猫どろぼう事件
第13話 こんなところに!!
浜田理髪店、とんび宅急便、酒吉・・・
改めてみるといろんな名前があるものだなあ。商店街を歩いていくといろんなお店が目に飛び込んでくる。「シャッター商店街」というのが問題になっていると社会で勉強したけど、この街の商店街にはほとんどシャッターはない。
「まだまだ負けてらんないからねえ!!」
いつかヨッシーのお父さんとお母さんがそう言って笑っていたのを思い出す。ヨッシーのおうちは商店街の中で「よしだベーカリー」というパン屋さんをやっている。今日は塾がお休みなのでヨッシーの家で遊ぶ約束をしたのだ。
前に見える「ミエスギマート!」と書いてある大きなメガネ型の看板はぼろぼろで全然ミエスギるようには見えないし、「あおき空の家」というクリーニング店のおばちゃんは暇そうにスマホを見ている。
大人になったらわたしは都会へ行きたいなあ。ヨッシーのお父さんお母さんや商店街の人には悪いけど、この街にもこの商店街にもおもしろいものってないんだもん。
少し先にシャッターの閉まっているお店が見えた。元は駄菓子屋さんだったところだ。
「子どもたちの悲しむ顔が見たかったんだ・・・。」
あれから駄菓子屋さんのおじさんの言った言葉が耳から離れなかった。優しいおじさんのいる駄菓子屋さんはこの街で少し好きだと思える場所だった。
シャッターに近づいていくと、
「このたび、一身上の都合で閉店することになりました。長年のご愛顧ありがとうございました。」と手書きで書かれた紙が貼ってあった。よくわからない漢字もあったが、やっぱりおじさんの字は優しい字だった。
張り紙を見ていると、すぐ横のほうからガサゴソっと音がした。音がした方に目をやると…
すぐヨッシーに伝えなきゃ!!
おじさんのこと、昨日は帰りが遅くなってお母さんにこっぴどく怒られたこと、その全部があの瞳に見つめられた瞬間に頭から飛んで行った。
急いで走っていくと、よしだベーカリーの前にヨッシーが立っていた。
「あっ!フタバちゃーん!」
「ヨッシー!ちょっと来て!」
わたしはヨッシーの手を引いて反対方向に走り出す。
「えっ?えっ?何?フタバちゃん!?」
そんなヨッシーの声にも反応せず、わたしはシャッターの前まで走る。そしてシャッターのわきに置いてある段ボール箱の前で立ち止まった。
「ちょっと?フタバちゃん?…ここって駄菓子屋さんだったところ…ってなにこれ!!かわいいー!」
「ごめん、ヨッシーいきなり連れてきちゃって!どうしても早く見せたくって。」
しゃがみこんだわたしたちの目の前には、「拾ってください」と書かれた段ボールとその中で行儀よく座る真っ黒な猫がいた。
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