと対峙していることだけは予想できたため、突入してすぐに攻撃できるように構えつつ進む。


「魔物……それも、こいつは!」

 ほどなくしてリザベルトがいる場所にかけつけると、彼女が魔物と対峙しているのが確認できる。


「フレイムバード、それもこのサイズは成体!」

 魔物のタイプは鳥、名前からわかるとおり燃える羽を持つ火属性の魔物である。

 しかも、テオドールが成体であると指摘したとおり、サイズは全長五メートルほどあるのが目測でわかった。


 幼体と成体ではその強さが段違いだと言われている。

 悠々と、だが確実にリザベルトを敵視した様子で力強く羽ばたくその魔物は小さく炎をまき散らしている。


「リザ、大丈夫!?」

「な、なんとか……」

 構えていた魔法を一つ放ち、敵と少し距離をとったテオドールは彼女をちらりと横目に見ながらかばうように立つ。

 ところどころ切り傷や火傷などが見られるが、必死の表情で武器を構えるリザベルトはなんとか直撃を避けていたようだ。


「こいつは、高ランクの冒険者でもないとまともに戦えない強力な魔物だけど。なんでこんな場所に……」

 勇者時代に戦ったことのある魔物だが、その時は仲間の魔法使いが炎の攻撃をシャットアウトしてくれたことで簡単に倒すことができた。


 しかし、攻撃を防ぐ手段を持っていなければ、急激に倒すのが難しくなり、討伐難易度は上から数えて三つ目のBランクに相当する。


 それを、単独でとなるとよほどの実力者でなければ難しい。


「ピーーー!」

 テオドールが駆け付けた今もフレイムバードは苛立ち交じりの鳴き声とともに火の羽根をリザベルトに向かって撃ちだしている。


「くっ」

 迫りくる火の羽根に身構えたリザベルトは痛みに顔をしかめる。

 それまで軽快に回避していた彼女だったが、先ほど悲鳴をあげたときに太もものあたりを羽根によって切られたせいで動きは鈍くなっていた。


「――させないよ」

 彼女の血を見たテオドールは一瞬で状況を理解し、自分の頭が嫌なほど冷静になっていくのを感じていた。


 冷たい声でそう言い放つ彼の左手にはジャーノの店で手に入れた杖が握られている。

 一瞬で練り上げられた魔力によって杖の先端が強く光り輝き、魔法が発動されていた。


「す、すごい……」

 リザベルトは目の前の光景に驚いている。

 彼女めがけて飛んできていたはずの羽根が全て凍り付き、空中で止まっていた。


 そしてそれをそのままひねりつぶすように魔力を操作して砕け散らせた。


「僕の大事な仲間が傷つけられるのを黙ってみているわけにはいかないでしょ。それじゃ……いくよ」

 キラキラと細かい氷の結晶が舞い散る中、テオドールは左手の杖はそのままで、右手に剣を握ってフレイムバードへと向かって走って行く。


「ピ、ピピー!」

 これまでこの攻撃を止められたことがないフレイムバードは困惑にたじろぐ。

 何物をも焼き尽くす自分の炎が凍ることなど考えたこともなかった。

 なぜ自分の羽根が止められたのか理解できずにいるフレイムバードはそれでも向かってくる相手に攻撃をする以外に選択肢がない。


 ひとまず先ほどまでと同じように火の羽根をテオドールに放つ。

 それと同時に口の中ではブレスを吐く準備をしていた。


 羽根は恐らく止められてしまう。ならば次の手を用意しなければいけない――それほどに、フレイムバードは彼に対して恐怖心を持っていた。


「――せい!」

 それに対してテオドールは魔法を発動せずに、羽根を腰にあった剣を引き抜くと、的確に次々と撃ち落としていく。


「!?」

 フレイムバードの予想ではリザベルトを守った時と同様に空中で止められると思っていた。

 これまで対峙してきた魔法使いという生き物は詠唱するのに時間をかけるのを知っていたフレイムバードは、テオドールが魔法を発動させることによって、一瞬でも彼の動きが止まるのではないかと考えていた。


「終わりだ!」

 驚いているフレイムバードの隙を狙って、テオドールは地面を思い切り蹴る。

 魔力を込めて身体強化をはかっているため、足の形に地面がへこんでいる。


「ピ……」

 声を出そうとした瞬間には、フレイムバードは一刀両断、真っ二つになってその場に落ちた。


「ふう、まともに剣を振ったのはこの身体だと初めてだけど、なんとかなるもんだね」

 想像していた以上に記憶に身体がついてきたことにテオドールは少し驚きながらもへにゃりと笑って見せた。


 勇者の記憶を持ってはいるものの、テオドールの人生の中でまともに剣を使ったのは初体験だった。

 それでも見事フレイムバードを一瞬のうちに撃破することとなった。


「す、すごいです……」

 単騎撃破が難しいといわれるフレイムバードをあっという間に制圧したテオドールが戻ってくるのを呆然と見つめるリザベルト。


 本日何度目なのかというほど繰り返されたリザベルトの『すごい』という言葉。

 しかし、それ以外の言葉が出ないほどにテオドールの実力に驚いていた。




借金:3600万

所持金:約30万

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