第三章 帝国の強襲
二十四回目『歴史、選択』
盛大なため息をつくレイディアさん。
「……すまんが、一人増える」
この世の終わりのような表情で、女の子について説明してくれた。
何か、とんでもないことでもあったのかな……?
バッグの中で眠っていた女の子の名前は、シルエット・オーディン。レイディアさんの妹だそうだ。
見た目は、抑え目な色合いのボブくらいの長さの金髪を、頭の後ろで小さくツインテールに結んでいて、まだ幼さを残した顔つきをしていた。
何て言うんだろう……。
妹って聞いたら、うん、確かにそうかもって言える雰囲気。
強さは、幼い見た目からは想像できない、騎士団クラスと言える程の強さだけど、今はまだ勉強を主にさせているとのこと。
心配だかららしい。
まだ神王国領土を通っているのだから、国民に任せたり、城の使いを呼んだりして帰せばと提案したのだが、皆に迷惑はかけられない。一度決めたことは曲げない。この私が言っても聞かない。
「もう、ほんと、聞かないんだ」
と、先程から口元以外ピクリとも動かさずに淡々と誰が見ても沈んでいるとわかる表情で続けた。
このように色々あって今、僕たちの馬車にはレイとアミルさんにミーシャと僕の四人と、レイディアさんとシルエットさんの二人を合わせて六人が乗車している。
個人的にどうして国民に迷惑がかかるのか聞きたかったけど、見る限りでは聞ける状態ではなかったため聞けてない。
そして、神王国の一番端の領土、入るときに通ったあの門になんと、ソフィさんとアイバルテイクさんが待ち構えていた。
ファーレント王国まで特有魔法で移動させてくれるとのこと。
何でお城ではなく、ここでなのかとも思ったけど、国の人たちをもう一度見ることができたから何も言わなかった。活気を持ち帰ってほしいと言うのもあると思ったし。
「私たちの神王国はどうだった?」
ソフィさんが僕たちファーレント王国の全員に一度目を合わせてから尋ねてきた。隠す必要なんて無い。
僕は素直な感想を述べた。
「すごくよかったです。ここに来てたくさんのことを学ばせていただきました。ありがとうございました!」
と各々の思いを伝えると笑顔でこちらこそ感謝しています、と返して詠唱を始める。
終わり際にレイディアさんの方を見て、
「レイディア。この方々と共に、
「気づいてたのかよ……。ふぅ、ったく、誰に向かっていってるんだ。ソフィこそ油断しないようにな」
「誰に向かって言っているのかしら?」
レイディアさんはそうだな、と笑って返す。見ているこっちまで笑顔になるような温かいものだった。
この会話を最後に、ファーレンブルク神王国からファーレント王国へと転移した。
ーーーーーーー
時間の経過と言うのはどこにいても早いもので、ファーレント王国に戻ってきてから既に一週間が経っていた。
レイディアさんとシルエットさんは、城の一室を二人で使っている。もちろん、シルエットさんの要望だ。
説明も相まってシルエットさんはかなりのわがままな人かと思っていたけど、この一週間であることに気づいた。レイディアさんが関係することだけでしかわがままを言わないのだ。関係ないことでは普通のしっかりとした人だった。
これぞブラコンなのか、と改めて知識をつけた。
その他に、レイディアさんについても知れたことがいくつかある。
僕は帰って来た翌日に休みをもらえたけど、翌々日からは前と同じように騎士団の人たちと一緒に、オヤジ時々オヤジとレイに稽古をつけてもらった。
レイディアさんも時々僕たちと一緒に2対2の稽古をしたり、レイと一騎討ちをしたりすることもあったけど、一度たりとも特有魔法を使わなかった。
オヤジやレイに尋ねてみたが知らないらしい。剣の腕前もさることながら、武器全般の扱いにも長けていると言うのも聞けた。
