二十ニ回目『団長として』
隣でレイディアの勝利宣言がされた。
つまりミカヅキが負けたと言うこと。
わかっていたことだが、あいつのことだからもしかしたらと思ったが、さすがに敵わなかったらしい。
あの男を相手にして、ここまでよく耐えれたと褒めてもいいほどだ。なら俺がここで勝ってやれなくて何が友人か。
それにガルシア騎士団団長の名を持つ以上、もう負けるわけにはいかない。
使いたくなかったが、本気で行くしか無いようだ!
「発動――|纏え、
両剣から二本に分けて両手で刃を後ろに向けて持ち直した。
レイが言い終わる頃には体全身が光を纏っていた。
ーーーーーーー
——ミカヅキたちがラウンド・スペースに包まれたのと同じくして、レイもヴァンと共にラウンド・スペースの中にいた。
「これは
当然の如くレイはそれに対して疑問を抱いた。レイディアに連れられた店で見たものを思い出したが、感覚的にあの時のものとは違うと察した。
未知のものに疑問を求めるのは人として当然だ。
ヴァンはそんな考え込んでいるレイを見て笑いを堪えていた。
「まぁ、当然の反応だよな。これは——」
「これが……」
落ち着きを取り戻したヴァンがレイにラウンド・スペースについて説明した。
素直にすごいと感じていた。
三大国と言う形で均衡を保っているとはいえ、一番下であるファーレント王国。それでも負けてはいないと彼は思っていた。
なのに実際はどうだろう。
否。問うまでもない。
力の差は歴然だ。
レイは周りを見渡し、思う。
――もしアインガルドス帝国ではなく、ファーレンブルク神王国と戦うことになっていたとしても、俺たちは負けていたんだろうなぁ。
三大国の強さの順位はアインガルドス帝国、次にファーレンブルク神王国で、最後にファーレント王国である。
つまりファーレント王国は最弱なのだ。
だからと言って決して弱いわけではない。他が強すぎるのだ。
と言っても、やはりアインガルドス帝国の天帝騎士団は別次元のものと言えよう。
「さて、と。オレたちも始めますか」
レイの考え事を立ちきるようにヴァンが声をかけた。
声に反応し、何度か首を振ってから意識を目の前の相手に集中させる。
「ああ。ファーレント王国ガルシア騎士団長、レイ・グランディール」
「ファーレンブルク神王国エクシオル騎士団副団長、ヴァンドレット・クルージオ」
礼儀に従ってお互いに名乗り、身構える。
そして――
「始め!」
アイバルテイクの声を合図に稽古試合を開始した途端、二人はその場から前へと飛び、剣を交えた。
そう。互いに一瞬で剣を抜き、相手に斬りかかったのだ。なおかつレイは両剣状態にし終わっている。
まるで打ち合わせでもしていたかのように。
「さすが団長さん。少しはやるみたいですねぇ」
「
剣を前へと押し合い、弾かれるようにして互いに後ろへと引いた。
だが、そう思ったのも束の間。
すぐさま次の呼吸時には剣を交えていた。
交えては引いて、交えては引いてを繰り返す。
ーーーーーーー
二人の剣劇を見ていたウォンにはわかっていた。
――ただ闇雲に剣を交えている訳じゃない。
一撃一撃の力が拮抗している。相手を倒すことだけを考えているのならこんなことは起きない。
相手の力を二人は探り合っているんだ。
彼は思いながらも同時に驚いていた。
なぜなら相手の力に鍔迫り合いのような押し合いをしているなら拮抗させるのは簡単だろう。
だが、彼らは交えては引いての剣劇を繰り広げている。それが並の剣士ならどちらかが力の加減を誤ってあっさりと終幕するはず。
ウォンはわかりきっていた。わかりきっていたが、やはり実力がここまで違うのかと思い知らされていた。
このファーレンブルク神王国に来てから、団長、そしてファーレンブルクの副団長の二人の試合を見て、自分自身を改めて理解する者がここにもいた。
「……まだまだなんだな」
