第21話 残るなぞ
「これを読んでみてください。」
「…なんや。ネコサライが置いていった手紙やないか。」
そう、そこには前に見た時と変わらず、
『ワタシハア、ネコサライデスウ。アナタノオ、ネコハア、モラッタヨオ。』と書いてある。
「相変わらずむかつく文章やな。」
「ここに犯人が誰か書いてあるんです。」
「そういえばわたしも持ってきた!」ヨッシーが思い出したように置手紙を取り出した。
「ええと、ネコハア、ネコサライガア、サライマシタア。カナシイデショウウ。って書いてある。…けど、犯人は『ネコサライ』ってことしか分からないんじゃない?」
「うん、このままでは意味は分からないの。ダイチくん、MAMの由来は?」
男の子とお母さんが猫に夢中になっていることを確認して聞く。
「なんだ。何度も何度も。街の、安全を、守る、をローマ字にしてその頭文字をとってMAMだ。」
そういった後にダイチくんは何かを感じ取ったような顔でこう続けた。
「もしかしてローマ字にすると言いたいのか?だが、それは無駄だ。俺だって秘密結社の一員、反対から読んでみたりローマ字にしたりいろいろ試したさ。けれど、文章からも『ネコサライ』って言葉からも何もわからなかった。」
「いいえ、ローマ字にするので合ってます。わたしもローマ字は苦手なので必死で昨日教科書と照らし合わせながらみたのですが…。」
わたしは昨日徹夜して書いたメモを取り出した。
「この手紙の文章をローマ字にしたものです。」
メモにはこう書いてある。
『WATASHIHAA、NEKOSARAIDESUU。ANATANOO、NEKOHAA、MORATTAYOO。』
「これを見て何か気づくことはありませんか?」
すると、アオイさんがあっと声を上げた。
「一区切りごとの終わりは同じアルファベットが2つ続いとる!」
「そうなんです。はじめ文章を見た時はこちらをバカにするためにあんな書き方をしていると思ったんですけど。これがキーポイントだったんです。この法則に従って『ネコサライ』をローマ字にします。『ネコサライ』はネコとサライの間で2つに分けられるので、それぞれの最後だけ同じアルファベットを繰り返します。」
「えっと、N、E、K、O、OとS、A、R、A、I、Iかな。」ヨッシーが言う。
そのとき、風が吹いてわたしが持っていた置手紙がふわっと飛ばされた。その途端にモモタとギンタがわたしの背丈くらいにジャンプしたかと思うと、バシッと手紙をキャッチした。しかし、2人一緒にキャッチしたので手紙はびりびりに敗れてしまった。
ばらばらになった手紙を地面でパズルのように並び変える2人を見て、ダイチくんがぼそっといった。
「並び変える‥‥。はっ、いや、そんな、まさか。」
「並び変えるんです。そのアルファベットを。ダイチくんはもう、分かったんですよね。ダイチくん、昨日の足取りをもう一度教えてください。」
「ああ。昨日は塾に行く前に大学に行って、その前に家で着替えたんだ…。」
ダイチくんがそこで口を閉じた。
「…その前は?スーツはどこで受け取ったんですか。」
「…ミエスギマートのとなりのクリーニング屋だ。『あおき空の家』って名前の…。」
NEKOOSARAII、並び替えるとAOKISORANOIEだ。
どうやらみんなそのことに気が付いたようで全員が黙ってしまった。
ダイチくんのスーツについていた猫の毛もダイチくんが受け取る前についたものなのだろう。
ダイチくんがスマホを取り出した。
「ボス。ダイチです。猫どろぼう事件の犯人は『あおき空の家』のおばさんです。…きっと店の中に特殊な染料があると思われます。…はい、それは‥‥」
ダイチくんが電話している間、わたしは4年前のことを思い出していた。わたしが7歳の頃、七五三に来た着物を『あおき空の家」にクリーニングに出したときのことだ。
「あおき、そら、の、いえ…。おばさん、なんで空の家なの?」
不思議そうなわたしを見て、おばさんはふふっとわらって
「天気のいい日の空ってとても気持ちいいだろう?わたしが洗濯した服を着て、みんなにそんな空にいるみたいにあったかくていい気分になってほしいからだよ。」といい、恥ずかしいから他の人には内緒だよ。と言った。
わたしにはいまだに分からないことが2つだけある。1つめはなんでおばさんがこんなことをしたのかということと、2つめはなんで犯人が分かるようなヒントを置手紙に書いたのかということだ。
「…はい。わかりました。失礼します。」
ダイチくんは電話を切り、「これからボス含めて警察で『あおき空の家』に向かうそうだ。これで俺たちの今回の任務は終了だ。みんなお疲れ様。」と言った。
そして、ふと思い出したように私の顔を見て「フタバ、俺はわからないことが1つあるんだが。俺はなんでスーツを着てくる必要があったんだ?」と聞いた。
「それは、スーツをどこで受け取ったか知るために…?あれ?ほんとだ。全然着てきてもらう必要なかったですね!」 猛暑に真っ黒のスーツを着ているダイチくんは真っ赤な顔で大量の汗をかいている。わたしのその返事を聞くと顔がさらに赤く染まっていった。
「フタバ!!!こんなの着てられるか!!」
ダイチくんは上着とネクタイを脱いでぶん投げた。
せみは相も変わらずジージーと鳴いている。
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