第15話
白亜の回廊を抜けた先、地中奥深くにある地下室からけたたましい音が鳴る。
それはサイレンだ。おそらく緊急用の火災報知器か何かが作動したに違いない。
廊下を徘徊していたコウレイゾンビは、地下の音につられて階下へと降りていく。そしてしばらくすれば、1階の通路のコウレイゾンビはまばらとなった。
「アールビーが上手く誘導してくれたようだね」
コウレイゾンビが人を襲う基準は、肉体があるかではなく魂が備わっているかだ。
コウレイゾンビはコウレイに触れられたせいで、肉体から魂が引きはがされている。そのため、肉体にない魂を求めてさまよっているのだ。
他にも音や光に反応する、肉体的な感覚は残っている。ただ美味しいとか幸せだとか、そういう感情が残っているようには思えなかった。
「先導は任せるよ。私たちは歩けない者を運ぶ」
老人グループの代表である荒川はそう言って、奥にいた同じ老人の1人を背負って戻ってきた。
「準備はできたかい? それじゃあ、行くさね」
横道たちは老人たちよりも先を歩き、途中にいるコウレイゾンビを打ち倒し、玄関出口へと急いだ。
表に出ると、外のコウレイゾンビもあまりいない。横道たちは手近なコウレイゾンビを無力化し、老人たちの通路を確保した。
「これが最終便だよ。1人も残すんじゃないよ!」
老人にトラックの荷台は酷な話だが、今は選択肢がない。横道たちは老人グループをトラックの荷台に詰め終えると、それぞれ別れた。
トラックはアールビー、ジョーのSUVにはアオザも、預けていたSUVは春子が運転して横道と荒川も乗り込んだ。
「行き先はどうする? 荒川さん」
「案内するつもりだった地下鉄がいい。あそこは施錠してあるからコウレイゾンビも侵入できないはずだ」
「地下鉄か! なるほど考えたな」
荒川は地図を元に春子へ行き先を指示する。道も邪魔なものがないため、ものの数十分で地下鉄駅に着ける状況だった。
ただし、無線から入った情報が事態を変更させた。
『こちら彼岸川町遠征中央部隊。此岸(しがん)川北東の高速道路で襲撃を受けている! テロリストの数はおよそ50。挟み撃ちにされている! 誰か助けてくれ!』
「あらあら……」
どうやら高速道路でテロリストたちの待ち伏せにあったらしく、中央部隊の無線は阿鼻叫喚(あびきょうかん)のありさまだった。
「仕方がないね。命令違反と窃盗の汚名を返上する意味も込めて助けに行くしかないよ」
「老人グループはどうする?」
「引き続きアールビーに任すよ。残りは中央部隊の救出だよ。分かったね」
春子の提案に、ジョーたちも了承したらしくこちらのSUVの後続に張り付いた。
「それに遠征部隊の荷物は嫌な予感がしてね。多分テロリストに渡すとやばい荷物があるよ」
春子はハンドルを握りながら、中央部隊の安否を気遣うのであった。
横道たちのSUVは高速道路の料金所を通り過ぎ、中央部隊を追っていた。
「荒川さん。不要とはいえ、こんな良い物を使って大丈夫なのかい?」
「構わないよ。そんなものは私たちには無用の長物だ。危なくて使えないのでね」
先を急ぐ春子の隣で、横道は荒川から貰った円筒形の武器を抱えて、来るべき時を待っていた。
「いたよ! テロリストどものヘプタボットだ!」
SUVの正面に、車のバリケードに近づく黒い一団を見つけた。
それはテロリストたちが使っている黒いヘプタボットと同じ型のロボットたちだった。
「強硬突破するよ! 横道は武器を!」
横道は春子の指示に従い、SUVの窓を全開にすると身を乗り出した。
「月まで吹っ飛べ!」
横道の持っている円筒形の武器はグレネードランチャーだ。リング状のベルト給弾式でオートに何発も撃てる代物なので威力は絶大となっている。
実際、SUVの窓から横道が放射状に撃ちだす何発ものグレネードは、地面で炸裂して黒いヘプタボットたちの陣形を崩したのであった。
横道たちのSUVは破壊されたヘプタボットや避け損なったものを弾き飛ばし、車のバリケードに到達した。
「誰かいるかい!?」
横道たちはSUVから降りると、中央部隊の状況を確認する。
すると、車の向こう側から見覚えのある顔が現れた。
「遅い! こっちはほぼ全滅だ! 荷物も重要な荷以外は破壊された! この責任はどうとるつもりだ!」
顔に擦り傷があり、髪が多少焦げてしまったが、それは石川だった。
石川はヒステリーのように喚き散らしながら、「さっさと助けろ!」とがなりたてていた。
「了解したよ。待ってな。直ぐに通路を開けるからね」
横道たちは協力して車を動かし、何とかトラック1台が通れる細い通路を確保する。
そうなれば逃げ道を得た中央部隊の残りが殺到し始めたのだ。
「慌てるんじゃないよ! まずは非戦闘員を優先しな!」
しかし春子の指示とは反して、石川は怒号を飛ばした。
「荷物が最優先だ! 次に非戦闘員、最後に戦闘員だ。さっさと急げ!」
結局石川の声の方が勝り、言われた順番に中央部隊は通過し始めた。
「殿(しんがり)は貴様たちがしろ! 当然の役割だ」
石川はそう言い、我先にと脱出する。それは何とも指揮官に似つかわしくない、我が身大切な保身だった。
「尻尾を撒いて逃げるとはこのことだね。さて、アタシたちはどうする?」
「グレネードをありったけ置いて、爆破する。瓦礫の山ができれば多少は時間が稼げるはずだ」
「そうだね。任せるよ。横道」
横道は開いた狭い道にグレネードをセットし、準備を整える。
そして援護していた春子たちを呼び寄せると、SUVに退避してから狙撃銃を取り出した。
「爆破!」
横道はグレネードの1個を狙撃銃で撃ち、見事に爆破させた。結果、車が崩れたジェンガのように積み上がり、しばらくは通れないだろう。
「さて、逃げるとしようかい」
横道たちはさっさとSUVに乗り込み、その場を去ったのであった。
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