第9話 容疑者を捕獲せよ
ダイチくんのトランシーバーがジジと鳴った。
「上空を飛ばせてるドローンから確認したところ、2人が聞いてくれた通り、神社の中で休憩してるらしいはっぴの人間は4人や。1人は財布持ちながらたこ焼きの列にならんどる。もう一人は焼きそばの屋台の裏のとこで煙草吸いながらスマホ見てるわ。で、1人は入り口のとこで誰か待っとるみたいやな。ってかこのおばはん風船持っとんな。最後の一人は金魚すくいのおじいちゃんと話こんどるわ。」
「了解だ。」
ダイチくんはトランシーバーを握り直し、
「全MAM社員につぐ。容疑者を発見した。容疑者は全員ハッピを着ている。ただちに神社裏へ連れてくること。モモタはたこ焼きの列に並んでいる男性、ギンタは入り口で風船をもっている女性。フタバとヨッシーは焼きそば屋台の裏にいる男性を追ってくれ、俺は金魚すくいのところにいる男性を連れてくる。アオイはそのままドローンで4人の様子を見ていてくれ。犯人は風船のひもを切っていることから刃物を持っていることが考えられる。くれぐれも気を付けるように。」
「「「「了解」」」」
隣のヨッシーも口をそろえていったのでわたしも一歩遅れて
「りょ、りょうかい!」と言った。
たっとかけ出したヨッシーについてわたしも走り出す。焼きそば屋さんの屋台は確か出口の近く、ここからは少し遠いところにある。
前を走るヨッシーの帯が揺れている。
今日のヨッシーは、優しくて落ち着いた私の知っているヨッシーじゃない。なんていうか、もっと強いものを心に持っている感じがする。
ヨッシーの横に並び、わたしは話しかける。
「ヨッシー、あの…さっきのスタートとかストップってなんなの?」
「え、あぁ、うん・・・。フタバちゃんにはまだ言ってなかったよね。」
わたしたちは少しの間黙ったまま走り続けた。
「実は、わたし一回みたものは絶対忘れないんだ。」
「・・・え?」
ヨッシーの方を向くが、ヨッシーは前を向いて話し続ける。
「だから今まで見たものは全部覚えてる。だから、さっきも風船が飛んで行ったときの記憶を引っ張り出して、風船に近づいた人がいたかどうか探していたの。」
ぽかんとするわたしにヨッシーは続ける。
「説明しづらいんだけど、それぞれの映像が頭の中にDVDで保存されている感じで、自分が好きな時に取り出して、再生したり巻き戻したりできるって感じかな。…やっぱり変だって思うよね、こんなの。」
「え、それってすごいじゃん!!!」
わたしの言葉にヨッシーが驚いてこっちを向いた。
「そんなこと言ってくれると思わなかった…。もし周りの人にばれたら、変だとかみんな必死で勉強していろんなこと覚えようとしてるのにお前だけずるいって言われると思ってた。だから、少しでもみんなみたいに勉強しなきゃと思って、あの塾に行き始めたんだ。」
そういうことか。だから塾のことも私は知らなかったのか。すこしさみしくなったことを思い出す。
「でも、MAMで活動し始めて、この力がみんなの役に立ってすごく嬉しいの。フタバちゃん、ないしょにしててごめんね。」
わたしは全力で首を振る。
「フタバちゃんも今は自分の力が不安になるかもしれないけど、きっとその力もみんなの役に立つと思う!」笑顔でそういうヨッシーの瞳にはやはり強くて優しい何かを感じた。
でもヨッシーのいう人の役に立つってどんな感じなんだろう。わたしにはまだよくわからない。
もう少し走った頃、「あ!この匂い!」ヨッシーが前の屋台を指した。
「ほんとだ!焼きそば屋さんだ!ということは…」
焼きそばの屋台の裏を見ると、いた!
駄菓子屋のおじさんがスマホを見ながら煙草を吸っていた。
「「おじさん!」」
私たちに気づいたおじさんはにこっと笑い片手をあげた。
「おう、おふたりさん!今日はよく会うな。そんな息をきらしてどうしたんだ?」
「あの・・・ちょっと・・」どうしよう、神社の裏に連れていく理由を全く考えていなかった。
すると、ヨッシーが必死な顔になっておじさんにお願いする。
「もう一人、アオイっていう友達が神社の裏でケガしちゃったの。それで動けなくなっちゃって…おじさん、様子を見に来てもらえませんか?」
おじさんは「そりゃ大変だ!」といって神社の裏に向かって走り始めた。
ヨッシーはすごいなあ、おじさんとヨッシーの背中を見ながらそう思った。わたしは今日何にもできてない、ヨッシーはああ言ってくれたけどわたしはだれかの役に立てるそんな力なんてないよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます