十八回目『ファーレンブルク神王国にて』

 さすがは神王国騎士団の参謀と言うべきなのか、レイディアさんは意図も簡単にみんなの意見を聞きながら話を進めていった。


「ついに動き始めたみたいだな」


 今はレイを助けてくれた人についての話だ。


 通称ヴィストルティと呼ばれる、謎の組織の一員である可能性が高いらしい。



 ――ヴィストルティ

 三大国のどこにも所属しない組織。

 2年前から突如として各地の戦闘に介入し、どちらの味方もせずに戦闘を行う。

 だからこそなのか、かなりの手練れが組織の中にいると言われている。

 目的はどうやら戦闘を邪魔することにあるとされている。その証拠に戦闘が終結しかけると姿を消すと言う。


 メンバーの詳細、人数についてはほとんどが判明しておらず、今のところ確認されているのは3人だけである。


 一人はリーダーと思われる人物で名前は不明。黒い長髪の男の人。特有魔法は不明。

 もう一人も名前は不明。黒い短髪の男の人。特有魔法は重力を操るもの。

 最後の一人も名前は不明。女の人。特有魔法は不明。


 今回、レイを助けたのは二人目の重力を操る男の人らしい。

 特有魔法を使えばすぐに何者かわかるんだけど、今ここで使うと話が混ざってしまいそうだから後にしよう。それに今は調子が悪いし……。まるで何かに止められているような、邪魔されているような……わかんないな。

 何でなんだろう……?


 戦闘に介入する謎の組織、かぁ……。

 大抵のことは驚かなくなったけど、ここまで来るとほんとに何かの物語みたいだ。


 ――もしかしたら、本当に夢だったり……なんて今さらなんだよね。


「今までも介入はあった。だが、今回のように片方を助けるようなやり方はしなかったんだ」


「ですが、それだけでは彼らが動き始めたとは断言できないのではないですか?」


 レイディアさんの話の中での疑問をアミルさんが口にした。


 確かにアミルさんの言う通りだ。今までと違ったことをしたからと言って、動き始めた以外にも目的が別のものに変わったと言う可能性もあるからだ。


「ああ、言う通りです。ですが私にはわかるのです。感覚的なものなので、はっきりと断言できないのですが……」


 ウインクをしながら苦笑して答えた。


 少し以外だな、と思った。

 僕だって完全に把握しているわけではないけど、参謀は戦況を把握して作戦を立案する大事な立場なはず。そんな人が感覚的にも関わらず、何か自信があるように答えるのは純粋にすごいと。

 ソフィさんやアイバルテイクさんに気軽に話すことができる人が初歩的な間違いを犯すとは思えない。

 何より、二人が異論を言おうとしていないのが何よりの証拠だろう。


「私はその考えは否定しませんわ。全てを感覚に委ねるのは難しいことですが、この場で発言すると言うことは根拠が無いとは思えませんから」


 どうやらアミルさんも同じ考え持っていたようだ。


 曖昧な言葉なはずなのに、僕たちを何故か納得させる何かがレイディアさんの言葉にはあった。

 何かはわからないけど……。


「まぁ、この話はまた情報が入り次第お伝えする。では次はアインガルドス帝国についてだ」


 ようやく本題と言った感じにみんなの空気が変わった。


 同時にレイが拳を握りしめたのが僕の視界に入った。

 ヴァスティとの戦いをまた思い出したようだ。


「これが今回の同盟の本題だな。あの戦争以来、今までファーレント王国、ファーレンブルク神王国、アインガルドス帝国の三大勢力は均衡を保っていた」


 だからこそ、大きな戦争が起きることもなく、それぞれの国は平和とも言える時間を過ごしていた。


 でもここ最近、アインガルドスの人たちが色んな小国を攻め始めた。原因はわからないが、少なくとも均衡を保っていたことこそがありえないと言っても過言ではないからこそ、レイディアさんは今さらな気がするが、と言った。