もしかしたら本当に魔法士では無いのかもしれない。
真相は未だに不明である。
本人に聞けば一番早いんだろうし、オヤジやレイにも言われたけど、なんかなぁ……。恥ずかしいのか遠慮なのかわからないけど、聞きづらい。
レイディアさんは気さくで話しやすい人なんだけど……どうしてなんだろう……。
いや。原因は、はぐらかされたあの時かもしれない。
なんて言ったって気になるし、機会があれば聞いてみよう。
あと、ものすごい甘党。
食事の時にデザートとしてケーキとか焼き菓子が出るとものすごくテンションが上がる。
シルエットさんは元気なレイディアさんを微笑みながらいつも楽しんでいるように見えた。
最後に、あの腰の二本の弧を描いている剣は敵と戦う時にしか抜かないと言う。理由は至って単純だった。殺すための道具だからだ、と。
申し訳なくなって謝ると、いつものように気にするな、とだけ返ってきた。
さすがに右の鞘だけの剣については教えてくれなかったけど。見れば見るほど思うが、もとの世界の刀に似ている。
気になって『
そう言えばもう一つあった。
オヤジが稽古の休憩をしていると腕組みしながら呟くように言っていたことがある。
「あやつは
どうして困った感じなんだろう……? 表情がそんな風に見えたのだ。
まだ若いから強くなる可能性はあるはずだから、オヤジの言ったことは当然だと僕は思ったけど、レイは驚いていた。
気になって稽古が終わってから聞いてみると、
「気づかなかったのか? “まだ”って言葉を使うってことは、今の時点で充分の力を持っていると認めたってことだ。師匠にまで言わせるなんて、レイディアのやつはなかなかだぜ」
敵になってほしくないね、と付け足してから稽古場を後にした。
そう言うことか。
興味深い。僕より強いし、経験を積んできた人たちにここまで言わせるほどの力を秘めているレイディアさん。
ミーシャを守れるくらい強くなるには、あの人も越えなきゃ駄目なんだよな。
会ったことの無い、僕の知らないもっと強い人もたくさんいるんだろうけど、当面の目標は近くにいる人だ。
もっと頑張らなくちゃ!
こんな感じで時々話したりもしつつ、これからの方針などを決めるために会議を行ったり、稽古をしたり、ミーシャと時々遊んだりと戦争が起こりそうとは思えない日々を過ごしていた。
ーーーーーーー
いい機会だったので、この際、ずっと気になっていた伝説や歴史について調べることにした。ミルダさんに伝えると、城の図書館まで案内してもらえた。
「うわぁ……」
三大王国の城の図書館ともなると、大がついてもいいほど大きい。大きさに比例して本の量も尋常ではなかった。思わず声が出るほどだ。
「ミカヅキさん。一つお尋ねしたいのですが、よろしいですか?」
「はい、なんでしょうか?」
「あなたの特有魔法でしたら、このような場所に来る必要はなかったのではと思いまして、その理由をお聞かせ願いたいのです」
たしかに僕も最初は考えた。
『知識を征す者』を使えば、伝説や歴史のことを考えれば簡単に知ることができるし、一度知ったことは忘れることは無い。
もとの世界にいた時はこれほどの記憶力は無かったはずだから、知識を征す者は知ることができるだけじゃなく、僕自身の記憶力や処理能力まで上げていることになる。
でもやっぱり頭の中を整理しなければ、一度知ってしまっている場合、乱雑した記憶の中から目的の情報を見つけ出すには、能力が上がっていると言っても時間がかかる。
正確には思い出すには、だけど……。
分かりやすく言えば、高価な宝石を同じ形状のプラスチック製のものが100個入った箱の中に入れたらどうなる?
更に一人で見つけなければならないとしたら?
