十五回目『謎の人物』
予想外の歓迎で驚いたり、ファーレンブルク神王国のエクシオル騎士団副団長のヴァンさんが案内兼護衛として来てからずっとピリピリしていた。
そのおかげで頭の中を整理することができたので悪いことばかりではなかった。
レイはどうなったかな……。
整理することで考えまいとしていたことが浮き彫りになったのだ。
そしてようやく王都に着くとずっと黙っていたヴァンさんが口を開いた。
「ここが我々の王都、ヴァ・ローベルです。この賑やかさが自慢なんですよ」
さながらどこかのガイドさんのようにお店や街並みの説明をしてくれる。案内役の本領発揮と言ったところだろうか。
確かにファーレントよりは賑やかだ。
いや、本当はファーレントもここに負けないくらい賑やかだったらしいが、今は国王の死もあってどうしても賑やかさには欠けるものがあった。
「そしてあの上にそびえ立つのが我々の城、ファウンド城です」
あの城がファーレンブルク神王国の城か……。
何度見てもすごいな。やっぱり大きい。
外観としては白を基調として、屋根や窓の部分が青いのが特徴的だった。
屋根の一番高いところに旗が一本立っていて、どうやらあれがファーレンブルクの王国旗らしい。
青い生地に白い日本の龍のような生き物が丸い玉を持っている絵だった。
初めて見る光景に緊張もありながらも胸を踊らせながら一つ疑問に思っていたことがある。
それは先ほど頭の中を整理している時に、エクシオル騎士団の人たちのことも僕の特有魔法を使って調べたけど、たった一人だけ名前しかわからない人がいたことだ。
――レイディア・オーディン
この人以外は問題なく知識として得ることができたのだが、名前しかわからないのがどうも気にかかっていた。
これは僕がこの世界に来た理由を知ろうとしたときのようだ。
んー、僕がこの世界に来たのに何か関係してたり……しないか。
注意しておいて損は無いと思うのもあるけど、どんな人か会ってみたいな。
「皆さんお待たせしました。着きましたよ」
どうやら考え事をしているうちにタイミングよく城に着いたらしい。
集中しすぎたかな……。
さっきの一人のこと、ウォンさんに伝えないと。
ウォンさんの方を向こうとしたが視界に入ったミーシャがガチガチになっていることに気づいた。
「ミーシャ、だ、大丈夫?」
「だっ、大丈夫に決まって
……た?
なぜ過去形?
これはさすがのミーシャも緊張してるってことだよね。
こう見えて僕もかなり緊張してるんだよミーシャ……。
さすがに表には出せないけど、男として。ミーシャを守るとも言ったし。
でも当然だと思う。
ここはもう別の国の、しかもずっと対立している神王国の領土。
そして今から会うのはそのお姫様。
――ソフィ・エルティア・ファーレンブルク
ファーレンブルク神王国の姫様。
誰にでも差別なく接する、優しすぎると言っても過言ではないほど優しい。だからこそ国民が慕っていると言うのは事実である。
龍の血を継いでおり、普通の人より寿命が長い。
年齢は……プライベートゾーンだろうから言わないでおこう。
でも、さすがは異世界。
龍がいるんだ。
本物の龍と言うのはいったいどんな感じなんだろう……。
んー、いい人なのはわかったけど、あんなに崇めるもの?
「では、行きましょう皆様」
み、アミルさんが先に降りて先導してくれた。
着いていくように僕たちも降りてヴァンさんを先頭にして城の中へと入っていった。
ーーーーーーー
「んっ、うぅん、んー?」
ここはどこだ?
重たい瞼を開けて最初に見たのは天井だった。
首を横に向けたりして部屋を見回すが、どうやらここは木で作られた部屋のようだった。
起き上がろうとして体に違和感を感じた。違和感のする場所を目をやると右腕が無かった。
「あぁ、そうだったな」
ようやく思い出した。
自分がどうなったのかを……。
負けたと言うことを。
雷光の剣聖に襲撃を受けて俺が相手を引き受けて、まんまと負けちまったんだな。
さすがは精鋭の
あれは両手があっても勝てたかどうかわからんな。
――いや、負けていたか。自分の力を過信すると早死にすると、オヤジから教わったな。
にしてもここはどこなんだ?
アインガルドスに捕まったにしては扱いが丁重過ぎる。生きていること自体がまずは無いだろう。
ならばここは、アインガルドスではないのか。と言うことはファーレンブルクか?
だが油断はできん。
同盟を組むとはいえ、“まだ”敵国には変わりないからな。
コンコン。
考え込んでいると部屋のドアをノックする音が聞こえた。
咄嗟に身構えたのと同時にドアが開く。
入ってきたのは、ミカヅキと同じような黒髪と黒い目の青年だった。服装も合わせているのか黒を基調としている。
「気がついたみたいだな。元気そうで何より」
誰だ?
どちらであろうととりあえずは情報だ。でなければ何もできん。
出口は窓と、今青年が入ってきたドアの二つ。
「おいおい、そんなに警戒しなくても大丈夫だ」
ため息をつきながら困ったような表情をした。
「どう言うことだ?」
「同盟を組みに来たんだろ、ファーレント王国ガルシア騎士団長、レイ・グランディールさんよ」
俺のことを知っている。
何者なんだ?
こんな黒い男を俺は知らない。いや待て。俺は本当に知らないのか?
この見た目、どこかで聞いたような……神王国の暗殺者辺りか?
