第14話 真っ黒い猫

「かわいいねえ!」


 さっきからもう30回はその言葉を繰り返すヨッシーの横で、わたしは段ボールに書いてある字を見ていた。


「ねえ、拾ってください、ってことはこの猫、捨て猫なんだよね?」


 黒い猫がにゃおーんと鳴く。ヨッシーは黙っている。


「他より人通りが多い商店街に置いて、誰かに拾ってもらおうと思ったのかな。でも、こんな太陽の下で暑そうだよね…。」


 段ボールが下敷きになっていると言えども、その下はアスファルトだ。かなり厚いだろう。しばらくこの猫を見ていたわたしたちのあごからも汗がしたたっていた。喉が渇いているのか猫はその汗をなめようと段ボールから身を乗り出している。その様子をみたヨッシーがすくっと立ち上がった。手は固く握られている。


「わたし、この猫ちゃん飼うことにする!」


「えっ、でもおうちの人に反対されるんじゃない?」


「大丈夫!説得する。」

 

 ヨッシーは猫を段ボール箱ごとをぐっと持ち上げ、家のある方へ歩いて行った。最近のヨッシーはなんだか強い。


 よしだベーカリーの前までいくと、入り口の横に段ボール箱をおろし、猫とわたしにちょっと待っててね、と言って中に入っていった。


 ヨッシーがなにやらお父さんと話している。声は聞こえないが、ヨッシーのおとうさんの太い眉毛が上がったり下がったりしているのがわかる。少しするとお母さんも奥からやってきて、お父さんといっしょにエプロンを外し、こちらに向かってきた。


「あら、フタバちゃん!こんにちは。元気?フタバちゃんもあの塾に通っているそうね。」


「こんにちは。そうなんです。ヨッシー大活躍ですよ!」


「塾で大活躍?」ヨッシーのお父さんとお母さんが不思議そうな顔をする。


 あわててヨッシーが猫の方を指さす。

「そんなことより、さっき言ってた猫ちゃん!かわいいでしょ!」


「うーん、かわいいけどねえ。」お母さんがお父さんの方を見る。


「うちは食品を扱う店だから、動物を飼うのはちょっと厳しいものがあってなあ…。」


 しかしヨッシーも引き下がらない。


「この猫ちゃんがいたらきっと毎日楽しいよ!わたし、毎日この子のこときれいにするし、掃除だってする!魔女の宅急便でも、キキは黒猫を連れてパン屋さんに泊まってたでしょ?」


 すると、お母さんが笑い出した。

「ふふふ、じゃあわたしがオソノさんかあ。ねえ、お父さんここまでアカネが何かお願いすることもめずらしいし、いいじゃない。飼いましょうよ。」

 お父さんは腕を組みしばらく考えこんでいるようだったが、うんとうなずき口を開いた。

「わかった!この猫をわが家の一員にしよう!でも、お店の中や厨房には絶対に入れないことや掃除は徹底的にやること、これが条件だ。いいか?」


 ヨッシーがうん!とうなずいて、猫とわたしにピースをすると、猫がまたニャオンと鳴いた。

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