第8話 やられた!!

 風船に注意しながら祭りを回っているが、未だ犯人は現れない。

 18時前にしてかなり人が増えてきた。


ドンドンドン、ドンドンドン、ドンドンドン


 大きな太鼓の音。お神輿だ。

 毎年お神輿とそれに続く保育園児のダンスが祭りの名物になっていて、地域の人みんなが見物に集まるのだ。今年は18時から神輿の予定だ。


 太鼓の音が繰り返されるうちにどんどん人が増えてくる。やはり犯人はこの時間を狙って風船を狙おうとしているのだろうか。


ドンドンドン、ドンドンドン、ドンドンドン…


 まずい、この人混みでは隣を通った人の顔さえ確認できない。


ドンドンドン、ドンドンドン、ドンドンドン…


 離れないようにヨッシーと硬く結んでいた手が離れそうだ。もう一度強く握りなおしたとき、わんわんという泣き声が聞こえた。


「僕の風船があ!」


 犯人が出没したらしい。ヨッシーと顔を見合わせる。


「わたしの風船…」

「あぁ、飛んでいっちゃったよぉ」

「風船がないよお・・・」


 次々と子どもの泣き声が響きわたる。

 上を見上げると、赤い提灯をすり抜けて、まだまだ明るい空にいくつもの風船が上っていくのが見えた。


 「フタバちゃん!!!」

 ヨッシーの声にはっとしてヨッシーとつないでいない方の手元を見ると、ただ白いひもだけがだらんとぶら下がっていた。


 やられた。


 ヨッシーの方を見ると、ヨッシーの手にも同じようにただのひもが握られていた。空には緑の風船を追いかけるように赤い風船が上っていくところだった。


「…わたし全然気づかなかった。」

 

「よしよし。大丈夫だよ。わたしも気づかなかったよ。」ヨッシーは落ち込むわたしの背中を優しく撫でた。


 2人で神社の裏側に回り込む。

 犯人を捕まえたり、風船を飛ばされたりしたらここに集合することになっている。


 待っていたダイチさんはわたしたちの握るひもを見て、やられたな。と笑った。

そしてヨッシーに向かって「どうだ?できたか?」といった。


「完璧です。」


「よくやった。早速確認してみてくれ。」


 完璧?何のことだ?ヨッシーはさっき気づかなかったって言ってたじゃないか。


 ヨッシーは目を閉じ、さらに手のひらで顔を覆った。ヨッシーがテストの前によくやっているのを見たことがある。


「…スタート。」ヨッシーがつぶやいた。


 少しの沈黙が流れた。

 …遠くにお神輿の音やカラスがカアーと鳴く声が聞こえる。


「ストップ。」ヨッシーがつぶやく。


「巻き戻し。」

「早送り。」

「ストップ!」

 そこまで言うとヨッシーは手のひらを顔から外し、ダイチくんの方を見た。


「ダイチさん!犯人は商店街のハッピを着ています!!」


「了解!よくやった!」


ダイチくんはそういうとスマホを取り出し、何かを思い出したようにわたしに聞いた。

「アオイ、風船が飛ばされたのは18時頃でいいんだよな?」

わたしは慌ててこくりと首を動かしたが、もう何がどうなっているのかわからない。


「モモタギンタ!犯人は商店街のハッピを着ている人間だ。誰が18時ごろに休憩を取ったか聞いてくれ。」

「「わかった」」


「アオイ。ドローンで上から商店街のハッピを着ている人間を探してくれ。場所が分かったら俺たちが捕まえに行く!」

「了解!」


 電話もかけずにすぐに3人の声が聞こえた。あれはスマホじゃないのか?不思議そうに見つめている私にダイチくんが気づいた。


「これか?これはトランシーバーといってな、この横の部分を押すだけで接続している複数のトランシーバーに一斉に連絡ができるんだ。アオイが目立たない方がいいだろうからってスマホ型に作ってくれたんだ。」


 へぇーアオイさんすごっ!ってそんなこと聞いてる場合じゃない。ヨッシーの「スタート」「ストップ」とかって何なのさ!?


 その時ダイチさんのスマホ型トランシーバーから声が聞こえた。

「ダイチさん、18時ごろに休憩を取ったのは」「僕が言うって!」「いや僕だ!」「僕・・・」


「どっちでもいい!!」


「「18時頃休憩を取ったのは、散髪屋のおじさん、八百屋のおばちゃん

金物屋のおじいちゃん、駄菓子屋のおじさんだよ!」」


「了解」


 さっき風船をくれた時に居た人達だ…この中に犯人がいるってこと…?そんな…。




 

 

 

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