第15話 ネコサライ

 二日ぶりに塾に行くと、玄関を開けるなりヨッシーが走ってきた。

「名前、クロスケにしたんだ!」


 一瞬何のことかわからなかったが、一昨日一緒に見つけた猫のことだと思い出した。

「男の子だったんだね!たしかにきれいな真っ黒だったし、似合ってると思う!」


 わたしはクロスケの真っ黒な顔とブルーの目を思い出す。


「なんや犬でも飼ったんか?」

 アオイさんが興味深々で寄ってきた。

「一昨日、猫を拾ったんです!」ヨッシーが嬉しそうに答える。


 一通り拾った経緯を聞いたアオイさんは

「ヨッシーはクロスケめちゃくちゃかわいがってんやな!でも、なんや名前に色がつくやつがまた増えたな。」と言って笑った。わたしたちが、えっ?という顔をしていると、小さな声で「『居残り』組は、モモタ、ギンタ、アオイって色入ってるやつ多いやろ?それにヨッシーも下の名前アカネやし…」


 そこまで言った途端、後ろから声がした。

「3人とも何の話をしているのかな?今は勉強の時間だよねえ?」

 満面の笑みだが目が笑っていないダイチくんが立っていた。そしてさらにかづいて「塾の間MAMの話はしない約束だよな?」とわたしたちにぼそっとつぶやいた。そして思いだしたように「今日は3人とも『居残り』な!」と言って去って行った。


「地獄耳やなあ…。じゃ、勉強すっか!」アオイさんがパンと手を叩くのに合わせてわたしたちはそれぞれの机についた。


 ちらりとダイチくんを見ると、ヨッシーの方を心配そうに見ていたのが気になったがまた怒られるといけないのですぐに教科書を開いた。



 算数の問題がまだぐるぐる頭を回っている。むずかしすぎる。分数って何ですか?16時を回り、『居残り』が始まろうとしている中わたしの頭の中は数字でパンク寸前だった。


「みんな集まったな。実はボスから新しい事件の調査依頼が来てな。」


 ダイチくんが何枚もの紙を取り出す。そこには「猫探しています。」という文字と、それぞれ別々の猫の写真やイラストが描かれていた。


「これはこの街に張ってある、猫探しの張り紙だ。」


「こんなに?」アオイさんが不思議そうに言う。

 たしかにそんなに広くないこの街だけで、7,8匹の猫が同じ時期にいなくなるなんて不思議だ。


「最近、飼い猫が突然いなくなることが増えているんだ。それが今回の調査だ。」


「なんだ、そんなことかよ。」「ちぇっ。」

 なんだかつまらなさそうなモモタとギンタをヨッシーが睨む。いなくなった猫をクロスケに重ね合わせているのだろう。


「まあまあ、落ち着け。同時期にこの街だけこんなに飼い猫がいなくなるってのもおかしいんだが。実はこの猫たちはどうやら盗まれたようなんだ。これをみてくれ。」


 ダイチくんはもう1枚紙を取り出した。そこにはまるで誘拐犯が書いたような、物差しで書かれたカクカクとした字で次のように書かれていた。


『ワタシハア、ネコサライデスウ。アナタノオ、ネコハア、モラッタヨオ。』


 下には猫の肉球のようなイラストが描いてある。おかしな文章といい、なんだか悲しむ飼い主をバカにしているようだ。


「ねえ、何でこんなどろぼうがいるのに、もっと街のみんなに知らせないの?」わたしは思わず聞いた。


「気持ちもわかるんだが、下手に猫どろぼうとニュースにすればどうなる?そいつはこの街から出て行ってその猫も2度と飼い主の元に戻らないかもしれない。だがら、なるべく目立たず犯人をつきとめて、猫を取り戻す。そのために俺たちが調査するんだ。」


 わたしたちが猫どろぼうを捕まえる?そんなことできるのだろうか?


 ふと横を見ると、ヨッシーが猫探しの張り紙の猫を1匹1匹指で撫でていた。そして飼い主と離れてかわいそうに。とつぶやいたと思うと、「絶対わたしたちで捕まえる!」と立ち上がった。


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