――敵国に同盟を組みに行くとなり、団長も共に行くことが決定していたから兵力の分散も考えて副団長らに残ってもらい、俺たちが同行するようにした。
団長は知らないが、俺は
でも、ここに来る道中でアインガルドス帝国からの襲撃があった時、団長は咄嗟にミカヅキを庇ったにも関わらず俺は何もできなかった。
その上、ここまでのものを見せられると痛感させられる。
「それでこそ我が団長だ」
彼は目の前で繰り広げられる剣劇を目に焼き付けながら、剣が交わる度に空気が震える感触を肌で感じながら、彼は再び闘志を燃やしていた。
ーーーーーーー
「はあぁぁぁぁぁぁ!」
「この程度ぉ!」
考え事をしているウォンには当然の如く気づかず、二人は剣劇をまだ続けていた。が、唐突にお互いが足を止めた。
「勝者、レイディア・オーディン!」
アイバルテイクの声が耳に届いたからである。
隣のラウンド・スペースを見るとミカヅキがレイディアに抱えられて運ばれるところだった。
「案外、あの少年やるみたいですね」
ヴァンの素直な感想だった。
レイディアは自身より実力を知っているから、ミカヅキを甘く見ていた訳ではないがここまでの時間を耐えれるとは思ってなかったのだ。
「当たり前だ。俺の友人だからな」
胸を張って堂々と答えた。
そして、表情を変える。
「ここからが本番ですな、団長さん」
「ああ、そうだな」
互いに構え、言い放つ。
「発動、
ヴァンの足下の影から黒い煙のようなものが舞い上がり、体を全身を包み込むように|纏(まと)われた。
「発動――纏え、
レイの全身から淡い光が発せられ、やがて彼の体はヴァンとは対照的な光を纏った。
光と影。
二人の特有魔法は見事に対照的なものだと、お互いはここで初めて目にした。
「第二ラウンドだ」
「本気で行く」
言葉を発したと同時にレイの姿がブレを生じてから消えた。
ヴァンは消えたことにあまり驚きはしていない。その証拠にどこから攻撃を受けてもいいように身構えていた。
なのに、目は閉じていた。
「――ふっ!」
「くっ」
ヴァンが再び目を開けると、そこにはどこからともなく姿を現したレイの剣を自身の剣が受け止めていた。
「目で追った、訳じゃないな」
「……速すぎ」
レイは文字通り光速並みでで動いていた。そんな彼をヴァンは視認できないと判断して目で追うことは諦め、一定の範囲に影を張り巡らせることでその範囲内に入った対象を認識して反撃する。
認識してから反撃に移るまでに要する時間は、光と同じ速さである。故に光速並みで動くレイの攻撃を受け止めることができたわけだ。
それがヴァンの魔法、『
反応速度はファーレンブルク神王国でも一二を争うが、欠点が一つだけある。
これを発動中は、認識、及び反撃に全神経を集中させるためその場から動くことができないことだ。
目を閉じたのは集中するためで、閉じなければならないわけではない。
「これなら?」
「ぬっ。ぐぅっ、ふっ、はぁあ!」
再び剣劇が繰り広げられる。しかし速さが先程までとは桁違いだ。たった一秒と言う僅な時間の中で10回を軽く越えるほどだった。
音が遅れて聞こえる、そんな現象が起こるほどに。
この時、ヴァンはまずいと思っていた。
攻撃を防ぐことはできるが、反撃への一手が足りない。光速並みに攻撃が繰り出され、しかもそれが足下以外の全方位から来れば身を守るので手一杯になってしまう、と。
いや、現状がその通りなのだ。
でも彼はそんな状況下であろうと、相手のことを分析していた。
――光と同じくらいの速さで動いてるが、肉体が光になっているわけではない。なら全身に纏っている光を任意の方向に放つことで空気抵抗をほとんど受けずに移動しているのか……。現状の最有力はこれか。
だとすると、光を纏っているとは言え、動きにいずれ体が耐えきれなくなるはず。
これでもヴァンはファーレンブルク神王国では上から6番目の強さだ。
「まだまだぁっ――っ!」
「おや?」
