第26話
「それじゃ、リザが木の棒の使い方に気づいてくれたから、もう一気にやっちゃおう」
テオドールは手にしていた木の棒をしまうと、岩に向かって手のひらをあてる。
「『アースブレイク』」
これは一般的に使われている魔法ではなく、テオが賢者時代に創り出したオリジナル魔法で、採掘をする際に使うものだった。
たった一言だが、結果としては表面の岩の部分を砕いて中にある目的のものを表出させる。
しかも必要最低限の削りだけを加えるため、狙った部分を傷つけることはない。
「こ、こんな方法で採掘するなんて……」
もちろんこんな方法を見たことのないリザベルトは驚いている。
「ふふっ、色々な魔法を開発したからねえ。それよりほら」
テオドールは驚いているリザベルトを楽しそうにみながらも、採掘したソレの欠片を彼女に手渡す。
「これは……岩塩ですか?」
彼女の持つ鑑定能力を使わなくてもそれは明らかに岩塩だった。
ころりと手のひらに転がった岩塩の欠片から顔を上げたリザベルトの回答にテオドールはコクリと頷く。
このあたりの岩山はあまり知られていないが、岩塩地帯になっており、ここも大きな岩塩が姿を見せている。
「さっき足から流した魔力でこのあたりを探ってみたけど、一番岩塩が多いみたいだから、まずはそれを集めてみようかなと思ってるんだ」
ニコニコと笑顔のテオドールは嬉しそうに言うが、困惑の表情を浮かべるリザベルトはこれが商品になるとは思えなかった。
「えーっと、岩塩ですよね? 聞いたことはありますけど、それが何か……」
彼女の知識では岩塩とはしょっぱい石の塊であり、まるで塩のような味だが、あくまで岩である。
そのため、それを集めてもどうにかなるとは思えなかった。
「あー、確かにこのあたりだと岩塩はただの岩扱いだったね。これは普通の塩として使えるし、むしろ栄養がたくさん入ってるし美味しいんだよ。試しに……ほら、ちょっとつまんで舐めてごらん」
テオドールは一部を魔法で少し細かく削り取ったものを手のひらにのせてリザベルトに差し出す。
「ほ、本気ですか?」
「もちろん!」
岩を舐めろと言われてどこか抵抗感のあるリザベルトだったが、笑顔で頷くテオドールを前にしては断るわけにもいかず、恐る恐るそれをつまんで口に運ぶ。
「……わー! しょっぱいだけじゃなくてほんのり甘みがあって……おいしいです!」
驚いたリザベルトは再度ひとつまみ岩塩を手に取って口に運んで、嬉しそうにほほ笑むと塩の甘みを感じていた。
「うんうん、いい反応だね。こうやって削ったものに肉をつけてたべたり、色々料理に使うと味に深みが出て美味しくなるんだ。これが広まったらすごいことになるんじゃないかな」
ニヤリと笑うテオドールは、リザベルトの反応から商機を見出していた。
「これはすごいです! この塩が広まれば、周辺地域の料理に革命がおきると思います!」
この周辺には海がなく、塩を手に入れるには遠くから仕入れなければならない。となると、自然と価格もあがってしまう。
しかし、この岩塩が広まれば輸送距離が短くなる上に、恐らく埋蔵量もかなりのものであるため、安価に手に入れることができる。
「そう! でも、まだこのことを知っているのは僕とリザだけ。しかも、僕は魔法でどこに岩塩があるのかを探ることができて、魔法で採掘することができて、魔法で収納して運ぶことができるんだ!」
つまり、この状況はテオドールの一人勝ちということになる。
「す、すごいです!」
誰も見向きもしない素材を手に入れて、それを商売に繋げていく。
他の人が思いつかないこの発想力にリザベルトは感動していた。
「しかも、この山にはかなりの岩塩があって、それ以外にも鉱石が眠っている場所もある。加えて、珍しい魔物もいるみたいだ……」
「えっ!?」
真剣な表情でテオドールが視線の向きを変えたため、びくっと身をすくめたリザベルトも慌ててそちらを見る。
そこには岩の鱗を持つ巨大トカゲの魔物、岩の毛並みを持つ狼の魔物がいた。
それぞれ三体ずつおり、うなりを上げてじりじりと近づき、明らかにテオドールたちを獲物として狙いを定めている。
「あいつらなら魔核もそこそこ大きいから価値はあるはずだ。それに、岩でできた鱗や毛は珍しい素材だからいいお金になりそうだね」
素材が向こうからやってきたといわんばかりにテオドールは傷を最小限に倒す方法を頭の中で考えながら、右手に剣を持つ。
