九回目『そばにいる』
「ん、んん……ふわぁ……」
眠い……。
カーテンしてるのに全然光が部屋に入ってくるんだもん。
私はなんでこんなところで寝てたのかな……。
「すぅ、すぅ」
「……へ?」
ミカヅキ?
なんでミカヅキは私の足の上に……?
「へぇ!?」
えっ、どどどどうしてっ、なんでミカヅキが私の足の上に頭を乗せて寝てるの!?
落ち着いて!
まず落ち着かないと。
えっと、昨日あまり話せなかったから、稽古が終わった後に部屋に呼んで疲れてそうだったから膝枕をしてあげて、気持ち良さそうな寝顔を見てたらいつの間にか寝ちゃったんだ。
「な、なななな……」
自分の顔が赤くなっていくのがわかる。
私はなんて大胆なことをしたのっ。
「うううん。……はわぁぁぁあ」
「あ、ごめんなさい。起こしちゃった……?」
騒がしかったかな。
だ、だって起きたらミカヅキが私に膝枕されてるんだもん。させたのは私だけど……。
で、でも、させてくれるなんて思ってなくて、その、
「んん……おはよう、ミーシャ」
「えっ、あっお、おはよう」
なによ、なんでそんなに落ち着いてるのよ。ドキドキしてる私がバカみたいじゃない……。
「あ、ごめん、重くなかった?」
「……うん、大丈夫」
そう言って頭を上げて私の横に座り直した。
私がさせたんだし、別に謝らなくても良いのに。ほんと優しいんだから。
「「くぅーっ」」
二人して身体を伸ばす。
こうしないと起きた感じがしないんだもん。
「同時に伸びをするなんてな」
「ほんとね」
笑い合った。
ほんと、タイミングがいいこと。
そんなことを考えていると、ミカヅキの左手首のしているものが見えた。
前から気になってた、なにかわからないカチカチ言うもの。
「ねぇ、ミカヅキ」
「なに?」
だから聞いてみることにした。
「その、ドキドキしない……?」
「はい?」
「へっ、えと、違うの!」
思わず顔を手で覆ってしまう。
間違えたよぉ。何を聞いてるのよぉ。
いきなり、ドキドキしてるかなんておかしい人だよぉ……。
「朝からドキドキしてたら身が持たないよ」
指の間からミカヅキの顔を見てみると、私を見て苦笑していた。
そして、
「ミーシャ、ありがとう。膝枕のおかげでばっちり休めたよ」
私の頭を撫でてくれた。
「え、あの、うぅ……」
恥ずかしい……でも、嬉しい!
大人しく撫でられてるとなんだかまた眠くなってきた。
「落ち着いた?」
「……ずるい」
ミカヅキはずるいよ。
撫でられたら落ち着くどころか、もっとドキドキするに決まってるじゃない。
「え、ずるい……?」
でもミカヅキといるのって楽しいのもほんと。
だってこんなに表情がコロコロ変わるもの。
「ねぇ、ぎゅってしていい?」
「ぎゅ……? うん、いいよ」
優しく微笑んでくれた。
私は飛び込むようにミカヅキに抱きついた。
ぎゅーって。
「あったかい」
「まったく、甘えん坊だね」
ミカヅキだもん、なんて恥ずかしくて言えないけど……幸せ。
なんだかこのまま寝れそう……。
そんなことを考えてたら、
「ミーシャ?」
「すぅ……すぅ……」
「ふぅ、おはようって言ったばかりなのに……」
私はいつの間にか眠ってしまってた。
ーーーーーーー
コンコン。
「姫様、ミルダです」
「どうぞー」
ノックの音と共にミルダさんの声が聞こえたから、僕は当たり前のことを言ったんだ。
そう、
「あの、ミルダさん、勘違いしてません?」
だから最初に会ったときのように目の前にナイフがある。
ここは何を隠そう、ミーシャの部屋だ。
「ミカヅキさん。私はあなたがこの王国の騎士になることを、姫様のお側にいることを許しました。ですが、朝からとは、どう言うことでしょうか?」
目が怖い。
ミルダさん、目が怖いです。
「いえ、昨日、レイやオヤジ、騎士団の人たちとの稽古が終わった後にミーシャに呼ばれまして」
あら?
ナイフの数が増えてません?
なんで?
と、とりあえずは現状説明が先だ!
「そのあと、ミーシャの――」
あ、あら?
ナイフの数が、もう数えられませんよ?
考えろ。なんで増えるんだ?
ミルダさんが増やしてる。
そりゃそうだ。
じゃなくて!
「もういいです」
あ、ナイフが……。
「変なことをしてた訳じゃないんです。ミーシャの膝枕に甘えて、眠ってしまったんです」
「あなたなら、いいです」
ありがとうございます?
