第9話
石田と警備兵に連行された横道たちは、とあるテントまで連れていかれた。
そこでは春子はテントの中に、横道とアオザとジョーは石田と一緒にテントの外に待機となった。
「俺たちを拘束しなくてもいいのかよ?」
横道が尋ねると、石田は不服そうに応えた。
「残念ながら疑いと言ってもあくまで匿名のタレコミだからな。証拠は見つけていない」
「!? じゃあ、春子ばあちゃんだって拘束される理由はないだろ!」
「春子はあくまでもグループの責任者として一時的な取り調べと軟禁だ。こうでもしないと示しがつかないからな。それに、本当の内通者に悟られる恐れがある」
「……裏切り者がいるのは本当なのか」
「中央部隊もテロリストによる妨害を受けてな。それも哨戒網を完璧に潜(くぐ)り抜けられてだ。囮のようなタレコミと言い、襲撃と言い、偶然にしてはあまりにもあからさまだろう」
「なら俺たちも拘束した方がいいんじゃないのか? どうして春子ばあちゃんだけなんだ?」
「春子については内通者を安心させる囮だ。貴様らにはその内通者をあぶりだす手伝いをしてもらう」
石田の言い分に、横道は首を傾(かし)げた。
「なんで俺たちなんだ? バードセキュリティの連中でいいじゃないのか?」
「内通者の可能性は今回の遠征に関係するすべての人間だ。自治政府役人も、バードセキュリティも、そして私さえもだ。だから密告された貴様たちがもっとも内通者の可能性が低いと考え、こうして自由を与えているのだ」
横道は石田の計画に、なるほど、と相槌(あいづち)を打った。
「だが完全に疑いが晴れたわけではないからな。あるのなら、自分たちが無実である証拠を用意することだな」
「俺たちが無実の証拠、か」
横道は少し考えた後、まだ修理に出せていないアールビーを見て思いついた。
「アールビー、テロリストとの交戦記録は動画化できるか?」
「可能です。私のメモリから抽出できます。どの記憶媒体にコピーしますか?」
アールビーがそう尋ねたため、横道は石田に視線を向け、無言で問いかけた。
「なら遠征本部の端末にローカルネットでアップロードしてくれ。中身は後で私が確認しよう」
「――いや、待ってくれ石田さん。このデータは証拠以外にも使い道があるぞ」
「ん?」
「このデータも囮に使うんだ。相手が内通者なら自分が不利になる証拠は消しに来る可能性が高いだろ。わざと端末にアクセスしやすい状態を作って、消すように誘導するんだ」
「なるほど、良い考えだな。ならば私は証拠があったという情報をわざと広め、誘い出そう。データも他のオープンデータと一緒にして雑に保管しておく。もちろん、関係者にしかアクセスできないようなセキュリティでな」
石田はそこまで言うと、それらを行動に移そうとした。
「待った、石田さん。最後に1ついいか?」
「なんだ? さっさと話せ」
「石田さんは春子ばあちゃんと確執(かくしつ)があるんだろ? なんでここまで協力的にしてくれるんだ?」
「……私はな。春子に何度も出し抜かれた過去があってな。それが奴を嫌う理由だ。ただ、今回のようなものは弱みにもならない」
石田は神経質そうに眼鏡の位置を整えると、キッチリ話した。
「タレコミなどという棚からぼた餅を落としてもらったような決着は私の意図ではない。いずれ春子には、もっと盛大な罪を背負って負けてもらう。それまでは利用させてもらうだけだ」
石田はそうキッパリと言い、さっさと引き上げてしまった。
「なんだかよく分からん奴だな」
そう言ったのはジョーだった。
「俺にも分からないよ。結局何が原因かも聞けなかったし、これだとしばらくはわだかまりが消えることはないのかもな」
「どんな形とはいえ、結論はでるものさ。焦ることはない」
ジョーは年長者らしく横道を優しく諫(いさ)めた。
「さっき警備兵の1人からテントを割り当てられた。そこで向こうが動くまで待機しようじゃないか」
横道は春子と自分への疑いを早く晴らしたいという慌てる心を抑え、ジョーの誘いに従った。
「データベースから該当データの削除を確認しました」
「来たか!」
テントでその時を待っていた横道たちはアールビーの言葉に素早く反応した。
「それで、内通者は誰なんだ?」
「監視カメラの制動無し、映像データはありません。ですが、最新のアクセス情報を確認しました」
アールビーはそう言うと、タブレット型の端末に対象の詳細データを表示した。
「こいつが内通者か。証拠はそろったな」
横道がガッツポーズをするも、アールビーはそれを否定した。
「アクセスデータが消されました。ローカルネット上のアクセス情報は改ざんされたため、リアルタイムで確認したデータしかありません」
「ん? つまり」
「映像データを消したという証拠は消されました」
「おいおい、冗談じゃないぞ」
それが本当なら、まだ内通者の証拠がない。これでは春子は釈放されないだろう。
だが方法はまだ残っている。
「ならその内通者を見張ろう。必ず尻尾を出すはずだ」
横道の提案に、他の2人も同意する。ならば善は急げだ。
「アールビー、内通者の情報をもっとくれ」
「イエッサー、キャプテン。対象は現在移動中であるのを、監視カメラより確認しました。追跡を開始します」
「ナイスだ。俺たちも移動するぞ」
横道たちはアールビーの案内で場所を変える。そして横道たちはテントやトラックの遮蔽から内通者の存在を確認した。
「アイツがそうか」
「イエスです」
横道たちがひっそりと尾行すると、内通者がテントの中に消えるのを見た。どうやら内通者個人のテントらしい。
「アールビー、確か盗聴用のデバイスは持っていたな」
「イエスです。音波増幅機能は使用可能です」
「よしっ。テントの内部に向けてくれ」
横道たちは内通者のテントに十分近づき、盗聴可能な場所で立ち止まった。
「増幅内容を再生します」
アールビーはそう告げると、テントの中の音を出した。
『――こっちは協力的に動いてやってるんだぞ。例の金をさっさと振り込みたまえ』
聞こえてきたのは男性の声だった。
『連中は馬鹿だからな。俺のタレコミを簡単に信じたようだ。痕跡だって? そんなもの消してしまったさ。私が疑われることはないよ』
男は自信満々に話し、自分の計画が完璧なのを疑っていなかった。
『例のデータはそちらに渡しておいたはずだ。私は巻き込まないでくれよ。私もキリのいいタイミングで離脱するから、それまで待ってくれたまえ』
以上がテント内でのやりとりだった。
「テントの中にテロリストもいるです?」
「いいや、音声が1人しか聞こえなかった。おそらく通信でやり取りしているせいだろ。だがこれで今度こそ証拠は出そろった」
横道はグッと親指を立てると、全員に指示した。
「武器はないが、これだけの人数がいれば十分だ。制圧するぞ」
横道の言葉に、その場の全員が頷(うなず)いた。
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