「待って下さい! あの魔物なら、私が!」
「お! それじゃあお願いしようかな。堅い魔物だから、そこだけ注意して」
「はい!」
彼女のやる気を応援したいと思ったテオドールはアドバイス程度にとどめて身を引く。
山に来るまでの間に魔力操作の訓練をしていたリザベルトは、その力を試してみたかった。
更にいえば、ここまでリザベルトが役にたったのは少し鑑定をした程度であるため、なんとか活躍の場を得たいと考えていた。
敵とはいまだ少し距離があり、向こうもまだ跳びかかってくる様子はない。
「それでは、いきます」
敵の気配を感じながらも気持ちを切り替え、スーッと集中に入る。
先ほどまでのびっくりしていた様子は消え、静かなそのまなざしと表情はすっかり戦いモードになっていた。
しかし、その肩に緊張などの力は入っておらず、いい状態にあった。
ゆっくりと弦をひきながら、矢を造り出していく。
矢の数は三。込められた魔力が大きいため、サイズも自然と大きくなっている。
「スーッ、はあ!」
一度大きく息を吸って、次の瞬間息を強く吐き出した。
それは矢の発射合図であり、三本が同時に発射される。威力も高く、真っすぐ狙いどおりに魔物を捉えんとしている。
そしてそれと同時に走り出す。弓などの遠距離攻撃はじっとしていると敵にすぐ居場所を知られてしまうからだ。
「「「ピギャアアアア」」」
彼女の最初に放った矢はそれぞれが三体の巨大トカゲの頭部を貫いた。
威力と命中精度だけでなく、矢が飛んでいく速度もあがっており、あっという間のできごとだった。
「ガア?」
一緒にやってきていた狼のうち一体は、目の前にいたトカゲを見て何が起こっているのか理解できずに首を傾げている。
「はあ!」
その隙を逃すことなく、駆け抜けながらリザベルトは三体の狼めがけて矢を放つ。
よそ見をしていた狼は頭部を撃ち抜かれたが、残りの二体は横に飛んで矢を回避していた。
見事に避けた二体はニヤリと笑い、リザベルトに攻撃をしかけようと視線を向けるが、その瞬間にニノ矢で頭部を撃ち抜かれていた。
今回は、避けられることを想定したうえで追加の攻撃を放っていた。
「甘いですよ」
彼女はテオドールに指導されたことを的確に実行していく。
敵を一撃で倒せるものと思わずに、確実にとどめをさせるよう次の攻撃を放っていた。
「いやあ、にしてもあの一瞬で六発の矢を撃つとは見事だね!」
テオドールはリザベルトの攻撃について称賛する。
草原での初戦闘からここにいたるまでの間に、多くのパターンの攻撃を身に着けたことを嬉しく思っていた。
「……いえ、狼の動きを予測できたら無駄矢を撃つ必要はなかったんですけどね。私にはそこまではできなかったのでこのような形になりました」
敵を殲滅し終え、戻ってきたリザベルトはテオドールからの称賛の声に、少し納得がいかなかったのか小さく首を振る。
狼が右に避けるか左に避けるかまでわからなかった彼女は、その両方に矢を放つことで逃げ道を潰すという手段をとっていた。
「いやいや、そのあたりは経験も必要になるからこれからだよ。今は確実に魔物を倒せたことのほうが大事だと思うよ。すごく強くなったと思うし、今後も期待してるね!」
自分の力がまだまだだと思っているリザベルトのことをテオドールは卑下することないと存分に褒めることにする。
実際、草原の時の彼女から格段に力がアップしているため十分過ぎる成長だと感じていた。
「ありがとうございます。攻撃の幅が広がっているのを感じているので、もっとこれをうまく活かせるように頑張ります!」
リザベルトは自分の力に納得はいってないものの、テオドールに褒められたことで少しだけ自信を持てるような気持ちになっていた。
「さて、倒してくれた魔物は僕の魔法で収納しておこうか」
テオドールはリザベルトが倒した魔物たちを魔法で吸い込むように収納していく。
このあたりの魔物は硬く、武器が刃こぼれをするリスクを考えて、あまり冒険者も近寄らない。そのため魔物の素材も希少性がある。
岩塩に続いて、魔物の素材も手に入ったテオドールはホクホク顔で次の素材を探していく。
借金:3600万
所持金:約30万
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