第22話

 テロリストたちを打ち破った後、作戦は思うよりもスムーズに経過した。


 大型コウレイは対コウレイ用施設の維持により、少しずつ削っていった結果、消失させるのに成功した。


 横道たちは大型コウレイの消滅を確認すると、直ぐにその場を撤収した。その際、テロリストの松本とガン子の死体をどうするかは非常にもめた。


 春子は此岸(しがん)川町に連れていきたいと言うし、石川は捨てておけと主張した。


 結局、松本とガン子はその場で土葬した。テロリストの犠牲になった他の人たちを思えば、人並みに埋葬するワケにもいかず。また、放置するにはテロリストと同じ非人道的だから、という判断だ。


 そうして横道たちは此岸(しがん)川ダムを離れて、当初の目的である此岸川(しがん)町に辿り着いた。


 それから、数日が経過していた。


「こうして再び墓参りできるなんてね」


 春子は自分の夫のいる墓石の前で線香を立て、両手を合わせていた。


「春子ばあちゃんの夫ってどんな人なんだ?」


 横道はそんな春子の隣で、怪我をした足を庇って松葉杖をついていた。


「優しい人だったよ。ひたすら他の人の心配をする人だった。死ぬ間際だって、病室で残されたアタシを気遣うような人だったね」


 春子は懐かしそうに眼を細めた。


「それに海が好きだった。自由で、広大で、全てを抱擁するような海がね」


「だからこの街で埋葬されたんだな」


 横道はすぐそばの崖から見える海を眺めた。そこは青と緑の混ざった深い海が広がり、時折白いしぶきが上がって、その色にコントラスを付け加えていた。


「私が死んだら、ここに埋めてくれよ」


「それは何十年先何だ?」


「さてね? 50年くらい先かしらね?」


 春子はそう言って悪戯(いたずら)っぽく笑った。


「その時はやっぱり、春子ばあちゃんのコウレイと相手しないといけないんだろうな……」


 横道は難しそうな顔でそう呟く。


 もしコウレイがその人間の魂だとしたら、生きている時でさえ厄介な春子はコウレイになっても手ごわいだろう。


 そう考えると、気が重くなる横道だった。


「思い悩むんじゃないよ。そんなのはずいぶん先さ。もっと今を生きること、それに対して精一杯になるべきだよ。悩みなんて未来の自分に任せてしまえばいいのさ」


 春子はそう言って笑った。


 それはまるで自分が死ぬなんてありえないみたいな、高らかな笑いだった。


「さて今日はゆっくりするよ。宿はとっておいたよね」


「俺はもうちょっと散歩するかな。老人はさっさと休んでおけよ」


「おっと聞き捨てならないね。それならもう少しぐらい付き合おうじゃないか」


 横道と春子は、楽し気に語り合いながら坂を下りていくのだった。


 残された春子の夫の墓には線香の煙が残っていた。


 ただし残されていたのは線香だけではない。


 墓の隣には、小さな卒塔婆(そとば)が立っていた。


 そこに刻まれた名前は、横道と春子が良く知る名前、アールビーの文字が書かれていた。

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感染性コウレイ問題 砂鳥 二彦 @futadori

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