 僕も特有魔法のおかげでそこの事情は知っている。


 それでも僕が予想していたのと違うのは、こう言う言い方は不謹慎かもしれないけど、ファーレントの国王が亡くなっていなかったとしても既に均衡は崩れはじめていたことだ。


 ――人は、戦わずして存在できない。


 誰が言ったかまでは覚えてないこの言葉が頭に過った。

 僕は首を振った。


 そんなことはない。

 ミーシャやミルダさん、それにレイだって戦いなんて望んじゃいないはずだ。

 亡くなった国王だって……。


「ミカヅキ、どうしたの……?」


 ミーシャが心配そうに僕の顔を覗き込んでいる。

 言われて気づいたけど、急に首を振った僕をみんなが何事かと注目していた。

 大丈夫だよ、と言いながら握られている手を握り返して僕は口を開いた。


「戦争は必ず起こる。そう言うことですね?」


 レイディアさんの目を真っ直ぐ見た。


 正直怖い。

 だけどここで目を逸らしたら駄目な気がした。


「ああ、そうだ」


 レイディアさんも目を逸らさずに答えた。


 わかっていた。

 だからこそ、そうじゃない答えを僕はどこかで望んでいたんだと思う。

 そうじゃなければ、こんなに悔しいわけが無い。


「あいつらの力は強大だ。お主らとて知っているだろう、天帝騎士団の圧倒的な力を」


 僕から視線をずらして、レイへと変えた。


 一番知っているだろうと言わんばかりに。


「そうだな。改めて思い知らされたよ。今の俺たちでは敵わないってことをな。今のままでは攻められれば簡単に押し潰されるだろう」


 生前に国王が言っていたしな、とレイは続けた。


 ――もし、この世界に再び戦争が起きた時、頼りにするならファーレンブルク神王国にするんだ。あの者たちはしっかりとわかっているから。


 天帝騎士団は世界最強の騎士団であり、世界最大勢力。

 その中の一人である雷光の剣聖ヴァスティに勝つことはできなかった。


「私たちとしてもそこは同意だ。でなければ同盟を承諾なんてしないさ」


 少し暗くなりかけていた空気をレイディアさんが打ち破らんとして続けてこう言った。


「私は負けず嫌いだからな!」


 打ち破ったかどうかは置いといて、みんな唖然としたのは言うまでもない。

 そんなことお構い無しにドヤ顔だった。

 やっぱり、この人はすごいな。




 ーーーーーーー




 ――と、この後も今後の政策や対策と言った決めなきゃいけないことを決めて4時間にも及ぶ同盟会議は幕を閉じた。


 僕とミーシャは部屋を出るときにはヘトヘトだったけど、アミルさんやレイは全然平気そうだった。

 まぁ、お側付きと騎士団長だもんね……さすがです。


 久々にこんなに、長く頭を使った気がする。

 もといた世界で勉強する時に集中することはあったけど、こんなにその場に合わせて臨機応変な対応をしたのは改めて考えてみると初めてだった。

 我ながらなんとなくやってたって気がする。


 今日は体を休めるためにも城に泊まらせたら良いんじゃないか? と言うレイディアさんの発言により僕たちは今晩このお城で泊まらせてもらうことになった。


 豪華な食事やものすごく広い大浴場。

 あれはすごかった。うん、すごかったんだ。


 ――で、今に至る。

 各自で一人一部屋ずつ用意されたんだけど……僕の使うはずのベッドにはミーシャが寝ている。


「まぁ、予想はしてたけどね」


 だって、王国でもこうだったし。いつも通りすぎて少し微笑んだ。


 僕は星が綺麗な夜空を見上げながら、今日起こったことを思い出していた。


 もう少しでファーレンブルクに着くって時に襲撃を受けて、レイが残って戦って、謎の人に助けられて、ファーレンブルクの人にここまで連れてこられてて治療してもらってた。


 僕たちはファーレンブルクの人たちに歓迎されて、簡単にソフィさんに会えて、同盟もすぐに承諾された。


 その後もレイを助けてくれた人について話したり、アインガルドスについて話したりと、かなり盛り沢山な一日だったな……。


「だぁ~さすがに疲れた……」


 ソフィさんやアイバルテイクさん、それにレイディアさんもみんな優しかった。

 僕たちの話をちゃんと聞いてくれて、その上で意見を出してくれた。

 ミルダさんと睨み合ってた時のソフィさんは怖かったけど……。


 そう言えば、あの変な歓迎はアイバルテイクさんが提案したらしい。ちょっとしたサプライズのつもりだったらしい。


 それなのに、そんな無茶ぶりに応える国民も楽しそうだったのを覚えている。


 冗談で崇めてるみたいにしていたけど、あながち演技じゃなかったのかもしれない。


 この世界のことについて結構わかってきていた気でいたんだけどなぁ。


「んー、レイディアさんは何者なんだろう……」


 結局とてつもない人って言うのぐらいしかわからなかったんだけど、もう諦めかけている。

 本能的に、あの人には勝てない気がする。

 そう、まるでミルダさんのように!


 はっ。

 ……よし、周りには誰もいないな。誰かいたら逆に怖いけど。

 ガッツポーズを無言でやったところなんて誰にも見られたくない。


「あ、そう言えば明日は……」


 僕はレイディアさんと、レイはヴァンさんと稽古試合をすることが会議の最後に話題として上がった。

 お互いの力がどの程度が把握するためのものらしいけど、正直な感想はあまりやりたくない。

 だって、相手がレイディアさんだから。


 どれだけ強いんだろう。

 そこは気になる。

 参謀だから、力はそんなにいらないはず。


「んー、ヤバい、気になる!」


 はぁ……疲れた。

 これ以上頭を使ったらパンクしそうだから、寝よう。


 寝るためにベッドに振り返って思い出した。

 ベッドにはミーシャが寝ていることを。


「あぁ、考えとかなきゃ……」


 明日の朝にミル……アミルさんが起こしに来た時になんて言い訳しようか。


 ――ちなみに、僕が一人で動きまくっていたのをミーシャに見られていたことを後で知った。

 もちろん、誰にも言わないで! と念押ししたけど、レイの耳に届くのは時間の問題だと言うことを、僕は知っている。

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