答えは簡単。見た目が同じなら持って重さで確かめるのが一番確実だ。それにどれだけの時間を費やすのかは想像通り。
だから時には記憶がどこにあるのか等を整理、理解、その場所を記憶しなければならない。できれば静かな空間で。
静かな空間こそが図書館なのだ。
魔法によって外からの音は遮断されるようになっているので、図書館内の音しか聞こえない。
それに、ほとんどの情報は簡単に知ることができるが、全く知ることのできないこともある。全部含めて実際に目で見て確かめたいというのが主な理由。
まさに僕が思い描いた“最適な場所”なのだ。
ミルダさんにはこれを省略して説明した。
「そう言うことでしたか。では、稽古には遅れないようにごゆっくりと」
と言い残して図書館を後にした。
ミーシャのところに行くんだろうな。
「さて始めるか!」
図書館なので抑えぎみに自分を鼓舞するために声を出した。
ーーーーーーー
――アルデ・ヴァラン。
この世界の名前。もとの世界で言う“地球”みたいなものだと思っている。
何度か小説やアニメで見たり聞いたりしたから、意味が気になって調べたことがある。
おうし座を形成する星の一つで、たしか恒星だったはず。
もしかしたらその星にいるのかと考えたけど、恒星の時点でそれは無いと判断した。
ひとまずもとの世界のことは置いといて、この世界では数多くの国が存在するが、中でも『三大勢力』と呼ばれるファーレント王国、ファーレンブルク神王国、アインガルドス帝国の三大国が1000年前に立国される。それによって今も世界の均衡が保たれている。
だから三大国が立国されてからのは1000年間、小さな争いはあれど大きな戦争と呼べるものは起きていない。
三大国の王族は、それぞれがこの世界の『三大神』の末裔である。
つまりはミーシャやソフィさんがそれに当たるわけだ。
ちなみに三大神とは、1000年以上前に存在していたとされる三体の神のことを指す。
世界の創造主たる、始祖神ドラグンファンヌ。
創造と破壊の均衡を保つために創造された、破壊神バルボロス。
破壊と再生の均衡を保つために創造された、再生神アルミリア。
始祖神はファーレンブルク神王国。
破壊神はアインガルドス帝国。
再生神はファーレント王国。
と、一国につき一神が祖先となっている。ドラグンファンヌが決めたと伝えられている。
ここら辺でひとまずわかったことだけでも改めて時系列でまとめてみようと思う。
――1000年以上前。
全く不明。
誰かが意図的にそうしたんじゃないかと思えるくらい、綺麗に情報が残されていない。
僕の予想では、ここで文字や文化が出来始めたんじゃないかって思ってる。真実はわからないけど……。
『三大神』が存在していたとされる時代。
――1000年前。
『三大神』が消えて、代わりにここで三大国が誕生する。
狙ったように、ここから人の歴史は残され始めている。同じく魔法のことも記され始める。どうやらこの時代の『魔法』は、“魔法”と言う一つの呼び方しか無く、使える人も少なかったみたいだ。
基本魔法と特有魔法、それに魔法士も、言葉自体が記されていなかった。
あとはこの時には既に、
――900年前。
比較的に歴史に変化は無い。小さな争いはあっても、すぐに沈静化する。それを繰り返していた。
まるで歴史の授業で習った冷戦みたいだ。
――800年前。
ここで初めてドラゴンの存在が確認される。ドラゴンは始祖神と姿が似ているとして
だがそんな中、ファーレント王国が襲われて半ば壊滅状態になり、簡単にドラゴンたちに占拠されてしまう。
その時に国民のほとんどが殺されたらしい。神と同じ存在と崇めていたのと、力の差が比べることが出来ないくらいあったことから、反撃をするのは無意味に等しく人々は絶望したという。
空想の生き物のドラゴンが、この世界には本当にいたんだ。でもなんで王国を襲ったんだ……? 理由は現在もわかっていない。
――700年前。
ドラゴンたちは王国を拠点に数を増やし、勢力拡大のために他の二大国へ攻め入ろうとしたが、一人の勇者と呼ばれる人間によって阻まれることになる。
勇者の名は――レイド。
勇者レイドはドラゴンたちを、当時の人々が見たことも無い魔法で次々と倒していった。彼に他国の人々も協力して、なんとかドラゴンたちを王国から
この、人々とドラゴンの争いは畏怖の意味も込めてこう呼ばれている。
――『天の怒り』と。
ドラゴンは再び世界から姿を消した。何処に消えたかは不明。
――600年前。
勇者レイドによって救われた王国は、彼を中心に復興していった。弱っている隙を狙って、小国が攻めてきたりもしたけど、神王国と帝国が邪魔したらしい。
勇者レイドがやったことはこれだけに留まらない。
使える人が少なかった『魔法』が、彼のおかげでほぼ誰もが使えるものとなる。おかげで世界の人々の生活は一気に豊かになっていった。
三大国って昔は仲良しだったんだ。
もしかして、使える人が少なかった『魔法』が“特有魔法”で、誰もが使えるようになったのが“基本魔法”じゃないのか?