でしたら先程のナイフはなんだったんですか、なんて聞けるはずがないよ。
「ですが丁度良いです。ミカヅキさん」
「なんでしょう?」
「姫様がこのような表情をするようになったのは、本当に久しぶりなのです」
ミルダさんはミーシャの寝顔を見ているはずなのに、どこか別の場所を見ているように思えた。
懐かしむような、悲しむような、そんな風に。
「そう言ってもらえると、僕としても嬉しいです」
知りたい。けど、まだ僕には早い気がした。
だから僕は聞かなかったし、知ろうともしない。
「ですから姫様を裏切るようなことをしたら、生きることを放棄するより辛い目に合わせて差し上げますので、楽しみにしておいてください」
「肝に命じておきます……」
笑顔なんだけど、あれなんだよ。笑ってない。
自分でも言ってる意味わからないけど、笑ってないんだって。
まぁ、僕はそんなつもりはないです。
「僕はどんなことがあっても、ミーシャの側を離れません」
決めたんだ。
これから何が起ころうと、決めたことを覆すなんてことはしない。
静かに寝息をたてるミーシャの寝顔を見ながら思う。
「言いますね。楽しみにしています」
……ありがとうございます。
「ミルダさん。一つ質問いいですか?」
「いいですよ、なんですか?」
「僕はどうやって今日の稽古にいけば良いんでしょう……」
現状、ミーシャにがっしりと抱きつかれたまま寝られてしまって動かそうにも、起こしてしまいそうでどうしようもない。
「そんなことですか。お優しいんですね」
苦笑してみせる。
「いえ、これくらいは当然ですよ。僕だって寝ているときに起こされるのは嫌ですから」
そんな僕の言葉に、そうですね、と言ってくれたことがすごく嬉しかったのは内緒だ。
「起こしてくださって構いませんよ。朝食がありますので」
「わかりました」
確かに、朝食を食べないと体に悪いと聞くもんな。
なら遠慮なく。
「ミーシャ。ミーシャ、起きて」
ゆさゆさと抱きつかれているので、自分の体ごと揺らす。
端から見たら、今の僕って変態に見える気がする。
「むぅ……」
「起きて、朝だよって、痛い痛い」
唸りながら起きているのかわからないが、今まで以上に抱き締められて、苦しい。
「ほぇ、ミカヅキ……?」
「起きた?」
「起きてください、姫様」
寝起きのミーシャの顔をミルダさんが覗く。
すると、みるみるうちに顔が赤くなっていき、
「違うの!」
バンッ、と音を立てるほど僕を突き飛ばした。
「いてて」
「だ、大丈夫?」
心配そうな表情で僕に尋ねてきたが、頷くと安心したように胸を撫で下ろした。
驚いたからって、なにも突き飛ばさなくてもいいのに。
「ミーシャ。ミルダさんが朝食だって」
「ふわあぁぁぁ」
あ、あれ、あくびで返事された?
ま、まぁいいけど。
そう言えば僕は、朝食はどうすればいいんだろう?
「ミカヅキさんの朝食も一緒にご用意してあります」
まるで心を見たかのような言葉に少し驚きながらもホッとしていた。
と言うか、僕がここにいることなんてお見通しだったんですね。
……ナイフ、は忘れよう。
――それから僕はミーシャと一緒に朝食を済まして、稽古をするために広場へと向かった。
「ねぇ、ミルダ」
「なんでしょうか、姫様」
ミカヅキに聞きそびれたことを聞いてみる。
「ミカヅキが手首にしてるあれってなに?」
「なんでしょうか。見たことのないものですから、恐らくミカヅキさんがもといた世界のものではないかと思います」
「たしかにそうね」
それなら見たこともないのも当然ね。
今度ミカヅキの世界のこと聞いてみようかな。
「姫様。ファーレンブルク神王国に行くための準備をしなくてもよろしいのですか?」
「あ、そうね。ミルダ、手伝って」
そうだった。ミカヅキと一緒にいたら楽しいからすっかり忘れてた。
さすがは私のミルダね。
「わかりました、お手伝いいたします」
こんな風に私のことをわかってくれるのはミルダだけだったから、やっぱり甘えちゃうなぁ。
今はミカヅキもいてくれるけど、鈍感なんだもん。
もっとアピールをしなくちゃね。
「……ミルダ、ありがとう」
私のことを小さいときからずっと育ててくれたミルダ。
あなたは私の目標なんだからね。
「ずっと一緒にいてね」
思わず抱きついてしまう。
そんな私をいつものように、ミカヅキのように優しく撫でてくれる。
ここが一番落ち着く場所。
ミカヅキはミルダには勝てないわね。
「あったかーい」
「姫様ったら」
もちろん、それから準備を始めるまで結構時間がかかりましたー。
だって抱きついてたんだもん。
あとでミカヅキの稽古でも見てこよう。
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