レイが続けて攻撃を加えようとした時、右腕にほんの少したが違和感を感じた。彼は原因を探るために攻撃を止めてヴァンと距離を取った。
ヴァンはいきなり攻撃が途絶えたので、好機だと判断して追撃を加えることにした。
「暗闇で迷え」
「なに!?」
距離を取って体勢を立て直そうとした矢先、レイの視界が暗闇に包まれて何も見えなくなった。
咄嗟の判断で道中で使っていた感知魔法を使おうとしたが、発動することはできなかった。その前に体に熱と共に痛みを感じ、意識がそちらにそれてしまったためだ。
「がぁっく、これはっ、うっつぅ!」
この感覚は初めてではなかった。これは斬られている。いちどだけではない。
何度も繰り返し斬られている。
それもかなりの速度で。
レイは斬られながら必死で気配を察知しようとするも、気配どころか足音も何も感じない。まるでこの世界には自分一人しかいないように。その中で傷だけがただ増えていく感覚だ。
次にどこが斬られるのか、ヴァンがどこにいるのか全くわからない。
そして察した。
――負けた。
「――笑わせる」
「――陰影」
二人が言葉を発したのは、見事に同時だった。
良くも悪くも、この二人のことをこう言うのだろう。
――息が合っている、と。
「――断ち斬れ」
決して油断していた訳ではない。
むしろ警戒していた。なのに、そのはずなのに、
「ぶふ、ばふぁっ……やりますねぇ、団長さん」
「――
ヴァンが使った魔法をこの試合の中で自分の魔法へと応用して使って見せた。さすがのヴァンも感心していた。
でもまだ終わりではない。
反応できなかった。
だからと言って攻撃を受けたとは限らない。
「これが
「信じたくないぜ」
レイの剣は確かにヴァンを貫いている。しかし、その部分だけ煙の如くゆらゆらと実体がなかった。
自身の体を影として攻撃を受けないようにする。
煙を斬ることができないように、浮かび上がる普通は影を斬ることはできない。
そう、
「なんだけど、どうやら負けみたいですな……」
と笑いながら仰向けに倒れた。
レイの特有魔法は輝光士。光を操る魔法。
この世で唯一、影を斬ることができるものだ。
お互いに相性はバツグンだ。だが勝者は――
「団長なんでな。皆の前に立たねばならんのだ。こんなところで負けて――バタ」
「勝者、レイ・グランディール!」
ほんの数秒の差だった。それでも勝利したのはファーレント王国団長だった。
ーーーーーーー
耳に届いた途端、周りにバレないように小さく、よしっ、とガッツポーズをした。
すぐに我に帰ってレイのもとへ駆けつけようとしたが、ものの見事にラウンド・スペースに激突して顔をもろにぶつけた。
「いっつぅ」
「大丈夫か?」
勝者を宣言したアイバルテイクが申し訳なさそうに声をかけた。
ウォンに取ってさすがにこれは恥ずかしかった。
「だ、大丈夫です。ありがとうございます」
と答えるのは当然だ。
そんなことを考えてしまうのがレイが頼りにしている、少し抜けているところもある第一部隊隊長なのだ。
すると、今度は別の声がウォンの耳に届いた。
「アリアー。ホーリーを頼む!」
「はい! 癒しの力に包まれよ、スペース」
アリアが言い終えると『ラウンド・スペース』の色が白へと変わり、雨のように降り注ぐ光る滴が中にいる者たちの傷を治し始めた。
「ホーリー・スペース。スペース内にいる者の傷を癒す雨を降らす。回復と防御を同時に行える便利なやつだ」
一人言をレイディアは呟く。
これは彼の癖だ。本人は直す気はあると言っているが、一向に直る気配がないのでさすがのソフィも諦めかけている。
「でもまぁ、ヴァンが負けるとはねぇ。それに、あの特有魔法……もしかしたらできるかもな」
このように何か企んでいるのも筒抜けである。
だが、この筒抜けになっているものが未来に大きな影響を与えることを誰もまだ知らない。
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