て言うか、勇者のレイドさんはかなり長生きだな……。
――500年前。
この時代では、珍しかったはずの『魔法』が現在のように日常化していた。
勇者レイドは、世界に『魔法』を広めた後に突如として姿を消している。勇者レイドは歴史上にここまでしか出てきていない。
人々は寂しく思ったが、残された魔法を使って三大国は領土を拡大していった。
領土を拡大するために魔法を使って戦い始めたんだ。
――400年前。
三大国も含めて、それぞれの国で騎士団が立ち上げられた。
他国への攻撃をすることはあったが、三大国が主に行っていたのは自衛とされている。領土の拡大はもうしていなかった。
理由は不明。
――300年前。
あまり変化は無かったらしく、ほとんどの文献が平和だったと記していた。
こんな時代がいつまでも続けば良いのに。
――200年前。
アインガルドス帝国の様子がおかしくなり始めたのはこの辺りかららしい。
原因は不明。
本当に狙っているかのように、知りたいことが知れないのがもどかしい。せめて少しでも知れれば予想できるけど、綺麗に全く無いんだもんな。
――100年前。
アインガルドス帝国の帝国護衛騎士団が、天帝騎士団に名前を変えた。同時に小国への攻撃を始めた。
他の二大国は攻撃に対しては何もせず、見ているだけだったが、魔の手はすぐそこまで迫っていた。
――そして現在。
天帝騎士団の攻撃は小国だけではなく、王国や神王国にまで及んでいて、対処しなければならない状況になっている。
でも天帝騎士団が強力なのも事実だ。
1000年以上前の文献は残念ながら残っていなかった。
でも1000年前から今までの文献は不自然な程、明確に歴史の事が書かれていた。それより前のものが全く無いのにだ。
しかもある文献は、書き方からして同じ人が書いてるように思えて仕方なかった。
それがこの『アルデ・ヴァランの意思より』だ。
魔法で作られた文献らしく、読みたい年代を念じるとそのページが表示されるあまり分厚くは無いもの。著者は記載されていない。
書き方が受け継がれたのかもしれないけど、おかしな点が幾つかあった。
文字が手書きなのは他と同じなのだが、どうも子どもが書いたようにしか見えない。加えて、『知識を征す者』で知れた内容と書かれていること。知れなかった内容と書かれていない部分が見事に一致していた。
まるで僕の『
そう言えば、歴史上でも僕みたいな情報関係の特有魔法を持つ|魔法士(ランカー)はいたらしいが、誰一人として『三大神』に関しての情報は得られなかったらしい。
この事から三大神には魔法が効かないのではとの説が浮上している。実際のところは三大神と人間は戦っていないため、不明らしいが。
僕は思い出す。
ミーシャやソフィさんについて知ることができたけど、神族の末裔だからなのか、それとも“神族”が『三大神』のみを指すからなのか、僕が特別なのかは定かではない。
ちなみに今現在、三大神族がどこにいるのかはどの文献にも記されていない。突如として姿を消したとされているものが幾つかあった。
もちろん消失の原因も記されていない。
ある説では人間にこの世界を託したとか、眠りについていずれ目覚める等があった。
存在が曖昧なのはもとの世界と同じだなと思った。だからこそ神様とまで呼ばれていたんだろうけど、少し悔しさを感じていた。
『知識を征す者』で今のところ知ることができないと思われるのは、まずこの世界アルデ・ヴァランについて。
最初のミーシャの部屋で目が覚めた時に知ることができなかった一番最初の知識。
三大神族について。
歴史上の情報関係の魔法士たちみたいに試してみたけど、結果は同じだった。
レイディアさんを含めた一部のファーレンブルク神王国の人たちについて。
これはファーレンブルク神王国に着く前、事前に調べるために試した結果で証明された。ちなみにシルエットさんもその一人だ。
ヴィストルティと呼ばれる組織の人たちについて。
レイから聞いたヴィストルティのメンバーを会議中に知ろうとしたができなかった。
一度、知識を征す者で知ってしまった知識。
途切れた時に知り直そうとした時にできなかったからだ。
僕自身について。