くっ、早く逃げなければならないかもな。
だがこの状態では無傷では逃げられんだろうが。
そう言えばミカヅキたちは無事にたどり着けただろうか?
「あ、そう言えばお連れさんは無事に城に着いたらしいぞ。今頃はソフィと話してるところだろうよ」
「……!」
ソフィ……?
姫の名を呼び捨てにするとは、王族と言うことか?
……わからん。
「つまりここは、ファーレンブルク神王国なのか?」
「そうだ。質問ばかりだなぁ、まぁ構わんが」
軽率だったようだ。
ファーレンブルクならば話が早い。早くミカヅキたちのもとへと向かわなければ!
「そろそろお仲間に会いたいだろ。面倒だが、仕方ないから連れていってやるよ」
あまり信用したくないが、俺もこの状態では抵抗したところで返り討ちにされる可能性がある。
言葉に甘えるとしよう。
「……貴様は、何者なんだ?」
「あー、まだ言ってなかったか。私はファーレンブルク神王国エクシオル騎士団参謀、レイディア・オーディンだ。同盟を組むんだし、気軽にレイディアとでも呼べばいいさ」
レイディア・オーディン、だと……!?
あの襲撃事件の数少ない生き残りで、今となっては圧倒的な指揮力と実力から、戦場の瞳や瞬速の参謀と呼ばれている警戒人物。
まぁ、この程度なら十数年に一人は現れるだろうから驚きはしない。
だから極めつけは、やはり“あれ”だろう。
こんなところで出くわすとは……まったく、雷光の剣聖と言い戦場の瞳と言い、運が良いのが悪いのか。
「おっと、私から騎士団長さんに聞きたいことがある」
「な、なんだ?」
こいつから質問とはなんだ?
勝手に体が身構えてしまっている。
「お主とヴァスティ、二人以外の第三者は何者だ?」
第三者……。記憶を掘り起こしてみると、気を失う前に俺たち以外があの場にいたことをうっすらと覚えていた。
と言うか、なぜ知っているんだ?
見ていた、と言うことか?
「あー、あの場には明らかに二人の特有魔法のものではないだろう地面に窪みのようなものがあった。だがお主は生きていた」
どう答えたものかと悩んでいたら、あくびをしながら説明してくれた。意外といいやつなのか……?
つまりは少なくとも俺の“敵”ではなかったということになら。
でなければここにはいないはずだ。
と言うことはどちらの味方でもない第三者がいたことになる……。
……さすがは見るところが違うな。戦いの痕跡から何が起こったか把握するとはなかなかの観察眼だ。
「ああ、確かに俺たち以外にもいたが、悪いが何者かはわからない」
ここで嘘をついたても見破られる。ならば真実を言うことにした。
「やはりそうか。……ついに動き始めたか」
あいつが何者か知っているのか……!
雷光の剣聖に真正面からぶつかったやつ。生きているかはわからんが、言い方からして組織単位。なら他にもあいつの仲間がいることになる。天帝騎士団と戦うやつらが。
探りをいれる必要があるようだ。
こいつをまだ完全に信用したわけではないが、少なくとも今は敵意は無いようだしな。
「あいつらが何者なのか知っているのか?」
「ああ、知ってるよ。そして聞かれたら私は答える」
「なぜ、だ?」
面倒そうな表情でさも当然だと言わんばかりに答える。
情報をそう簡単に渡して良いものではないだろうに。
敵になりうる俺に教えれば、情報が漏れるかもしれないことぐらい、誰でもわかるはず……。
逆に嘘の情報を教えれば、信用を得ると共に、その敵と戦わせることで高みの見物ができる……か。
ならば……、
「本当は教える義理は無いんだが、ソフィからの指示なんでな」
「
「ご名答。そう言うこった。――ファーレント王国の者が我が神王国に来たら、丁重にもてなすように……って言われちまったからー、私は従うまでさー」
にしても甘すぎる気がする。
ファーレンブルクの姫は疑うことを知らないのか?
いや、俺たち普通の人間より長生きな龍の血を継ぐ者がそこまでバカなはずがない。
噂でもかなりの手腕だと聞く。政治的な意味でだ。
これも何かの策なのか……いや、そう言うことか。だからレイディア・オーディンがここにいるわけか。
情報を漏らしたらすぐにでも消せると言いたいのだろう。
悔しいが俺ではこいつに勝てないことくらい戦わなくてもわかる。今は、な……!
「ソフィはな、ファーレンブルク神王国はファーレント王国、つまりお主らと同盟を組むことに賛成なんだよ」
「そう、なのか……」
真実がどうあれ、今は信じるしかあるまい。
ミカヅキたちに会ってからこれからのことを考えれば良いし、最悪アミルさんと言う、ミルダさんの弟子もいることだし心配は無いだろう。
「じゃ、そろそろ向かうか」
そんなことを考えているとようやく待ち望んでいた言葉を発した。
「城へか?」
「ああ。だが、その前にお主の腕を治すのが先だ」
まさか他の国で治療してもらうことになるとは……滑稽だな。
聞いたら答えると言ったが、まぁ、道すがらに聞いていけば良いか。
「机の上に置いてあるその包帯に巻かれたのがお主の腕だ。忘れずに持っていけよー。そいじゃしゅっぱーつ」
と言って先に部屋を出ていった。
俺もすぐにベッドから出て立ち上がり、自分の腕を忘れずに持って着いていくために部屋をあとにした。
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