なぜこの世界に来たのかはアルデ・ヴァランに関係することとして、現在位置以外の僕の知識は全く知れない。と言っても、生年月日や趣味とかしか思い付かず、もともと知っているからと言う可能性も
特有魔法――『知識を征す者』について。
どんな魔法なのか、どんなことができるのか等の知識を、ミーシャの部屋で試してみたが全く知れなかった。
そして最後に、もとの世界について。
もとの世界は今どうなっている? や、それこそ恒星アルデ・ヴァラン? のことも知ることができない。
正確には“ついて”ではなく、“関連すること”だから範囲がかなり広いことになる。
こうやって洗い出してみるとため息が出るほど多いな。
わからないこともいっぱいあったけど、図書館に来てよかった。
ーーーーーーー
――これからどう対応していこうかと考えていると、聞いたことがある声が耳に届いた。
「まったく、真面目だな」
「あ、レイディアさん」
声のした方を見ると、そこには壁に背を預けたレイディアさんが立っていた。
どうしたのだろう? 稽古までの時間はまだあるはずなのに。
念のため壁にかけてある時計を確認したが、やはりまだ時間があった。なら僕に何かの用だろうか?
「どうしたんですか?」
「ん? ああ、ちとお主の特有魔法について聞きたいことがあって、ここにいると教えてもらったんでな。歴史の勉強らしいじゃないか」
「はい。丁度まとめ終わったところです」
まだ残ってることもあるけど、ここまで知れれば充分だ。
返事を聞くと、僕の反対側に席に座った。
「なら悪いが、私に歴史を教えてくれないか?」
「え、でも稽古がありますよ」
僕の疑問にニヤりと笑って見せる。僕でもわかる。何か企んでるやつだ。
「心配はいらん。遅れることはもう伝えてある。さぁ、心置きなく話したまえ!」
両手を広げる仕草をして見せた。
僕は諦めて話すことにした。
――30分くらいで授業は終わった。レイディアさんは珍しく真剣な表情で僕の話を聞いていた。
そして次は、
「全て……いや、ほぼ全ての情報を得ることができる魔法。それが主の
「はい、そうです」
知識を征す者についてだ。
僕の特有魔法については先日話したので、レイディアさんも既に知っている。
大きく深呼吸してから話は続けられた。
「未来や過去については知ることができるか?」
「過去のことは知ることができないこともあります。未来については、試したことが無いです」
「なら今やってみろ」
はい、と答えて未来を知ろうとしてみる。
ファーレント王国はこれからどうなる?
………………。
どうやら無理みたいだ。
「できないようです」
「そうか……。なら今、コウダンが何をしているかわかるか? 知れたか否かだけでいい」
納得したかのように頷いてから、次の課題を出した。
誰? と思ったが切り替えてすぐさま試してみる。
コウダンさんは今は何をしている?
木剣で、剣を振る練習をしている――。
っと、危うくコウダンさんに
「知れました」
「ほぉ、知れたか。なかなか面白いな。なら今日の稽古で特有魔法を使って、相手の動きを知ってみろ。正直、未来と今の間だからどっちに転がるかはわからんが……。あとは、物や武器の構造を知って記憶しておけ」
「……わかりました。やってみますが、物や武器の構造を知るのはどうしてですか?」
「私の予測が正しければいずれわかる。まぁ、無駄になるかもしれんが、選択はお主に任せる」
話をしているレイディアさんはどこか楽しそうだった。
証拠に笑顔だ。
僕は稽古でどうやって試そうかと考えていた。
そして――選択する。
どうしよう。
レイディアさんは参謀になるくらいの人だから、何か考えがあるのかもしれない。でも……悩むな。
それから少しだけ考えてから僕は、
……よし、やってみよう!
やらないで後悔するより、やって後悔した方がいいに決まってるもの。
僕は――レイディアさんの言うとおりにすることを選んだ。
そしてまたまた翌日に、衝撃的な事実を知ることになるとは、この時の僕は思いもしなかった。
ふたつの鼓動 榊木 夕凪 @caelumastrum
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。ふたつの鼓動の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます